ブログ

2020年3月17日

【大解剖!『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の魅力】
Vol.2〜あらすじ紹介編〜

SPACの新作野外劇『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の稽古が、本日より始まりました!今後のブログで、稽古場の様子をレポートしていく予定ですので、皆さまどうぞお楽しみに。
 
さて、今回のブログでは、本編のあらすじ紹介にのせて、知っているとより観劇が楽しめる戯曲の魅力についてご紹介します♪ なお、「観劇前にあらすじは知りたくないな…」という方は、観劇が終わってから読んでくださいね。(笑)
 
photo1_おちょこ011
▲『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』 イメージ・ビジュアル
 
 
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』は、演出家・劇作家である唐十郎が主宰していた劇団・状況劇場で1976年に初演されました。当時、状況劇場では春と秋に公演を行なっていました。春に全国ツアー向けの大きな作品を上演し、秋には(春と比べれば)少し小規模な作品を上演していたようで、本作は秋公演で上演するために作られた長編の一幕劇です。
 
 
photo2_IMG_5921
▲(左)本作が収録されている、『唐十郎全作品集 第五巻』(冬樹社)
(右)単行本『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(角川書店)こちらは合田佐和子さんによるビジュアルがとても印象的です。

 
 

〜あらすじ①〜

物語の舞台は、誰か知る相愛橋のある横丁。
すえたどぶ川の袂でさびれた傘屋を営む、ひとりの若僧・おちょこ。彼は、傘の修繕を頼みに来た女性客・石川カナへ片思いの真っ最中。いつか彼女に「メリー・ポピンズの傘を持たせる」と言いながら、預かった傘を開いては台の上から飛び降りて、「おちょこの傘」にならなくする為の実験に日々励んでいる。そんな彼の様子を傍目で見ているのは訳アリ男・檜垣。彼は一週間前にトラブルを起こし、瀕死状態でいたところをおちょこに助けられ、それ以降、傘屋に居候中なのであった。

 
 
「おちょこの傘」ってなんだろう?

本作のタイトルやセリフにもよく出てくる「おちょこの傘」というフレーズ。皆さんはこの言葉を聞いて、なんとなくイメージが湧きますか? いわゆる「おちょこの傘」とは、強風などによって傘がひっくり返り、おちょこのような形になった状態。例えば、「いやー、今日は雨風ひどくて、傘がおちょこになっちゃったよー。(笑)」といった感じで使われる言葉なのですが、意外と耳馴染みがなくなっているようで、「“おちょこの傘”って何?」と質問を多くいただきます。演出の宮城曰く、それは昔に比べて、骨組みの素材や構造が変わり、おちょこにならなくなっているからなのだそう。(でも最近よく売られている「耐風傘」はおちょこになるのだとか…!)
 
さて、「おちょこの傘」の具体的なイメージはこちらです↓
 
photo3_AN00587098_001_l
▲1842歌川国芳『文屋康秀/百人一首之内』(大英博物館蔵)
 
こちらは江戸時代末期に活躍した浮世絵師・歌川国芳によって描かれた浮世絵です。中央の男が持っている番傘が強風により吹き飛ばされてひっくり返っている、というちょっとお茶目な絵ですね〜。これで「おちょこの傘」に対するイメージが少し湧いてきたでしょうか?
 
 

〜あらすじ②〜

ある日、カナが店へやって来る。今晩、銀河鉄道に乗ってこの街を出て行く為、修理に出した傘を取りに来たのだと言う。留守中のおちょこの代わりに応対をした檜垣は、彼女が、その昔自分が芸能プロダクションのマネージャーをしていた頃に関わった、ある事件の当事者であることに気づく。その事件とは、檜垣が当時担当していた人気歌謡歌手と石川カナのスキャンダルの果てに引き起こされた、人気歌謡歌手の母の自殺。実はカナは、その母親が書いた遺書の行方を追って、下関にある墓へ行こうとしていたのだった。そうとも知らず、1年前にプロダクションを辞めて、今はヤクザとして暮らしていると話す檜垣。1週間前にカナが投稿した新聞広告を見て、彼女に会うために相愛横丁へやってきたというのだった。

 
 
題材は有名人のスキャンダル

本作は、当時世間を賑わせた有名人のスキャンダルを元にして作られた作品として知られています。宮城によると、唐戯曲はその当時の事件(いわゆる時事ネタ)が元になっていることはよくあるのだが、有名人のスキャンダルを題材に作品を作ったのは非常に珍しいのだとか。
 
この戯曲の元となったのは、歌手の森進一を相手どり「婚約し男児までできたのに、婚約を破棄した」として婚約不履行による損害賠償を求めた事件で、作中では人気歌手の母の自殺が語られる(森進一の母親は1973年2月に東京都世田谷区の自宅で自死)など、現実に依拠した部分も多く語られています。
 
※事件そのものは、1973年7月、山口地裁下関支部で「原告(石川玲子)の主張は信用性がない」として原告の請求が棄却され、 翌74年6月、広島高裁も「異常なファン心理から妄想を抱いた疑いがある」として控訴を棄却し、森進一側の全面勝訴で終わっています。
 
この事件以外にも、1960〜70年代ならではの時事ネタが所々に現れていますので、そういった点にも注目して観ていただくと面白いかもしれません。
 
 

〜あらすじ③〜

そこへおちょこが店に戻ってきてカナと再会。しかし、今夜カナがこの街を去ることを知り、おちょこは「住む所が決まったらハガキをくれ、自分もそこへ引っ越す」と言う。そして、餞別だと言ってお金を渡すおちょこに、カナはあの事件にちなんだ狂言をさせる。しかし、狂言をさせたことを檜垣に咎められて混乱するカナ。それを落ち着かせようと、檜垣は人気歌謡歌手の母親が書いた遺書をカナに渡すのだが…。

 
これ以上書いてしまうと完全ネタバレとなってしまうので、あらすじはここまでにしておきましょう。ラストはぜひ劇場で目撃ください!
 
 
劇中歌は流行歌

劇中歌がたくさん使用されているのも、この戯曲の見どころのひとつです。劇中には当時の流行歌が数多く登場しており、例えば、森進一さんの「冬の旅」や、フィル・オクス(アメリカ人シンガーソングライター)の「No more song」、映画『メリー・ポピンズ』に出てくる「チム・チム・チェリー」など印象的な曲が使われています。曲が気になる方は、ぜひ動画サイトなどで検索してみてください!また、本編には他にもたくさんの曲が登場しますので、音楽にも注目して観ていただけると、よりお楽しみいただけると思います。
 
 
いよいよ次回のブログでは皆さんお待ちかね、稽古開始の様子をレポートします♪
ぜひお楽しみに!

文:宮川絵理(制作部)



=====
ふじのくに⇄せかい演劇祭2020
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』
2020年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)
各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ

出演:泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、牧山祐大、宮下泰幸(50音順)
★公演詳細はこちら
=====