みなさま、こんにちは。SPAC『ニホンジン』で上演台本と演出をつとめる瀬戸山美咲です。『ニホンジン』は、1910年代にブラジルに渡った日本人の家族の3代にわたる物語です。原作は日系ブラジル人三世の作家、オスカール・ナカザトさんが執筆された小説です。
今年4月、SPACのアーティスティック・ディレクターの石神夏希さんが、静岡で暮らすブラジルルーツを持つみなさんと『うなぎの回遊 Eel Migration』という作品をつくられました。日本には1990年に出入国管理法が改正されてから、多くの日系ブラジル人の方が移住されています。そのことは認識していましたが、その方たちが20世紀前半にブラジル移り住んだ日本人移住者の歴史の延長線にいることがあまりイメージできていませんでした。『ニホンジン』は第一世代がブラジルに移住するところから始まる物語です。この作品に取り組むにあたって、ブラジルでの取材は必須だと思いました。
個人的に取材旅行を計画していたところ、SPACの皆様の計らいで国際交流基金にご協力いただけることになり、5月末に石神さんとブラジルへ旅立ちました。日系人のコミュニティがあるサンパウロ、ロンドリーナ、マリンガ、そして『ニホンジン』には登場しませんが、北部のアマゾンに移住した人たちの歴史を紐解くためにベレン経由でトメアスという町に行きました。
断片的にはなりますが、このブログではブラジルで見てきたことをご紹介します。今回の渡航の主な目的は、各地の日系人の方への取材、大学と劇場でのトークとワークショップ、街や資料館や農園などの見学、そして作者のオスカール・ナカザトさんにお会いすることでした。取材のコーディネーターをしてくださった国際交流基金のみなさんからも、旅をしながらたくさんお話を伺いました。大きな歴史からは見えなかった個人のアイデンティティをめぐるお話を伺い、作品の解像度が上がりました。そして、わたしの中の「移民」という言葉に対する意識に変化が起きました。日本で「移民」というと、海外から日本に来た方を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、かつては日本人が移民だった時代がありました。
日本で生まれ育ったわたしは、これまで海外への移住をどこか特別なことのように考えていました。しかし、ブラジルに行って、移動は特別なことではなく、人間がよりよく生きようと思ったときの選択肢として自然なことかもしれないと思いました。現在のブラジルは移民によって構成され発展してきた国です。
もちろん、奴隷制度による強制移住の歴史もありますし、生まれた土地で暮らせなくなってやむを得ず移動した人たちもいたでしょう。ブラジルには先住民もいました。そこにはまた記さなければならない歴史があります。
人が移動すると、文化は混じり合い、新しい文化が生まれます。国家というシステム上、私たちは国籍で人を線引きしますが、本来は日本人はこういうものだ、ブラジル人はこういうものだという固定された概念はありません。ひとりひとりが違う歴史を持っていて、その人たちが共存して生きているのが社会です。共存の前提として、外から来た人を排除せず、人間らしく生きられるように尊重することが必要です。ブラジルにはその社会の形があると感じました。もちろん、今回の短期間の視察でブラジル社会がわかるわけではありません。大学でワークショップをやった際、ある学生さんが口にした「私たちは世界のどこに行っても差別される」という言葉もずっと引っかかっています。まだ、見えていないことはたくさんあると思いますが、まずは視察のなかで私が感じたことを書いていきたいと思います。
- 瀬戸山美咲
秋のシーズン2026-2027
#2『ニホンジン』
<静岡公演>
2026年 11月28日(土)、29日(日)、12月5日(土)、6日(日)
各日13:30開演
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
<沼津公演>
2027年 1月30日(土) 13:30開演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
<浜松公演>
2027年 2月7日(日) 13:30開演
会場:浜松市浜北文化センター 大ホール
日本語上演/英語/ブラジル・ポルトガル語字幕あり



