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2020年5月1日

少女の欲望が演劇を通じて世界を変えていく 〜オリヴィエ・ピィのグリム童話『愛が勝つおはなし ~マレーヌ姫~』〜

SPAC文芸部 横山義志

 
今回映像でお届けすることになってしまった『愛が勝つおはなし』は、今の状況で観ると、とても心に染みる作品です。隣国の王子と恋に落ち、父王が命じた政略結婚を拒否したため、七年ものあいだ暗い部屋に閉じ込められていた少女。外に出てみると、父は亡くなっていて、一面の焼け野原。戦争で傷ついた人々や仕事を失った人々が路頭に迷っています。

L AMOUR VAINQUEUR
 
きっと今頃、世界中で、家族や恋人や友人と引き裂かれた人たちが「いつあの人に会えるのかな」と思っていることでしょう。
 
オリヴィエ・ピィは今日のフランスを代表する劇作家の一人です。ムアワッドとピィのスタイルはだいぶちがうのですが、一つ共通していることがあります。それは「言葉は人を変える」ということを深く信じているということです。フランス語で「言葉」を意味する「パロール」には、「約束」という意味もあります。二人とも、この「約束としての言葉」には人の運命を変える力がある、と思っているのです。この考え方は、全ては経済によって決まると思われがちな今日の世界においては、貴重なものになってしまったのかもしれません。

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オリヴィエ・ピィは、現代の劇作家では珍しく、キリスト教の信仰を公言しています。ピィは「言葉が受肉する」ということ、つまり言葉が人に宿って人を変え、世界を変えていくという奇蹟を信じているのです。フランス語の「パロール」は、紙に書かれた言葉ではなく、話し言葉を指しています。言葉を口に出すと、それを聞いた人とのあいだに新たな約束が生じ、世界は変わっていきます。
 
「会いたい」という気持ちを心の片隅にしまって日々を過ごしている方も多いでしょう。でも、明日の世界をつくるのは、きっとそんな気持ちです。
 
L AMOUR VAINQUEUR
  
少女の七年間の監禁生活を支えたのは「恋する王子様に会いたい」という気持ちでした。そして全てを失い、打ちひしがれた少女は、演劇と出会い、演じることを通じて、ふたたび自分の欲望に正直に生きること、自分の意思を持つことができるようになります。舞台で他人の欲望を演じること、演じられる他人の欲望を自分ごとのように思って観ることは、いわば「言葉を受肉させる」ための儀式です。そんな儀式を通じて、欲望が意志となり、言葉となって、世界を変えていく。だからこそ演劇は世界を変えうるのだ、というのがこの作品に込められたピィさんの思いです。
 
L AMOUR VAINQUEUR?
 
オリヴィエ・ピィは世界最大の演劇祭の一つであるアヴィニョン演劇祭のディレクターでもあり、そこでSPACの作品を二度にわたって紹介してくれています。そのアヴィニョン演劇祭も、今年はついに中止になってしまいました。世界中の演劇を愛する人々が出会う場が失われてしまった今、ピィさんはどんな気持ちなのか。宮城聰とのトークにも、ぜひご注目ください。
 
 
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くものうえ⇅せかい演劇祭2020
https://spac.or.jp/festival_on_the_cloud2020

◆オリヴィエ・ピィのグリム童話『愛が勝つおはなし~マレーヌ姫~』全編上映
 5月2日(土)14:00配信開始予定

◆トーク企画「くものうえでも出会っちゃえ」
 オリヴィエ・ピィ×宮城聰
 5月3日(日・祝)13:30配信開始予定

◆関連企画!おうちで感想画を描いてみませんか?
オリヴィエ・ピィのグリム童話『愛が勝つおはなし~マレーヌ姫~』全編上映を観て、心に残ったシーン、面白かったシーンをあなたの思うように絵に描いてお送りください。応募された作品は、フランスへ届けられます。オリヴィエ・ピィさんに絵であなたの気持ちを伝えましょう♪ 詳細はこちら

