1月から静岡芸術劇場にて上演が始まる『ばらの騎士』。第二期稽古が11月より始まり、順調に作品の創作が進んでいます。
この演目は、芸術総監督・宮城聰と、昨年のシーズン作品『リチャード二世』が好評を博した寺内亜矢子の共同演出。台本は宮城が執筆し、その演技プランを寺内が組み立て、『ばらの騎士』をどう現代演出で届けるか、日々試行錯誤をしているところです。SPACでは「秋→春のシーズン」を中心に、中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」を実施しているので、中高生に向けて届けるというのもポイントの一つ。今回のブログでは、そんな演出の寺内に制作部の布施がインタビューを行いました。
Q1.演劇との出会いを教えてください。
私の父が若いころに俳優をやっていたのですが、私が生まれるのを機にやめてしまったようです。だから私が小学校1,2年の頃から、よく家族で父の昔の仲間がやっているお芝居を観に行っていました。けれど、中高生になるにつれて、演劇があんまり好きじゃなくなって・・・もしかしたら父への反発みたいなのもあったかもしれません。思春期でしたね。
大学は芸術大学の美術史を専攻する科に入ったのですが、その頃はコンテンポラリーダンスといった、言葉を使わないジャンルを観るのが好きでした。演劇はなんだか言葉が邪魔だな、っていうふうに感じられて、あえて避けていました。卒業後は留学をしようと思ってその準備もしていたんですけど、卒業直前の3月とか、もうそんなタイミングで、ある劇団のお芝居を観て衝撃を受けたんです。私の学校とは別の美術大学の卒業生を中心として結成された、当時東京で注目を浴びていた若くて前衛的な劇団でした。その公演で配られたパンフレットに、その劇団の女性演出家によるワークショップのチラシが入っていたので参加してみたんです。演劇のワークショップがどういうものか全く知らない状態でしたが、それはもう、本当に目から鱗が落ちる体験で。「私は自分の身体についてこんなにも知らなかったんだ」ということにとてもショックを受けて、さらに「言葉があってもこんなに面白いことができるんだ」って。その二つのことに衝撃を受けて、なにかもう、そのときすぐに「これやりたい!」って思っちゃったんですね。
その後、他の演劇も知らないし、自分が演劇でどんなことをしたいのかもまだよくわからなかったから、とにかく1年間、ジャンルを絞らずに、古典から現代のものまでたくさん演劇を観てみて、その中で一番「面白いな」「やってみたいな」と思ったのが、当時、宮城さん(SPAC芸術総監督 宮城聰)が代表として活動していた劇団「ク・ナウカ」でした。そこに俳優として入団しまして、その劇団で演出をする機会をいただいて以来、今は俳優と演出の両方をやっています。
大学生まではずっと観る側で、まさか自分が俳優として舞台に立ったり、演出家としてお芝居を作ったりするとは思っていませんでした。でも、いざやってみると、演劇をしているときの「頭と身体がフル回転している状態」や、「自分の好きな仲間たちと一緒に作ること」の面白さに夢中になりました。自分ひとりでは出てこないアイデアだったり、何か意見が違ったときにどうやって一番良い答えを出していくか、みたいな事がとにかく楽しくて、気づいたらずっと続けている、という感じです。
Q2.俳優もしながら演出もするという立場ですが、俳優と演出をするときの違いはありますか?
