2017年11月10日

『変身』日記2017 #5 ~音楽・阿部海太郎さんインタビュー~

Filed under: 『変身』2017

『変身』で音楽を担当していただいている阿部海太郎さんに、作曲家としてこれまでの舞台芸術との関わりについて伺いました。開口一番、「『変身』の再演はすごく嬉しい。」と話す阿部さん。「舞台の中の音楽のあり方」について興味深いお話も伺うことができました。

Umitaro Abe
阿部海太郎(あべ うみたろう)
umitaro_portrait_RyoMitamura作曲家。幼い頃よりピアノ、ヴァイオリン、太鼓などの楽器に親しみ、独学で作曲を行うようになる。東京藝術大学と同大学院、パリ第八大学第三課程にて音楽学を専攻。自由な楽器編成と親しみやすい旋律、フィールドレコーディングを取り入れた独特で知的な音楽世界に、多方面より評価が集まる。2008年より蜷川幸雄演出作品の劇音楽を度々担当したほか、舞台、テレビ番組、映画、他ジャンルのクリエイターとの作品制作など幅広い分野で作曲活動を行う。現在放送中のNHK『日曜美術館』のテーマ曲を担当。2016年に5枚目のオリジナルアルバム『Cahier de musique 音楽手帖』をリリース。 www.umitaroabe.com

 
 
作曲家として活躍するまでの道のり
――どのように作曲を始めたのですか?
小さい頃からヴァイオリンを習っていました。レッスンはすごく厳しくて、使っていたヴァイオリンには涙のあとが…。泣きながら練習していました(笑)。それに比べてピアノは自由だったので、作曲みたいなことをピアノでするのが好きでした。
中学生のときに作曲のレッスンを受けたのですが、「こういうメロディの動きはよくありません」というような理論の勉強ばかりで、自分には合いませんでした。自分の考える作曲とは全く真逆の世界で、すごくショックを受けたのを覚えています。作曲の勉強をするよりも、たとえば音楽史や民族音楽とか、音楽についての知識を深める方が、自分にとっては糧になるような気がして、大学では楽理科という音楽研究をするところへ進学したんです。いわゆる作曲はほとんど独学ですね。いまも勉強し続けている気持ちです。

――舞台音楽の作曲をするようになったのはどうしてですか?
「こんな作曲家になりたい」と強烈に思ったきっかけは、映画音楽でした。高校時代に色々な映画を観ていたんですけど、特にヨーロッパの古い映画は音楽の使い方も、音楽自体もすごく面白い。何かのためにデザインされた音楽というのか、ただ音楽をつくるだけじゃなくて、音楽がどういう風に立ち現れてくるかということですかね。劇伴(演劇や映画に使われる音楽)でしか出来ない表現にすごく興味を持ったんです。大学時代には友達の映画とか小さいお芝居とか、自分が専攻していた音楽研究とはまったく別のところで作曲もしていました。
大学での研究は「音楽とは何か」を考える哲学的なことだったので、これはもう一生かかっても答えが出ない。そういうことを自分自身の問題として抱えていけたらいいなと思ったときに、作曲をもうちょっとやりたいと思ったんです。

留学から帰った頃、縁があり蜷川幸雄さんが演出する『エレンディラ』という舞台に、音楽アシスタントとして飛び込みました。音楽はイギリスの作曲家・マイケル・ナイマンさん。僕自身、舞台も好きだったし、ナイマンさんのことも尊敬していたので、良い勉強になると思ったんです。でも、そのときは本当に大変な思いを…2人の間で板挟みになって…(笑)。
稽古の合間に、蜷川さんが僕のアルバムを聴いてくれて、2008年の『リア王』という作品からたびたび音楽を手掛けさせてもらうようになりました。

蜷川さんに学んだ「舞台のなかでの音楽のあり方」
――蜷川さんの現場はどうでしたか?
怒鳴られながらやっていました…(笑)。その後、約8年間にわたり14作品をご一緒したのですが、最初の2,3年くらいの間は毎回「もう二度とやりたくない、今回だけにしよう」と思っていました(笑)。でも、ちょっとしたタイミングで蜷川さんが「すごいよかったよ」とか、ぽろっと言ってくれるんですよね。
そんなにたくさん蜷川さんとお仕事すると思っていなかったので、分からないものですよね。蜷川さんの現場で積んだ経験から、舞台のなかでの音楽のあり方について理解が深まっていったんです。

