SPAC演劇アカデミーでは「小論文」に取り組んでいます。2024年度は狭義の「小論文」にこだわらず、クリエイティブ・ライティングにも挑戦しました。その成果物である「冬への約束」を公開したいと思います。
これは、「冬への約束」というタイトルの作品を書いてみよう、という課題に応えて、アカデミー4期生たちが執筆した作品を集めたアンソロジーです。タイトルのみがあらかじめ決められていて、そのタイトルから何を連想し、どんな内容をどのような形式で書くかは各人の自由、エッセイでも詩でも戯曲でもなんでもOK、と設定しました。蓋を開けてみたら戯曲を選択したメンバーが多かったのは、もともと演劇への関心が強い面々だからこそ、ではありましょう。
「冬への約束」というお題の由来は単純で、2024年11月頃に取り組んだ課題だったため、「これから本格的に冬が来る」という季節感をひとことで表現したという、ただそれだけのことです。しかしこのタイトルからして既に、「これから冬に向かうに当たって誰かと交わした約束」とも受け取れるし、「冬という(擬人化された)存在と交わした約束」とも受け取れる、多義的なワードではあります。実際、このタイトルから何を連想するかは十人十色で、タイトルを共有するという縛りがあるおかげで、却ってメンバー各人の個性がはっきり浮かび上がった点が、このアンソロジーの魅力ではないかと思います。その一方で、これまた面白いことに、各作品に共通するイメージも透けて見えました。それは「逃げる」ということ。冬は「逃げる」季節。お互いの書いた作品を鑑賞し、感想を共有しながら、ではなぜ冬は「逃げる」季節なのだろうか?と議論したりもしました。皆さんも、この「冬への約束」を読んで、考えてみて下さい。
ちなみに、このお題に続いて挑戦した2024年度の最後の課題は、SF作家アーシュラ・K・ル=グウィンの短編小説「オメラスを歩み去る人々」(多数の幸福のために少数を犠牲にすることは許されるか?という倫理問題を扱ったファンタジーで、哲学者マイケル・サンデルが言及したことで注目を集めました)を題材として、まずこの小説の感想を書き、次に「オメラスを去った人々はどこに行ったのか?」というタイトルで、この小説の続編(二次創作)を執筆するというもの。これもまた力作・傑作が揃いました。
「なんでもいいから自由に書いてみて」と言われると、却って何も書けなくなってしまうのが、表現者にありがちなことではないかと思います(私自身、「なんでも自由に」と執筆を依頼されるのが、いちばん苦手です)。そこで、緩やかな制約を自らに課すことにより、手がかりをつかみ、言葉にならないモヤモヤを言葉にできるようになる——それが、このクリエイティブ・ライティングの面白いところだと、今改めて思います。人間は、不自由と格闘することで、初めて自由になれるのかもしれません。その成果を、どうぞ存分にお楽しみ下さい。
大岡淳(おおおか・じゅん)
演出家・劇作家・批評家。1970年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業。現在、SPAC文芸部スタッフの他、株式会社ゼロメガ相談役、武久出版株式会社編集部顧問、河合塾コスモ講師を務める。編著に『21世紀のマダム・エドワルダ』(光文社)、訳著にベルトルト・ブレヒト『三文オペラ』(共和国)がある。
★「SPAC演劇アカデミー」とは
「世界にはばたけ、Shizuoka youth! SPAC演劇アカデミー」は、2021年度に開校した<世界で活躍できる演劇人>を目指す若者の感性を育むことを目的とした高校生対象の1年制の演劇塾です。劇場に通いながら、SPACの創作現場の“熱”をじかに感じられる環境の中で、少数精鋭の高校生たちが切磋琢磨する--そんな場をつくります。2024年度より23歳以下のオーバーエイジ枠を設置。SPACの俳優・スタッフらによる指導のもとで演劇を学び、名作戯曲の上演に向けての稽古に取り組むと同時に、教養、小論文、英語の学習にも力を入れ、思考力・対話力を身につけていきます。詳しくはこちら
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