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2020年1月24日

『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』スタッフインタビュー

◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」パンフレット連動企画◆

中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。パンフレット裏表紙に掲載しているインタビューのロングバージョンを掲載します。
『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』にて照明操作を担当する樋口正幸(SPAC創作・技術部 照明班チーフ)に照明の役割やお仕事について訊いてみました。舞台のお仕事に興味のある方はぜひお読みください。(インタビューは2019年11月16日に行ったものです)
 
 
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--どのように照明の仕事を始めたのですか?

 照明をプロの仕事として始めたのはSPACに入ってから。それまではサラリーマンをやりながらアマチュアで演劇活動を続けていて、役者として舞台に立つこともあれば、照明を担当することもありました。SPACが設立された年に団員募集のオーディションがあったのですが、照明スタッフでも募集があるのを知って、そのときに照明家として生きていこうと思ったんです。

 最初に演劇を始めたのは大学生のときで、照明もそのとき始めました。当時はインターネットもないから独学で本を読んだり、テレビ局の照明アルバイトにいって教えてもらったり、地道に学んでいきました。学生の頃は自由な時間がたくさんあったので、徹夜で色々なことを試したりして。実践で学ぶことが一番多かったですね。
 
--舞台作品における照明の役割について教えてください。

 照明の役割は「視覚」「写実」「審美しんび」「表現」の4つに分けられると言われています。「視覚」は「見せる」こと。劇場の中は真っ暗なので、そもそも明かりをつけないと何も見えない。まずはお客さんに俳優の姿が見えるようにすることが基本にあります。逆に、見せたくないものに明かりを当てないことも重要で、「何を見せる/見せないか」を考える仕事ですね。
 次に「どう見せるか」を考えます。「写実」というのは季節感や時間の移り変わりなどをお客さんに伝えること。たとえば太陽の光といっても昼と夜とでは明るさや色は変わってきますよね。「審美」というのは、どのように美しく見せるかです。演劇も芸術作品なので「美しく」見せる必要があります。最後の「表現」というのは、たとえば登場人物の心理状態などを照明で表現することです。俳優が一人で立っていて、頭上からそこだけが照らされていれば、お客さんは孤独を感じるかもしれない。逆に下からだけ光を当てれば、お化けみたいにも見える。明かりの当て方によって見え方を変えることができるんです。
 大切なのは、演出家が表現しようとしていることを理解して、それをどのように照明で実現していくか、あるいは役者の演技をどのように見せていくのかを考えること。同じように、舞台美術や衣裳にどのような明かりを当てればよいのか、あるいは音響にもマッチするのかなども考えなければならないので、照明という仕事は他のセクションとの共同作業になるんです。
 
--『グリム童話』での樋口さんのお仕事を教えてください。

 今回の『グリム童話』では、私は主に本番の照明操作(オペレーター)を担当します。舞台照明の大変なところは、照明が場面ごとに細かく移り変わっていくことです。俳優の台詞などを合図にして変化させるのですが、俳優の動きに合わせてタイミングを考えることが求められます。1回ボタンを押せば、いくつかの変化があらかじめプログラミングされた通りに実行されるのですが、俳優はロボットではないので、早口になったり、つっかえたりすることもある。そういうときには、舞台を見ながら照明の変化を速めたり遅らせたりするんです。オペレーターが役者と一緒の気持ちになっていると、急なアドリブがあってもうまく対応できるようになるんですよ。オペレーターをやっていると、俳優たちと一体になって演劇をやっている感じがするので楽しいですね。
 オペレーターとしての仕事のほかには、プログラミングも担当します。舞台照明では明かりの変化が何秒で変わるのかということも考えます。たとえば昼から夜への変化が1秒で変わっていいのか、会話の中で数分かけて変化するのか。また、その変化もすべての照明が同時に同じ速さで変わると不自然なので、速く変わる照明やゆっくり変わる照明がそれぞれあり、それをひとつひとつプログラミングしていくんです。
 
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--『グリム童話』の見どころは?

 この作品では絵本をめくるようにグリム童話の世界が展開していきます。視覚的にも本当にきれいな作品なのですが、照明も俳優のフォルムを美しく見せることに力を入れていますので、ぜひ注目してほしいですね。
 また、作中で影が出てくるのですが、その影を出すために膨大な数の照明を設置しています。全部で200~300くらいの照明を使用しています。光と影の関係性も見どころのひとつだと思いますね。
 明かりを当てると必ず影が出ますよね。どこから当てるのか、どのくらいの明るさで当てるのかによって影の濃さが変わってきます。屋外の場面だから明るくしようと思っても、単純にたくさん照明を当てるだけだと影がたくさん出てきてしまって、屋外らしさがなくなってしまう。舞台照明では影の処理も重要なポイントなんです。
 
--お仕事で気を付けていることはありますか。

 普段の生活の中で、色々なものを観察しています。部屋の中の明かりと部屋の外の明かりとでは、見え方がどう変わるのか。照明器具がどこにあると、どんな影ができるのか。朝焼けと夕焼けは色に違いはあるのか。など、日常的に考えて、どうやったら舞台上で再現できるか。それを日常的に見て覚えるように心がけています。
 たとえば、太陽光だけに当たったリンゴと、LED電球だけで照らしたリンゴとでは、色が違って見えるんです。どちらも白い光に見えるんだけど。ふだん日常でみているものをきちんと見ていないと、違いが分からない。太陽光での自然な色と人工的な光の色の違いを理解できないといけないなと思っています。
 
--最後に、演劇の魅力を教えてください。

 自分が演劇を長く続けて来られているのは、「正解がないから」だと思っています。本番が始まってからも、「こうするともっと良くなるかも…」とずっと考え続けていられる。完成したら終わり、ということがないから面白いですね。
 また、自分だけではできないというのも理由のひとつですね。人付き合いの苦手な自分が、否が応でも多くの人と関わらなければいけない。演劇をやっていなかったら人とあまり関わらずに生きていたと思うんだけど、他の人と一緒にやらないとできないというのが、大変だけど、演劇の魅力だなと思います。
 
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SPAC秋→春のシーズン2019-2020 #4
『グリム童話〜少女と悪魔と風車小屋〜』
2019年1月18日(土)、19日(日)、25日(土)、2月1日(土)、2日(日)
各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場

演出:宮城聰
作:オリヴィエ・ピィ
原作:グリム兄弟
訳:西尾祥子、横山義志
音楽監督:棚川寛子

出演:池田真紀子、森山冬子、鈴木真理子、武石守正、大内米治、貴島豪、大道無門優也、永井健二、宮城嶋遥加、若宮羊市
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