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2020年4月28日

境界を越える人々の夢と現実 〜クリスティアヌ・ジャタヒーのこと〜

SPAC文芸部 横山義志

ジャタヒーとの出会い
 クリスティアヌ・ジャタヒーは何年も前から紹介したいと思っていたアーティストでした。世界中のあちこちの友人から「ジャタヒーはすごいぞ、見てみろ!」と聞き、何度かビデオを取り寄せて見ていました。でも実際に出会う機会はなかなか訪れず、昨年のアヴィニョン演劇祭で、ようやく劇場で作品を観ることができました。
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▲クリスティアヌ・ジャタヒ―

 映像とライブパフォーマンスを融合させて客席を熱狂に巻き込んでいく手腕に圧倒され、ぜひ静岡で紹介したいと思い、ジャタヒーさんに声をかけてみたところ、「私も何年も前から静岡に行きたいと思っていました」とおっしゃってくれました。ジャタヒーさんのプロデューサーは、以前紹介したブラジル作品『かもめ…プレイ』に俳優として出演したことがあり、SPACの話を聞いていて、アヴィニョンでもよく噂を聞いていたとのこと。なので、今回静岡に来られなくなってしまい、ジャタヒーさんは本当に悔しがっていました…。

『終わらない旅』、故郷を離れて暮らす人たちの物語
 静岡で紹介したい、と思ったのは、ジャタヒーさんがブラジル出身だということもあります。静岡県にはブラジルにルーツを持つ方がたくさんいらっしゃいます。エンリケ・ディアス演出『かもめ…プレイ』を上演した際には、ブラジルポルトガル語を話す方がたくさん見に来てくださいました。静岡から海を越えて移住していった方々、静岡に移住してきた方々の物語も、何度となく聞いてきました。今回上演するはずだった『終わらない旅~われわれのオデッセイ~』は故郷を離れて暮らす人々に焦点を当てていて、今まさに静岡で観てみたい作品と思ったのでした。
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▲『終わらない旅 ~われわれのオデッセイ~』より

 この作品では、故郷を離れざるを得なくなった人たちの物語が、2800年も前から伝わっているという古代ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』に重ねて語られていきます。『オデュッセイア』は、10年にわたってトロイア戦争を闘った英雄オデュッセウスが、さらに10年をかけ、地中海をさまよいながら家族が待つ家にたどりつくまでの物語です。華々しい戦争の話だけでなく、家に帰りたい一心で孤独にもがく一個人の物語がこれほど長く語り継がれてきたのは、いつの時代にも同じような思いをした人がたくさんいたからなのでしょう。

舞台の生々しさ、映像の生々しさ
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▲『終わらない旅 ~われわれのオデッセイ~』より

 ジャタヒーは映像を巧みに使う演出家として知られています。ジャタヒーがすごいのは、映像でしか感じることのできない生々しさと、舞台でしか感じることのできない生々しさとが相乗効果を生んでいくことです。『終わらない旅』では、映像を通じて、私たちがふだんなかなか出会うことのないシリア人、パレスチナ人やブラジルのアマゾン川流域に住むカヤポ族の肉声を聞き、その表情を大画面で見ることができます。そして気がつくと、会場にも故郷を遠く離れて暮らす人たちがいて、目の前で自らの流浪の物語を語ってくれるのです。さらに、スクリーンのうえで観た物語が「今、ここ」の物語として迫ってくる、という仕掛けになっているのですが、ここから先は、いずれ本当に上演できたときのお楽しみにしておきましょう…。

