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2024年11月25日

SPAC『イナバとナバホの白兎』2024 レポート⑦

これは、(公財)静岡県舞台芸術センター、SPACを調査している、大学院生による『イナバとナバホの白兎』を読者の皆さんと一緒に楽しむためのブログです!
『イナバとナバホの白兎』の注目ポイントやSPACの皆様が大切にしていることを、レポートします!
前回のレポートはこちらからお読みいただけます。

本日のテーマは、前回に引き続き作品の紡がれ方です!
今回は、初演から出演している桜内結うさんと今回初参加の蔭山ひさ枝さんにインタビューしました!


 
桜内結うさんは、東京を拠点に活動していたク・ナウカ・シアターカンパニー(代表:宮城聰)に2000年に入団し、2009年からSPACの作品に出演し始めました。『イナバとナバホの白兎』の初演時から参加しています。

蔭山ひさ枝さんは、静岡を拠点に劇団渡辺のメンバーとして活動拠点を持つ演劇活動を模索されてきました。SPACの作品にも複数回出演されており、本作への参加は今回が初めてとなります。

今回も桜内さんと蔭山さんに対談形式でお話を伺いました。
出来る限りお二人の言葉を用いつつ、皆さんにもお伝えできるよう、一部抜粋して書いております。また、カッコ内は著者が補足として書き足しています。

 
初演から今回の再演へ

まず、桜内さんに初演時の挑戦的だったことを伺うと、やはり脚本も配役もされていない中での集団創作がチャレンジングだったそうです。

桜内 最初はそれぞれの神話から抜粋した短い場面を、シーンとして立ち上げる作業を毎日やっていました。例えば、ナバホ族の祭りを、3チームぐらいに分かれて、それぞれが文献や映像などを手がかりに創って発表し合う、というように互いにエッセンスを出し合って私達なりに紡いでいきました。ゼロから創るのは自由度が高くて楽しみも多いのですが、最終的に舞台に上げるもの(動きやエピソード、シーン)を選ぶのは難しくて、本当に時間がかかりました。
 
具体的なエピソードとして、第二部のナバホ族の神話で、父親を探す旅をしている双子が自身の父親である太陽の住処に向かう際に、アメンボの背中に乗って水を渡るシーンの創作についてお話しくださいました!

桜内 水を渡るシーン創りは本当に時間がかかりました。双子がアメンボの背中に乗って飛翔していく、世界が広がっていく、双子の出発がそこにあるという瞬間をどうやって表現するんだろう、って。今(作品が)出来てみれば、あの形があるけれど、なかなか着地点が見つからなかったです。(中略)私がナバホのおばあさんになったつもりで即興で歌ってみると誰かが踊りだしたりとか笑。そんな繰り返しの中で、どういうところを大事にしたいかを皆で突き詰めて考えて考え抜いた末にあの歌ができて、シーンの軸の一つになりました。

 
誰かが演じていると、誰かが別の方法で参加し、それが新たな気づきや発見に繋がっている場面を稽古場を見学した際に、私も観ていました。
このようにして約五か月間かけて、『イナバとナバホの白兎』の初演は出来上がりました。

そして今回の再演では、初参加の俳優が多くいらっしゃいます!
その内の一人でもある蔭山さんに、今回の出演でのエピソードをお伺いしました。
 

蔭山 今回は、割とスタートしたときは、もうついていくのが精一杯みたいな感じ笑。最初から一か月も(稽古期間が)ない状態だったので、「わぁどうすればいいんだー」って走ってきた感じなんです。でも、(公演)映像を撮ってあったものをたくさん共有していただいていたので、まずそれをとにかく観ていました。元々どのように上演していたのか、意図は分からないけれど形は覚えた!というような状態で稽古場に行きました笑。稽古が始まって、「これは、どういう…(経緯や意図ですか?)」というような話を、少し時間を見つけて前回から出演されている方に聞いていました。「意外とここは自由な感じなんだな」とか「ここは自由に演じてるように見えるけど、実は別のパートや人とタイミングを合わせているから、変えてしまうと大変なことが起こるんだな」とか、自分なりにパズルを埋めていく感覚です。皆さん親切に前回までのことを教えてくださるので、すごくありがたくって。とはいえ、皆も忘れていることもあって笑、「どうしてだっけ?」って皆で考えたりしながら稽古を進めていました。

 
前回、ブログの第6弾でお話を伺った宮城嶋さん、渡邊さんも公演を下敷きに、形だけ先に完成させていました。やはり、まずは形だけでも出来るように練習して稽古に向かっているのですね。
稽古期間中は、楽屋でも他の出演者の方に、アドバイスや前回までの経験を聞いていたそうです!楽屋とは、公演時や稽古時に俳優の皆さんやスタッフの皆さんが休憩したり着替えたりするための部屋のことを指します。比較的みなさんがリラックスできるお部屋です。
 