――「舞台のなかでの音楽のあり方」というのは?
ダンスとかミュージカルではない、いわゆるストレートプレイ(会話劇)って、究極的には音楽が無くてもいいと思っています。すごく素敵な役者さんが集まっていれば、お芝居だけで成立する。じゃあ、なんで音楽が必要なのか。そこを常に考えています。音楽があることでものすごい効果を生む。そういうときにこそ音楽があるべきだと思っています。

――『変身』初演時の現場はどうでしたか?
音楽は根本的に「言葉ではない世界」なので、今回の『変身』を演出する小野寺修二さんのフィジカル(身体的)な表現にはものすごく共感します。言葉の向こう側だったり、もしかしたら手前であったり、それを立体的に追求していく現場は楽しかったです。「言葉でないもの」でしか得られないイメージとか、「言葉でないもの」の文法でしか辿り着けないものを何か見つけたいと思いながら作曲をしました。
SPAC俳優のみなさんに関しては、独特の作り方をする演出家を前にして、正しくリアクションをできるというのが、すごいなと思いました。「正しく」というのは、正しい答えを出すという意味ではなくて、ちゃんと稽古に臨めるということ。いわゆるストレートプレイの考え方をすると、『変身』は俳優の身体的にものすごく矛盾する部分があるはずなのですが、稽古場で疑問に思ったり矛盾に感じたりすることが出てくると、まずはそれをやってみる。やってみて発見する。そういう姿勢がすごいなと思いました。

写真1104_2

写真1104_3

小野寺さんの想像以上のところに打ち返す
――小野寺さんとの現場で覚えているエピソードはありますか?
小野寺さんにはマイムを舞台芸術として飛躍させようという思いがあって、それは相当大変だったと思うんですよね。みんながまだ持っていないイメージでも、「なんとかそれをやるんだ」って、あの小さい身体から弾丸のようなエネルギーで役者やパフォーマーと対峙して飛び込んでくる。その感じがすごく魅力的ですよね。
同じように僕にも「どういう音楽が必要なんだ」という思いをもって飛び込んでくれて、それがとても嬉しかったです。あとは飛んで来た球を、小野寺さんの想像以上のところに打ち返してやりたい、という思いがある。だから実は『変身』では、何回か僕の方で音楽を変更させてもらっています。
たとえばエンディングのシーンでは、自分が作った曲でしばらく稽古を続けていましたが、「なんか違うんじゃないか」とずっと思っていたんです。エンディングでは、冒頭から一度も出てこなかった音を使って、もうひとつ違う次元に行かないといけない気がして。それで舞台稽古が始まった頃に、小野寺さんに改めて別の音楽を提案しました。
普通、舞台稽古くらいになるとなかなか変更が難しくなるのですが、最後の最後まで色々なチャレンジができたので、自分もあの場面とそのときの小野寺さんとのやりとりをすごく覚えています。

写真1104_4
▲エンディングのシーン。オルゴールが儚く鳴っている。

――『変身』をご覧になるお客さんへメッセージをお願いします。
カフカの『変身』は男が虫になるお話として有名なのに、小野寺さんの演出では「虫」そのものは一度も出てこない。そこがこの作品のすごいところだと思うし、小野寺さんじゃないとできないこと。先鋭的なアプローチでつくられたこの舞台は、静岡でしか観られないので、ぜひ楽しんでください。

<オマケ>最後に少しだけ、海太郎さんの素顔に迫ってみました!
――最近、やってみたいこととか、はまっていることとかありますか?
4月に引っ越しまして、やや広めの庭があるんですけど…庭いじりにはまっています。これがね、かなり新しいんですよ、僕にとって。いままで全くやったことがなくて。
音楽って自分ひとりの仕事だけど、誰かに聴いてもらったりして、外に向けてやることじゃないですか。でも庭って、ときどき来客があったとしても基本的には誰も見ない。いままでの人生で、自分の内側に向けて何かをするようなことはしてこなかった。内側の世界を深めていくとか、広げていくとか、追求していくみたいな感覚が本当に新鮮で楽しいです。
 

================
SPAC秋→春のシーズン2017-2018 ♯2
『変身』
2017年11月18日(土)、19日(日)、25日(土)、26日(日)、
12月3日(日)、9日(土)、10日(日) 各日14時開演
演出:小野寺修二
原作:フランツ・カフカ
音楽:阿部海太郎
出演:大高浩一、貴島豪、榊原有美、鈴木真理子、たきいみき
   武石守正、舘野百代、野口俊丞、宮城嶋遥加、吉見亮
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
================