『Utopia.doc』、国を越えて生きる人たちが夢見る世界
 今回「くものうえ⇅せかい演劇祭2020」で映像配信される『Utopia.doc』は、『終わらない旅』をつくるきっかけになった作品の一つです。チェーホフ『三人姉妹』をもとにした『もし彼女たちがモスクワに行っていたら』という舞台作品を製作中、ジャタヒーはパリ、フランクフルト、サンパウロで、世界各地からの移住者に自分の人生を語ってもらい、自分にとってのユートピアとは何かを尋ね、映像に収めていきました。それに対する返信として、パリのアーティストたちが舞台作品をつくったり、ブラジルの重要な作家たちがテクストを書いたりして、話してくれた方々に届けていきます。
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▲『Utopia.doc』より

 『終わらない旅』や『UTOPIA.DOC』に出てくる人たちは、世界のあちこちで国境が閉じ、外出もままならなくなってしまった今、どんなふうに暮らしているのでしょうか。ブラジルでも非常事態宣言が出て、ジャタヒーさんが住むリオ・デ・ジャネイロでも多くの感染者が出ています。リオには日系人も多く住んでいます。「くものうえでも出会っちゃえ」で、ジャタヒーさんのお話をうかがうのが楽しみです。

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くものうえ⇅せかい演劇祭2020
https://spac.or.jp/festival_on_the_cloud2020

◆『Utopia.doc』
4月29日(水・祝)15:30配信開始予定
*5月6日(水・休)22:00終了予定

◆トーク企画「くものうえでも出会っちゃえ」#3
 クリスティアヌ・ジャタヒ―×宮城 聰

4月30日(木)18:00配信開始予定
*5月6日(水・休)22:00終了予定
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読み、書き、演じ、はるかな世界へ ~オマール・ポラスと『私のコロンビーヌ』~

SPAC文芸部 横山義志

 
「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」で上演されるはずだった『私のコロンビーヌ』を見たとき、オマール・ポラスと一緒にアンデス山脈から星を眺めた日のことを思い出しました。オマールはインディオと呼ばれる自分の祖先たちの生活について語ってくれました。その時はじめて、「新大陸」と呼ばれた土地が、とても古い記憶を宿している土地でもあることを実感することができました。

オマールの故郷は、イタリアの探検家コロンブスにちなんで「コロンビア」と呼ばれています。コロンビアの公用語はスペイン語。「新大陸」の人や物の多くは、ヨーロッパの言葉で呼ばれます。コロンブスというのはラテン語で「ハト」の意味。「コロンビーヌ」は「小鳩ちゃん」といった意味の女性の名前で、コメディア・デラルテでは陽気で抜け目のない女中のキャラクターです。『私のコロンビーヌ』とは、オマールが出会ったヨーロッパの演劇のことでもあり、なぜかヨーロッパ人から借りた名前で呼ばれているオマールの故国のことでもあるようです。
 
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オマール・ポラスはヨーロッパの演劇界でもかなり特異な存在です。コロンビアから一人でパリにやってきて、地下鉄で人形劇をやったり、コロンビア人女性のところに転がりこんだりして何とか生き延び、なぜか舞台芸術界の重要人物たちと出会い、それからなぜかジュネーヴ郊外の廃屋で演劇活動を始め、ついには公立劇場の芸術監督になってしまった…というのは、ちょっとほかに似た例が思い浮かびません。
 
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今回「くものうえ⇅せかい演劇祭2020」を立ち上げるにあたって、劇団SPACの中で、「演劇に救われた」という経験があるからここにいる、という話が何度も出ました。でもオマールほどに演劇が人生を変えてしまったという例は、他にあまり知りません。

オマールはコロンビアの先住民の農家に生まれ、読み書きができずに悔しい思いをした母親から、とにかく学校で勉強するようにいわれて育ったといいます。そして読み書きを学んだことで文学・哲学・芸術と出会い、パリにあこがれ、演劇にあこがれ、自分が生まれ育ったのとは全く異なる環境に飛び込み、自分の道を切り拓いてきました。

そんなオマールの半生をはじめて作品にしたのが『私のコロンビーヌ』です。この作品を見ると、人には無限の可能性があるんだ、自分で扉を開けてさえみれば新たな世界が見えてくるんだ、と素直に感じることができます。