蔭山 今回初参加の出演者の楽屋を(1部屋に)まとめてもらっていたことが、とてもありがたかったです!分からない場面についてざっくばらんに確認しています。けれど、楽屋で聞いて誰も分からなければ、先輩に聞くしかないこともありました笑。誰かが、「それ、△△って〇〇さんが言ってましたよ!」みたいに教えてくださるので、「そうだ!ありがとう!」みたいな会話をしていました。

今回の再演では、出演者の皆さんも新しい方が参加したり配役が変わっていますが、作品を主に鑑賞する観客も変わっています。
初演、前回の公演は主にフランスのケ・ブランリー美術館の中にあるレヴィ=ストロース劇場で行われ、フランス人の観客が多くいらっしゃいました。一方で、今回は静岡県内の劇場での上演で、日本人の観客が多くなっています。特に、静岡県内の中高生が鑑賞する中高生鑑賞事業「SPACeSHIP げきとも!」での上演も行われ、中学生や高校生が多く鑑賞します。

桜内 レヴィ=ストロース劇場では、言葉も文化的背景も異なるパリの観客を前に上演するという前提でした。しかもケ・ブランリー美術館のアジアの生活用品や伝統工芸品、お祭りの道具、楽器などの展示品を見てから、劇場に到着するので、お客さんがもうすでに(神話やお祭り、伝統的な雰囲気の)感覚を持っているんです。それに、日本というフィルター(仕草や衣裳)に対して身を乗り出して観てくれるんですよね。おじきしたり正座をするだけでも異文化を感じて好奇心を持って観て下さる。

ですが、今回の上演は中高生のお客さんも多くて、言葉も通じるし日本の伝統的文化や風土も共有しているし、さて、どうしようか、、と。

そこで、観るお客さんや状況の前提に合わせて、作品を少しずつ変化させているようです。
 
桜内 今回の稽古場では俳優同士で話し合って変えた部分もたくさんあります。例えば、第1部(大国主命に関する古事記のエピソード)の地謡(複数人で節をつけ、場面や情景を説明する謡)のスピードが前回よりも速くなっています。「めーとらんーとするーはやーかみーひめー」っていう場合、フランス語の字幕を見ながら声を聞くお客さんは一音づつが長くても意味は理解できるけど、日本のお客さんは文章としてまとめて捉えるから、聞き取りやすいスピードに直そうよ、って。
 
初演から今回の再演へ

ここまで、初演時のエピソードから今回の再演でのエピソードなどをお二人に伺ってきました。前回までの上演を踏襲しつつ、改めて経緯や意図を考えて新たな出演者で再構築してきたことが分かります。
けれど、何もないところからの創造や構造主義や神話を扱うことに関して不安に思う部分もあったようです。

桜内 (構造主義などを)どこまで理解できているかは不安もあります。角度が変われば、それは違うんじゃない?って意見もあるかもしれない。「元になる神話」の創作過程は、私たちなりに最大限かみ砕いて進んできてはいるけれど、それが合っているかどうかという判断基準はどこにもありません。けれど、再演(2019年)の時にレヴィ=ストロースの奥様が観に来てくださって、私たちが自分たちなりに創った作品に対して拍手してくださったんです。そして笑顔で帰られた時は、本当にふうーって安堵した気持ちになりました。

また、神話の持つ強さやこれから観る人への思いを伺いました。

桜内 世界中の多くの文化に存在する「創世神話」を、私たちの手で演劇として形作ってしまうというのは、とても恐れ多いことだと思っています。だからこそ、何か強いもの、確かなものを手繰り寄せたいと思いながら、いつも上演しています。
信じている宗教や思想、信仰の有無に関わらず、自分たちの祖先がはるか昔、神と出会って、神の愛を受けた、という創世の神話は、その子孫の自分たち一人一人も特別な存在なんだと物語ってくれます。なぜ生きるんだろう、なぜ死ぬんだろう、自分はどこに向かえばいいんだろうと不安になったとしても、自分や周りの人、亡くなった祖先やこれから生まれる子孫も特別な存在なんだと知らせてくれる神話は、長い歴史の中で人に生きる力や強さを与えきたんだと思います。
神話を紡ぐ私たちの営みが、観てくださる方にとって少しでも力になるような、微笑んでもらえるような作品にしたいと、いつも思っています。

蔭山 最初の稽古から今(10月16日)の時点で、とても進化して変わっています。12月まで公演があるので、どう変化しているのか楽しみです。10月の初めに観た方は、「絶対にこれは後半になると色々なところが変わるな」と言って、何回か観に来る予定を立てていました笑。(一般的な演劇公演だと2週間ほどの公演期間に対し)公立でロングランで上演されるから出来る楽しみ方だと思う。まだ一般公演もあるし、俳優としても自分と作品がどんどん更新されていくのがとても楽しみです!ドキドキするけれど。

