これは、(公財)静岡県舞台芸術センター、SPACを調査している、大学院生による『イナバとナバホの白兎』を読者の皆さんと一緒に楽しむためのブログです!
『イナバとナバホの白兎』の注目ポイントやSPACの皆様が大切にしていることを、レポートします!
前回のレポートはこちらからお読みいただけます。私の自己紹介や作品の概要について書いております。
本日のテーマは『イナバとナバホの白兎』の創作過程です!
なぜ宮城さんが本作を創ろうと考えられたのかに関しては、こちらをご覧ください。
『イナバとナバホの白兎』の創作過程
ここから、本作品がどのようにして生まれたのか、について述べていきます。
芸術総監督、宮城聰さんへのインタビューや稽古見学、これまでの記事等を参考にすると、図1のように創作されたようです。
(「構造主義」や古事記、ナバホ族の神話伝承の関係等に関しては、前回のレポートにて説明しております!)
図1 『イナバとナバホの白兎』の創造過程(SPACのブログ、宮城さんへのインタビューより著者作成)
図1の様な流れで、約2か月かけて生み出されました。
その間には、他の2作品の本番や稽古も同時進行しており、3作品、もしくは2作品掛け持ちしている俳優の方もいらっしゃったようです…!
昼間に他の作品の本番や稽古を行い、それが終わると夜に本作品の稽古に合流し進捗を共有しあっていたようです。(メールでも稽古日誌を交代で書いて、その日の稽古の内容や決定事項を共有されていました。)
SPAC制作部の方から頂いた資料には、クロード・レヴィ=ストロースや構造主義、それぞれの伝承に関する書籍等がありました。その中には、文章の一部分に線を引き、それぞれの伝承神話のポイントと考えられるメモもありました。
そして、あらすじのみになった、それぞれの神話伝承を演劇とする過程では、配役を変えたりセリフを変えたり…毎日様々に変化していたと、宮城さんへのインタビューや俳優の皆さんとのお話から伺いました。
宮城さんも同時進行している作品の本番や稽古があったため、その日の終わりや途中に進捗を確認していました。その中で、少しずつ起源となる伝承神話を、台本を担当した久保田さんと考えていたそうです。
私は、宮城さんへのインタビューや上記を通して、宮城さんは俳優やスタッフの皆さんに、この作品の「構造」や「筋」を提示し、俳優やスタッフの皆さんがそれを語っているのではないか、と考えました。
宮城さんは本作品を創作する中で、俳優やスタッフの皆さんに構造主義の考えをビジュアル化することを求めていたそうです。
例えば、古事記における大国主命のエピソードは舞台上にあるカーテンの外側で「ムーバー」(動きを演じる人)が演じ、内側で言葉が述べられます(「スピーカー」⦅台詞をいう人⦆や地謡)。ナバホ族の伝承神話では、それが反転して、外側で言葉が述べられ(「スピーカー」やコヨーテソング)、内側で「ムーバー」が演じます(表1)。
起源となる伝承神話では、前半の演奏を男性が、対位法を女性が担い、中間はそれが反転します(表2)。(「対位法」については、後日詳しくブログで取り上げますのでお楽しみに!)
表1 それぞれの伝承神話による反転(稽古場見学により著者作成)
表2 起源となる伝承神話での反転(稽古場見学より著者作成)
上記のような「ウラオモテ」の関係を示すことのできる枠組みや循環的な時間感覚を示す四季の表現等を宮城さんが示し、その中でそれらをどのように表現するか、つまり語り口を俳優・スタッフの皆さんが示したのではないかと考えています。
第1部:大国主命のエピソード
第2部:ナバホ族の伝承神話
宮城さんへのインタビューの中で、伝承神話にはあらすじのようなものがあり、それを多くの人々が、語る場や語る相手に合わせて語り口を変え、時にはアレンジをしたという話を伺いました。
これと同じ構造が、上記の創作過程の中で起こっているのではないか、と私は考えています。
たくさんの声が集まった演劇、そして紡いでいくこと
私は、以上のことを調べたり、考えたりする中で『イナバとナバホの白兎』を、たくさんの声が集まった演劇と感じるようになりました。
気が遠くなるほど長い時間をかけて、長い距離を人々の口で紡がれ、変化し、旅をしてきた伝承神話を、宮城さん、俳優の皆さん全員で繋ぎ合わせ、さらに俳優、スタッフの皆さんで演劇として語ること…
これは、私を幾千の聞こえない声を聞いているような気分にさせるのです。
加えて、似たポイントや反転、循環的な時間等を提示されることで、根本的な考え方や世界認識は幾千の人々と共有し、今ここで生きているのだと感じさせられます。
そして、『イナバとナバホの白兎』は、俳優、スタッフが一部入れ替わりながら上演を重ね、2024年10月には3回目の再演が行われます。
稽古場見学をしていると、初演に参加していた俳優が、今回から参加する俳優に以前の経験談や演奏、対位法のメモを共有する場面がありました。次回以降のブログで詳しく述べていきますが、本作品は台本だけでは、初演を再現することは難しく、俳優同士の口伝や映像で蘇らせていきます。
この再演の過程の中で、少しずつセリフや動きも変わっており、再びたくさんの声が追加され、紡がれていくのだと感じています。
私たちも長い時間の流れの中に身を置いているのです。
本日は以上となります。
また次回もお楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!
★2024年9月20日(金)の稽古終わりに宮城聰さんにインタビューのご協力をいただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
村上瑛真(静岡文化芸術大学・大学院2年)
秋→春のシーズン2024-2025
#1『イナバとナバホの白兎』
<静岡公演>
2024年 10月19日(土)、20日(日)、27日(日)、11月3日(日祝)、4日(月休)、9日(土)
各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
<浜松公演>
2024年 12月7日(土)13:30開演
会場:浜松市福祉交流センター ホール
<沼津公演>
2024年 12月21日(土)13:30開演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
上演時間:110分(予定)
日本語上演/字幕あり(英語、フランス語、ポルトガル語、日本語)
*ポータブル字幕機の貸出サービス・お申込みはこちら(要申し込み/無料)
*公演詳細は↓バナーをクリック
*それぞれのポスターをクリックすると、2016年(左)・19年(右)上演時のブログをご覧いただけます(2016年初演時の文芸部・横山義志によるパリ日記はこちら)。