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読書は遠いところや違う時代に生きた人たちとつなげてくれます。そして演劇は別の場所、別の時間を生きた人たちを通じて、今を生きる人たちとの新たな出会い方を教えてくれます。オマールとSPACも、静岡で、スイスで、フランスで、コロンビアで、これまで何度も、そんな不思議でディープな時間を過ごしてきました。

2011年、東日本大震災によって、オマールがコロンビアでつくった作品の静岡公演が中止になりました。その時オマールは、「椅子一つ、ろうそく一本でも芝居はできる」といって、単身静岡に来て、SPACの俳優たちと一緒に作品をつくってくれました。でも今回はスイスの自宅から出ることもままなりません。

そんな中でオマールは、静岡で過ごした日々の思い出から出発して、コロンビアの思い出、そして『私のコロンビーヌ』の物語へと私たちを誘う、8分間の素敵なビデオ作品を送ってくれました。盟友宮城聰とのトークとともに、ぜひお楽しみください。
 
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▲ 「ふじのくに⇄せかい演劇祭2011」上演作品『シモン・ボリバル、夢の断片』より
上・貴島豪、下・オマール・ポラス

 
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▲ 2012年『ロミオとジュリエット』初演創作期間中、静岡芸術劇場にて

 
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くものうえ⇅せかい演劇祭2020
https://spac.or.jp/festival_on_the_cloud2020

◆オマール・ポラスによる『虹のドレス』
 4月29日(水・祝)13:00配信開始予定

◆トーク企画「くものうえでも出会っちゃえ」
 オマール・ポラス×宮城聰
 4月29日(水・祝)13:30配信開始予定

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2020年4月24日

『ワジディ・ムアワッドによる日記の朗読』コロナウィルスの時代のワジディ・ムアワッド 

藤井慎太郎
(日本語字幕翻訳)

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 SPACでは『頼むから静かに死んでくれ』『火傷するほど独り』がこれまでに上演され、お馴染みとなっているムアワッド。本当なら今年は『空を飛べたなら』が上演される予定であった。1968年にレバノンに生まれ、内戦を逃れて家族とともにフランス、ついでカナダに亡命したムアワッドだが、モントリオールのカナダ国立演劇学校に入学したことが人生の転機となる。俳優・劇作家・演出家として世界的な成功を収めた彼は、2016年からフランス国立コリーヌ劇場の劇場監督を務めている。ムアワッド個人の人気もさることながら、すぐれたアーティストと刺激的な作品が並ぶプログラムによって、コリーヌ劇場は大勢の観客、特に若い観客が詰めかける活気に満ちた劇場となった。

 『空を飛べたなら』は、ムアワッドの人生をいい意味でも悪い意味でも狂わせることになったレバノン内戦——『頼むから静かに死んでくれ』をはじめ、ムアワッド作品の多くはレバノン内戦の(非)人間性をめぐるものである——の原因といってよい、パレスティナ問題を取り上げたもので現代のイスラエルにおけるユダヤ人とパレスティナ人の間の禁じられた愛を描きつつ、予想もつかない劇的な結末が観客を驚かせ、感動させる4時間の大作だった。テクストはムアワッドがフランス語で書いたものだが、劇中ではフランス語がまったく用いられない代わりに、ヘブライ語、アラビア語、英語、ドイツ語の複数言語が話される点でも、大きな野心に導かれた作品であった。

 だが、コロナウィルスの感染拡大に伴って、フランスや日本も含め、世界各国で外出が制限され、来日公演もふじのくに⇄せかい演劇祭開催もかなわなくなったのだった。世界のおよそすべての国で国境が閉ざされ、ウィルスとの闘いはしばしば戦争になぞらえられている。国家、組織、個人が「壁」をつくって「うちに立てこもる」ことを余儀なくされている今こそ、ユダヤ人とパレスティナ人の間にある心理的そして物理的な壁、演劇における言語という壁を主題とする『空を飛べたなら』の上演は、日本にいる私たちにも大きな意味を持ったはずだった。ほんとうに惜しまれることだ。