桜内 限られた稽古期間の中で、まずは初演と再演を踏襲して復元する必要があったので、初めての出演者には説明不足のところもたくさんありました。でも個々の俳優がその分からないところを考えていく作業こそが新しい道ににも繋がるので、そこに再演を重ねる意義がありますよね。
今後は今回のメンバーでしか出来ない「イナバとナバホの白兎」をもっと掘り下げていく日々です。

 
初演から今回の再演へ
これまで、SPAC作品の特徴や『イナバとナバホの白兎』の創作過程について多くの方のお話を伺い、皆さんにシェアできるようにブログにまとめてきました。
SPAC作品の観客の一人として、本作についてSPACの皆様のお話を伺う中で人間の演劇的行為の普遍性について考えました。
ここで述べる演劇的行為とは、身体や語り、歌、音楽等を複数用いて表現することを指します。

多くの文化で神話や伝承は人から人へ、大まかな筋に様々な語り手のオリジナリティを用いて語られました。または、神楽などを通して神話を多くの人に伝えるものもあります。
いわゆる台本を用いた演劇では、登場人物の台詞やト書き(台詞ではなく情景等を示す文)が指定されることがありますが、それも完全な上演形式ではありません。また、今回の桜内さんのお話から、評価を得た作品の映像や音声での記録を用いて完全に再現をしても「良い公演」にはなりづらい作品もあります。
「良い公演」の基準の一つには観客に思いが届くかどうかがあると思います。

これらは、決められた枠組みや決まり事があるものの、「良い公演」までには空白が存在しており、その空白をどのように埋めていくのか、もしくは広げていくのか、という(再)創造していく段階を経て、公演が出来上がるのではないかと考えました。
そして、それらは完全には後世に残すことが不可能でもあります。

『イナバとナバホの白兎』では、台本や映像が残っており、初演時からの参加者の記憶、メモがありました。それらを再演するという枠組みがあります。しかしながら、その枠組みを変えたり新しく創ったりすることで空白を広げているのではないかと考えました。また、SPAC作品の特徴や身体性、演奏、対位法等を習得することで、空白を埋めていくことだと考えられます。

以上が、演劇的行為の普遍性の一側面です。
けれども、なぜ私たちは後世に完全に残すことの出来ない方法を今でも行っているのでしょうか?

演劇的行為でしか伝えられないものがあるからではないかと思います。
私たちは、誰かに何か伝えたいものを持っている時に、日常生活の言葉や文字だけでは伝えきれず、表現を行うと考えると、絵画や文学、音楽など様々な方法があります。演劇的行為もその一つに含まれます。
演劇的行為は、日常的な言葉に収まりきらない複雑な感情や言葉では表現できない世界の成立、人間の起源、思想などを、語り手や俳優の身体を通して伝えたり、伝承したりすることとも言えます。そして、伝えるために、そしてそれを受け取るために互いに考え続ける行為とも言えます。それは具体的な手法についてだけでなく、伝えたいこと、伝えられたことについて深く理解するための思考も含まれています。

だから、私たちは技術が発展しても、場所が異なっても、時代が変わっても、演劇的行為をやめられず、人間の普遍的な行為なのではないか、と改めて考えました。

今回で私のブログは終わりとなりますが、12月まで『イナバとナバホの白兎』の公演は続きます!
是非作品を観て、一緒に考えましょう。何を考えるのかは人によって異なるのかもしれません。けれども、考えたことをシェアすることで新たな発見を得られることもあると思います。

SPACのファンの皆さんと一緒に私も考えていきたいと思います!
これまで、ブログをお読みいただき、ありがとうございました!

★2024年10月16日(水)の稽古前に桜内結うさん、蔭山ひさ枝さんにインタビューのご協力をいただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。

村上瑛真(静岡文化芸術大学・大学院2年)


秋→春のシーズン2024-2025
#1『イナバとナバホの白兎』

<静岡公演>
2024年 10月19日(土)、20日(日)、27日(日)、11月3日(日祝)、4日(月休)、9日(土)
各日14:00開演

会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
 
<浜松公演>
2024年 12月7日(土)13:30開演
会場:浜松市福祉交流センター ホール
 
<沼津公演>
2024年 12月21日(土)13:30開演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
 
上演時間:110分(予定)
日本語上演/字幕あり(英語、フランス語、ポルトガル語、日本語)
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*公演詳細は↓バナーをクリック

 
*それぞれのポスターをクリックすると、2016年(左)・19年(右)上演時のブログをご覧いただけます(2016年初演時の文芸部・横山義志によるパリ日記はこちら)。