どうでしょう・・・。もちろんそれぞれの方によると思うんですけど、私の演出は本当に「俳優の演出だな」って自分で思います。やはり、ザ・演出家っていう方々の演出とはやっぱり違うなって、自分ではとても思います。もしかすると、俳優としての私はすごく演出家的なのかもしれない。普段芝居をしている中でも物語の構造とかを強く意識しながらやっているのかもしれません。俳優として稽古場に立つときからそういう感覚でやっていて、それを前面に出すのが演出のお仕事、みたいな感じでしょうか。
でも、俳優のモードというのはすこし独特で。お客さんが前にいると、自分が俳優のときはもうもちろんそうだし、周りの俳優さんを見ていてもそう感じますけども、稽古場と本番では「舞台に対しての感じ方」において、大きく変わる部分があります。演出をするときは、基本的に「舞台を観ている」という感覚が維持される。本番だろうが稽古だろうが「観ている」という感覚はあまり変わらない。でも、本番の舞台で、俳優としてお客さんの前に立つと、明らかにモードが変わります。
ある意味では私、本番よりも稽古が好きな俳優なんです。作っていく過程が好きなので。演出家のときはずっとその感覚でいられるから。俳優として舞台に立つとモードが変わってしまうので、演出家のときの方が楽しめる時間が長いという感じもします。
とはいえ、私としてはどちらの仕事がメイン、という感覚はなくて、とにかく「演劇がやりたい」ということで始めたので。最初は入るときの間口が広いから俳優として始めましたけど、今となってはどちらも「私が演劇をやる」という上で、役割が違うだけという感覚です。
Q3.今回の『ばらの騎士』は、中高生鑑賞事業公演で多くの中高生にも観ていただきます。中高生の皆さんに伝えたいことはありますか?
このお芝居は、もともと20世紀のはじめにオペラとして作られて、物語の設定としては18世紀のウィーンを舞台にしていて、それを現代の私たちが、鹿鳴館時代の日本に置き換えて作品にしています。ですから、「今なぜ私たちがこれをやるのか」ということを考えながら作っています。恋愛の話でもありますけど、この物語の中もふくめて、それこそ昔は当たり前だったことが、今では当たり前ではなくなっている。現代の私たちからすると、「なんでそんなことやってたの?なんでそんなこと考えてたの?」っていうことが、当時はそれが「あたりまえ」のことのように描かれている。女性は結婚しないと一人前の人間になれない、といった価値観や、政略結婚もそうですし、地位のある男性は女性の体に勝手に触っていい、とか。今考えたら本当にあり得ないようなことですけど、100年前には当たり前だったっていう。そう考えると、私たちが今「あたりまえ」だと思っていることも、100年後にはきっと変わっているに違いない、という気がします。
でも一方で、この物語で描かれているものの中には、現代までずっと変わっていないことも、確かにあるのです。その二つについて、みなさんがそれぞれ感じ取って、考えてもらえればいいな、と思います。それと、このお芝居は登場人物の中で、「この人が主人公」って決まっているわけではない。いろいろなところで、それぞれが感情移入できるポイントがあるというのが面白さです。ですから、皆さん自分のお気に入りのキャラクターを見つけて、それに思いをのせて観てみてほしいですね。
寺内 亜矢子
1997年、ク・ナウカ シアターカンパニーにて演劇活動開始。2007年の劇団休止後は、SPACを主な拠点に国内外の舞台に出演するほか、東京藝術大学にて身体表現教育に携わる。俳優・演出・演奏・音楽構成・ドラマトゥルク・通訳・翻訳等、舞台芸術創作に関わるもろもろを手がける国際派マルチプレイヤー。SPACでの演出作に『おぉっと えぇっと ええじゃないか』(ふじのくに野外芸術フェスタ2020 in掛川)、『三原色』(SPAC演劇アカデミー第1期生成果発表会, 2022)、『リチャード二世』(秋→春のシーズン2022-2023)、などがある。
(聞き手:SPAC制作部・布施知範)
★一般公演日の1月7日(月祝)、3月10日(日)の終演後にステージ上で開催する《アーティストトーク》に寺内が登壇いたします。トークでは登壇者への質問も募集。インタビューを読んで気になった方はぜひこちらの日程にお越しください!
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SPAC秋→春のシーズン2023-2024
#3『ばらの騎士』
演出:宮城聰・寺内亜矢子
作:フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
音楽:根本卓也
出演:石井萠水、大高浩一、木内琴子、貴島豪、小長谷勝彦、榊原有美、佐藤ゆず、武石守正、永井健二、本多麻紀、牧山祐大、宮城嶋遥加、森山冬子、山本実幸、吉植荘一郎、若宮羊市[五十音順]
2024年1月7日(日)、8日(月祝)、13日(土)、14日(日)、20日(土)、21日(日)、3月10日(日)
各日14:00開演 会場:静岡芸術劇場
★公演の詳細はこちらをご覧ください。
https://spac.or.jp/au2023-sp2024/der_rosenkavalier