 だが、その代わりに、今回、ふじのくに⇄せかい演劇祭に代わる「くものうえ⇅せかい演劇祭」の一環として、ムアワッドによる『隔離日記 第18日』の公開が可能になった。日本よりも早く事態が深刻化したフランスでは、3月13日から100人以上の集会が禁止され、ムアワッドが率いるコリーヌ劇場もその翌日から閉鎖された。3月17日からはフランス全土で外出が禁止され、現在に至っている(日本の「自粛」とは異なり、罰則を伴う「禁止」である)。劇場での活動を完全に中断せざるを得なくなったとき、ほかの多くのヨーロッパの劇場と同じように、ラ・コリーヌもその活動をウェブ上に移行させた。日記のかたちを借りて、封鎖と隔離の下の生と芸術、演劇についてムアワッドはテクストをしたため、それを自らが朗読したものを劇場ウェブサイトにおいて3月16日から毎日公開して、現在に至るまで続けている(週末を除く)。

 ここに日本語字幕を添えて公開される『隔離日記 第18日』は『空を飛べたなら』とは対照的な、15分足らずの短い映像であり(劇場ウェブサイトで公開されているのは音声のみ)、登場するのはムアワッド一人で、過剰な演技も演出も削ぎ落とされたもので、逆にその単純さと素朴さが観客を惹きつける(だが、『火傷するほど独り』で見せてくれた通り、ムアワッドはすぐれた役者であり、これは朗読である以上に演劇なのである)。彼の思考は、コロナウィルスがもたらす「死」を出発点として(フランスではすでに2万人を超える人命が失われた)、ベルイマンやタルコフスキーの映画、ジャコテの詩、ギリシア悲劇に登場するイフィゲネイアなどにふれながら、災いを鎮めるための生贄という「犠牲」へと向かい、「死」が蔓延するなかで「生」「誕生」を口にすることの重要性へと至る。

 だがムアワッドは、最後に私たちに問いかける。まさに今日生まれくる子どもから、20年後に「人間は変わらなかった?」「人間の半分以上が封鎖されて、根本から変わらないなんてある?」と尋ねられたとして、そのときいかにして「結局、何も変わらなかった/封鎖が解かれたときはちょっと大変だったけど/その後も恐かったし/でも続けたんだ、前と同じように」と答えられようか、と。

 日本にいる私たちは、9年前にも同じことを思わなかっただろうか? 東日本大震災、津波、原発事故のカタストロフィを経験したとき(フランスにおける犠牲者の数は震災のそれに匹敵するか、それ以上のものだ)、「復興」とは震災以前に戻ることではない、新しい人間と社会のあり方を発明しなければならないと、私たちは思ってはいなかったか? だが、私たちは震災の日に生まれきた子たちに、今、何と答えられようか? 

「結局、何も変わらなかった[・・・・・・]続けたんだ、前と同じように」 

 ムアワッドが放った言葉は、フランスからは遠く離れた私たちを不意打ちする。仏語圏スイスの詩人フィリップ・ジャコテがケシの花の色について紡いだ言葉がムアワッドの心をとらえたように、詩人の言葉はそこから離れたところで心を打つ。いや、直接の有用性や標的から離れているからこそ、心を打つ。それは、「言葉にわずかでも残っている価値」、言葉の芸術としての演劇の力のひとつなのだ。

【筆者プロフィール】
藤井慎太郎 FUJII Shintaro
早稲田大学文学学術院教授。フランス語圏・日本を中心に舞台芸術の美学と制度を研究する。主な著作にLa Scène contemporaine japonaise(共同責任編集)、『ポストドラマ時代の創造力』(監修)、『芸術と環境 劇場制度・国際交流・文化政策』(共編著)、『演劇学のキーワーズ』(共編著)など。

