2018年11月25日(日)
今日は雨模様だが、最高気温8度と、それほど寒くない。楽日。
今日も超満員で、多くの方にお断りしている状況。劇場入口にはチケットを求める方々。
というわけで、ふだん使っていない二階バルコニーを開放してもらって、内部関係者は上から見ることに。ふだん見えない舞台裏もよく見える。
劇場の人たちにも、作品がとても愛されているのを感じる。開演すると、案内係の方々が振りを憶えていて、舞台裏で曲に合わせて踊っていた。
赤い制服を着たセキュリティ責任者も、最後に神様が出てくる場面になると、一番見やすいところに出てきて、毎回楽しみに見に来てくれる。
今日はアヴィニョン演劇祭技術ディレクターのフィリップさんが来てくださった。実は今回ラ・グランド・アールの舞台監督レミさんとフィリップさんは兄弟。
今回上演している『マハーバーラタ』リング状舞台バージョンは、アヴィニョン演劇祭2014で初演したもの。伝説的な公演となったピーター・ブルック演出『マハーバーラタ』が上演されたブルボン石切場という野外の会場での公演だった。ここで日本の演出家が同じ『マハーバーラタ』を上演するというのは大変なチャレンジだった。
そこで空間デザインの木津潤平さんが提案したのが、リング状の舞台だった。通常石切場で使われていた客席を使わずに、舞台と客席の全体を作りなおすことになるこのかなりクレイジーなプランを実現するには、もちろん大変な労力と費用が必要になる。だが、このプランを見て、「これは今までで一番美しい舞台になる!」と確信を持ってアヴィニョン演劇祭の制作方を説得してくれたのが、技術ディレクターのフィリップさんだった。
*関連リンク:2014年7月6日「アヴィニョン演劇祭参加の記(2)」
そしてこれをちょうどラ・ヴィレットの館長に就任したところのディディエ・フュジイエさんとプログラム担当のラファエラさんがアヴィニョン演劇祭で見てくれた。ディディエ・フュジイエさんは、これを新たな方向性を示す象徴になりうる作品と考え、ラ・ヴィレット芸術監督のフレデリック・マゼリさんが国際交流基金の支援も取り付けてこの企画を推進してくれて、これがパリでの日本文化紹介企画「ジャポニスム2018」の一環に位置づけられることとなり、四年越しで今回この公演を実現することができた。
円形舞台の全景を見ようと思うと、かなり高くから見る必要がある。二階バルコニーにいると、神様たちと同じ高さに立つことができた。お客さんは神様の視点を想像しながら見ることになる。
このラ・グランド・アールでは、劇場スタッフが様々な努力を重ねてくれて、最後の場面で幕を開けると外の木々が見える演出をすることができた。この場面では登場人物たちがみんなで「神も獣も王たちも平和の訪れをこそ喜ぶべし」と声を上げる。ここでは人間の世界に外部があることが重要になる。この瞬間、これまで語られてきたナラ王とダマヤンティー姫の苦難の物語が突然、世界の片隅の小さな物語のように見えてくる。そして同時に、そこで見えてくる巨大な宇宙全体が二人を祝福しているようにも見える。
▲パリ千穐楽カーテンコール
今回のパリ公演も、なんだかあちこちから不思議な力が働いて実現したような気がしてくる。さらには、このパリ公演があったおかげで、サウジアラビアからの招聘にも応えることができることになった。イスラム教の聖地メッカを抱えるサウジアラビアで、日本人が演じるインドの神々がどのように受けとめられるのだろうか。
新たな出会いへの期待と不安に胸を高鳴らせながら、バラシ、積み込み準備。
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◆『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20
◆『マハーバーラタ』フランス公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_japonismes2018.html
◆ジャポニスム2018参加企画 ふじのくに魅力発信事業(SPACウェブサイト内/日仏併記)
静岡県は、ジャポニスム2018公式企画に選定されたSPACの『マハーバーラタ』公演を活用し、公演期間である2018年11月19日から11月25日の間、「Mt. FUJI × TOKAIDO(富士山と東海道)」をテーマに、パリ市内で静岡県の魅力を世界に向けて発信するさまざまな事業を展開します。
http://spac.or.jp/news/?p=14636
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SPAC海外ツアーブログ
アヴィニョン演劇祭参加の記:2014年『マハーバーラタ』『室内』上演記録
アヴィニョン法王庁日記 :2017年『アンティゴネ』上演記録
『顕れ』パリ日記2018 :宮城聰最新作『顕れ』上演記録
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