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2022年4月23日

『ふたりの女』を初演から振り返る④/ファンタジーからリアルへ

『ふたりの女』出演俳優 永井健二(光一役)

2015年から4年、2019年5月からは令和が始まろうとしていた。
そんな、まもなく平成が終わるというときに、『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』は再々演となった。
しかも、2015年と全く同じ出演者と配役で。
実はSPACでこういう現象は意外と珍しい。たいてい誰かは交代していることが多いのだ。
そして、こんな場合だと稽古期間が短くなってしまうことが多いのだが、この時は25日も確保されていた。
さらに、演出家は別の新作の稽古が佳境ということで、基本的にこちらへ顔を出すのは夜の稽古のみ。
つまり、また「自主稽古の時間」が存分に与えられた。

「自分が出演していない場面」についても考えられる余裕が生まれるようになり、自分が出ている場面との関係性などについて、いろいろ思いを巡らすこともできた。
影ダンスをはじめとする、患者たちによる集団シーンは、身体の傾き具合だとか動き出すタイミングだとか動きのイメージの共有だとか、かなり細かく擦り合わせた記憶がある。

僕の場合は、「葵、六条、光一の三角関係」について相手役のたきいさんと時間をかけて話し合う中で、「怨念が乗り移るという、オカルトやファンタジーのような現実離れした設定の関係性ではなく、もっと現実的な関係性になるほうが、観客も我が事として観ることができるのではないか」という結論になり、『源氏物語』という枠組みにとらわれることなく、改めて関係性を見直すことにした。

その結果、
「六条は、光一にとっての黒歴史的なもので、学生運動に参加していたという捨てたい過去を思い出させる存在」
「葵は精神的に不安定になっているだけのマタニティーブルーのようなもので、六条が乗り移っているわけではない」
「葵に六条が重なって見えるのは偶然であり、『光一にそう見えているだけ』かもしれない」
「六条は葵を殺そうなどと思っておらず、ただ愛情表現や人との付き合い方が不器用なだけで、それゆえ誤解されがち」
「光一が葵に六条のことを話さないのは、後ろめたいからではなく、愛しているがゆえに傷つけたくないという気持ちから」
「光一が愛しているのは葵だけで、それは基本的に変わらないが、ラストの六条絞殺の瞬間、何らかの変化が光一の中で生じているかもしれない。(結局、自分は変わることができず、六条と『同じ穴のむじな』に過ぎないことを悟る、とか)」
こんな具合に、関係性が2015年までと大きく変化した。

また、光一の友人である「是光」への猜疑心と恨み、光一と同じ場面では登場しない「駐車場係員」との表裏一体的な関係性なども、2019年の上演で新たに意識した部分だ。

そして、床面の砂だけでなく、舞台装置の「流木が流れ着いて折り重なった閉塞感、行き止まり感」も意識してみたり、その蟻地獄のような形状と砂から、安部公房の『砂の女』の感覚を参考にしてみたり。

そのせいか、前回の上演よりも広い視野で作品を捉えることができたように思う。
2019年の上演を観た観客から、「とても観やすくなっていた」「関係性が分かりやすく感じた」という感想が多かったのは、ファンタジーからリアルへとシフトチェンジしたからかもしれない。

そして2022年。今度は3年のサイクルでの再演となった。(まさか4回目の上演になるなんて…)
令和の真っ最中にお届けする、「平成版」。

これは、今回の上演にあたり舞台装置を建て込む様子をタイムラプス撮影したもの。
なお、今年は千穐楽翌日の5月1日(日)の午前中に、お茶摘み体験のイベントとセットで、『ふたりの女』のバックステージレクチャーが開催される。
明るいなかでこの舞台装置を間近に見られるチャンスをお見逃しなく。

本番まであと数日。
今回の舞台は、2019年版とは少し出演者も変わるので、作品に新しい景色が広がりつつある。
また、いまの社会の閉塞感を重ね合わせて観る人も多いような気がするが、再々々演がどんな仕上がりになっているのか、みなさま、ご期待あれ!


▲2022年の『ふたりの女』出演者集合写真(撮影:SPAC)この日は暑く、日焼け対策ばっちり!

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『ふたりの女
平成版 ふたりの面妖があなたに絡む

公演日時:2022年4月29日(金・祝)、30日(土)各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間:100分
座席:全席自由
演出:宮城聰
作:唐十郎
出演:SPAC/たきいみき、奥野晃士、春日井一平、木内琴子、杉山賢、鈴木真理子、武石守正、永井健二、布施安寿香、三島景太、若宮羊市

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