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2012年9月29日

『夜叉ヶ池』舞台音楽 棚川寛子さんインタビュー


中高生鑑賞事業パンフレット連動企画◆

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舞台音楽 棚川寛子(たなかわ ひろこ)
宮城聰演出作品の音楽を数多く手がける。
近作に『グリム童話』『真夏の夜の夢』

Q.舞台音楽というのは、どのようなお仕事ですか。
棚川:舞台に音楽として関わる場合、普通は舞台とは別のところでも音楽家として活躍されている方が、舞台作品のために作曲や演奏をするということがあります。私の場合は、もともと演劇やダンスといった舞台が好きでこの世界に入ってきたのですが、いつのまにか気がついたら舞台の音楽をやっていました。

Q.音楽や舞台音楽に関わることになったきっかけを教えてください。
棚川:学生時代には演劇やダンス、パフォーマンスをやっていたんです。それで大学を卒業した後に、アルバイトをすることになるんですが、どうせやるなら舞台に関われるものがいいなと思って、PARCO(パルコ)劇場の稽古場のアルバイトを始めました。先輩にすすめられたんです。そこでは当時、月曜から金曜まで演劇やバレエなどのレッスンが開講されていました。ある時先輩に、矢野誠さんの音楽のクラスが今度1年間あるから、お前も受けてみろと言われて、そのクラスをなりゆきで受講したのが音楽との出会いでした。それまで楽器をやったことは全くなかったんです。だから、まさかその後、自分がこうして舞台の音楽の仕事をすることになるなんて、思ってもみませんでした。矢野さんのところでは、楽器をやったことがなくても、耳で覚えてリズムをやれと言われ、朝から晩までとにかく太鼓を演奏していました。でも、そのクラスが終わってからは、しばらく音楽からはまた遠ざかっていたんです。
その後、宮城(現SPAC芸術総監督)さんと同じ舞台に関わらせてもらうことがあって、その時に芝居の中にいくつか音を入れたのが、音楽で舞台に関わるようになったきっかけです。宮城さんとは、それからずいぶん長い間一緒に仕事をさせていただいて、『天守物語』(1996年初演)のあたりからは、使用楽器も多くなって、かなりボリュームのある音楽を作品の中に入れるようになってきました。

Q.棚川さんの音楽を聞いていると、俳優の台詞(せりふ)や動き、演出と音楽がすごく密接に結びついていると感じますが、実際あの音楽はどうやって作られているのでしょうか。
棚川:音楽は作品が出来上がってから付けるのではなくて、音楽も創作の最初から舞台制作の現場に入って作っています。私が関わる作品は、基本的に出演する俳優が楽器を生演奏するんですが、曲は稽古(けいこ)の中で、俳優との共同作業で作ります。

Q.事前に台本を読んで曲をイメージしたり、作曲したりもするんですか。
棚川:台本を読んで、自分の頭の中に浮かぶイメージというのは、あるにはあるんですが、稽古場では、台本を1人で読んでいる時以上に、新たな情報が加わって、曲のイメージが湧いてくるんです。だから、事前に曲を完成させて、それを稽古場に持っていくようなことはほとんどありませんし、時には、俳優からのアイデアや要望を取り入れていくこともあります。そして、稽古場で俳優のしゃべる声や身体、あるいはその物語が持つ質感や、各シーンが持つ情景や感触、感覚のようなものを音にしていきます。曲作りは、視覚的な情報だけに頼らずに、他の様々な感覚も使ってとらえたものを、白いキャンパスに配置していくような感じです。音楽に限らず、舞台を作る時には、その場で自分の身体を通じてしか感じることのできない感覚的なものを手がかりに手探りしていくことが、すごく大事だと思います。
だから、そこで私の作る音楽は、舞台の要素の1つであって、音楽だけで完成するものではないんです。俳優がいて、身体があって、台詞や動き、空間や演出といった様々なものが全て合わさって、ようやく完成します。

Q.稽古場で、具体的にはどのように音楽が作られていくのでしょうか。
棚川:演奏に使用する楽器は主にパーカッション(打楽器)です。曲作りは、稽古場で短いリズムのフレーズを、1人の俳優に繰り返し演奏してもらうところから始まります。繰り返されるフレーズにまた様々なフレーズを重ねて、1人1人の俳優の演奏が層のように合わさっていき、1つのシーンの音楽を作り上げていきます。30分で完成することもあれば、3時間かかることもあります。それだけの時間をかけてみんなで作っても、それがそのシーンの演出で求められるものと違うと分かれば、全くゼロから作り直すこともあります。

Q.『夜叉ヶ池』の音楽の聞きどころはどこですか。
棚川:『夜叉ヶ池』の後半、男性陣が団扇(うちわ)太鼓を演奏しているシーンは、見応えがあると思います。舞台上で、台詞をしゃべり、動きもある中で、同時に演奏しています。それに加えて、みんなが同じリズムを叩いているのではなくて、いくつかのグループごとに別々のリズムを叩いているので、俳優にはかなり高度なことが要求されているのではないかと思います。

2009年再演 写真撮影:原田さやか

(2009年再演 写真撮影:原田さやか)

それから、この作品では、実は出演している俳優の全員が、かなりの量の演奏を舞台裏でこなしているんです。舞台裏で演奏する俳優は、自分のパートを演奏しアンサンブルの音を聞き、同時に舞台上で起きている事にも耳を開き、演じている俳優の台詞を聞き、体の動きを見ています。それらをきっかけに音を出したり、音量を調整したりと、常に自分の意識をあらゆる方向に張りめぐらせながら演奏しているんです。そうやって、芝居と音楽、さらには舞台空間にあるもの全てが一体となって、1つの作品世界ができあがっているんです。そんなところにも意識を向けながら、『夜叉ヶ池』を楽しんでもらえたらうれしいです。

棚川さんが手がけたSPAC作品の舞台音楽はYouTubeでも一部を聴くことができます。
『夜叉ヶ池』
『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』1
『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』2
『グリム童話~本物のフィアンセ~』の稽古風景(静岡新聞 しずおか音楽の現場) 

※中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。今回パンフレットとSPACブログの連動企画として、パンフレットにある棚川寛子さんへのインタビューのロングバージョンをこちらに掲載します。
鑑賞事業パンフレットは、一般公演でも物販コーナーにて販売しています。

鑑賞事業パンフレット『夜叉ヶ池』

鑑賞事業パンフレット『夜叉ヶ池』