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くものうえ⇅せかい演劇祭2020
https://spac.or.jp/festival_on_the_cloud2020

◆『ワジディ・ムアワッドによる日記の朗読』
4月25日(土)13:00配信開始予定
*5月6日(水・休)22:00終了予定
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2020年4月2日

【大解剖!『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の魅力】
<号外> 稽古方法を変更しました

このたび、私たち『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の座組は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、「稽古場に集まる」ことをやめました。
個々の部屋に分かれても演劇を継続するにはどうしたらよいかを考えながら、今はオンラインで各部屋をつなぎ、バーチャル稽古として創作を継続しております。
 
創り手にとって、そして同時に劇場に足を運んでくださる観客の皆様にとっても、演劇の本質ともいえる「集まること」を一時手放さざるをえない今、どうしたら演劇を継続できるのでしょうか。オンラインに切り替わった稽古を皆様にも楽しんでいただきながら、私たちの取り組みに立ち会っていただけたら幸いです。そして、それぞれの場所にいながら連帯し、分かち合い、一日一日を乗り越えていくことで、この「オンラインの稽古場」が新しい何かを創造するきっかけとなればと願っています。
 
さて、本日は稽古休み日のため、明日からのバーチャル立ち稽古配信に先立ち、3月30日におこなった稽古風景の動画を公開いたします。(記録用に撮影したものですので、お見苦しい点・お聞き苦しい点はご容赦ください。)
 

 
今回は、稽古開始から2週間は俳優同士の濃厚接触を避けて読み合わせのみで稽古を進め、この日が初めての立ち稽古。
舞台上の俳優同士は近距離になるため、セリフはそのとき舞台上にいない俳優や、演出の宮城が発するという、思わぬ形での「二人一役」稽古となりました。(演出家・宮城聰の俳優としての一面が覗けるかなりレアな映像となっております!)
台本の流れに沿って俳優がどこにいてどこから出てくるか、お互いどのような位置関係にいるのかを初めて立つセットの中で確認していきます。
このときまではまだ、翌日にもこのセットの中で続きを行うつもりでした。

〜〜〜〜〜

バーチャル立ち稽古(18:00-18:30予定)をご覧いただく方法は、明日17:00頃にSPACのSNS等でご案内いたします。
どうぞお楽しみに。
 

文:久我晴子(制作部)


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ふじのくに⇄せかい演劇祭2020
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』
2020年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)
各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ

出演:泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、牧山祐大、宮下泰幸(50音順)
★公演詳細はこちら
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2020年3月28日

【大解剖!『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の魅力】
Vol.3〜稽古場レポート・前編〜

3月も終盤に差し掛かってきましたね。
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』は、3月17日よりいよいよ稽古が始まりました!
 
今回のブログでは写真と合わせて、稽古場の様子をお届けします♪
 
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▲初日から、さっそく読み合わせがスタート! 稽古は静岡芸術劇場6Fのリハーサル室にて行われています。
 
 
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▲時に配役を入れ替えながら、全編通しての読み合わせを繰り返し行います。
 
 
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▲ひと通り読み合わせを終えると宮城から、唐戯曲独特のセリフの言い回しについて説明が入ります。
「唐十郎は、執筆している時に思ったことをそのまま、同時に、書いているんです。だから、役者はセリフを喋る時に、あたかもその時に思ったかのように喋らなければならない。競馬の実況中継みたいに(笑)全てのセリフが”生中継”で書かれているので、その先のセリフを想定しながら喋る、なんてことはできないんです。」

 
 
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▲劇中で使われる曲についても宮城から解説が入り、(この作品は劇中歌がとっても多いんです!)この日は森進一について。歌い方はデビュー当時から全く変わっていないのだとか! キャストたちはスマホを使って調べたり、メモをしたり…。
 
 
 
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▲稽古2日目には、舞台美術の模型をキャストにお披露目。美術デザインを担当しているカミイケタクヤさんより舞台装置についての説明が行われ、俳優たちは代わりばんこに模型を覗き込んでいました。
 
 
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▲宮城は具体的なシーンを提示して、舞台装置の使い方や見せ方を解説し、稽古の方法をキャストやスタッフたちと論議。台本×役者×舞台装置がどのように相乗効果を発揮していくのか、乞うご期待です!
 
 
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▲休憩時間に舞台装置の模型を眺める宮城。模型を色んな角度から覗いたり、動かしてみたり…。
 
 
作品のピースが徐々に揃い始めてきている稽古場。
次のブログでは、現在、組み立て作業を行なっている舞台美術の現場からお届けします!
次回もどうぞお楽しみに♪

写真・文:宮川絵理(制作部)



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ふじのくに⇄せかい演劇祭2020
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』
2020年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)
各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ

出演:泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、牧山祐大、宮下泰幸(50音順)
★公演詳細はこちら
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2020年3月17日

【大解剖!『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の魅力】
Vol.2〜あらすじ紹介編〜

SPACの新作野外劇『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の稽古が、本日より始まりました!今後のブログで、稽古場の様子をレポートしていく予定ですので、皆さまどうぞお楽しみに。
 
さて、今回のブログでは、本編のあらすじ紹介にのせて、知っているとより観劇が楽しめる戯曲の魅力についてご紹介します♪ なお、「観劇前にあらすじは知りたくないな…」という方は、観劇が終わってから読んでくださいね。(笑)
 
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▲『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』 イメージ・ビジュアル
 
 
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』は、演出家・劇作家である唐十郎が主宰していた劇団・状況劇場で1976年に初演されました。当時、状況劇場では春と秋に公演を行なっていました。春に全国ツアー向けの大きな作品を上演し、秋には(春と比べれば)少し小規模な作品を上演していたようで、本作は秋公演で上演するために作られた長編の一幕劇です。
 
 
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▲(左)本作が収録されている、『唐十郎全作品集 第五巻』(冬樹社)
(右)単行本『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(角川書店)こちらは合田佐和子さんによるビジュアルがとても印象的です。

 
 

〜あらすじ①〜

物語の舞台は、誰か知る相愛橋のある横丁。
すえたどぶ川の袂でさびれた傘屋を営む、ひとりの若僧・おちょこ。彼は、傘の修繕を頼みに来た女性客・石川カナへ片思いの真っ最中。いつか彼女に「メリー・ポピンズの傘を持たせる」と言いながら、預かった傘を開いては台の上から飛び降りて、「おちょこの傘」にならなくする為の実験に日々励んでいる。そんな彼の様子を傍目で見ているのは訳アリ男・檜垣。彼は一週間前にトラブルを起こし、瀕死状態でいたところをおちょこに助けられ、それ以降、傘屋に居候中なのであった。

 
 
「おちょこの傘」ってなんだろう?

本作のタイトルやセリフにもよく出てくる「おちょこの傘」というフレーズ。皆さんはこの言葉を聞いて、なんとなくイメージが湧きますか? いわゆる「おちょこの傘」とは、強風などによって傘がひっくり返り、おちょこのような形になった状態。例えば、「いやー、今日は雨風ひどくて、傘がおちょこになっちゃったよー。(笑)」といった感じで使われる言葉なのですが、意外と耳馴染みがなくなっているようで、「“おちょこの傘”って何?」と質問を多くいただきます。演出の宮城曰く、それは昔に比べて、骨組みの素材や構造が変わり、おちょこにならなくなっているからなのだそう。(でも最近よく売られている「耐風傘」はおちょこになるのだとか…!)
 
さて、「おちょこの傘」の具体的なイメージはこちらです↓
 
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▲1842歌川国芳『文屋康秀/百人一首之内』(大英博物館蔵)
 
こちらは江戸時代末期に活躍した浮世絵師・歌川国芳によって描かれた浮世絵です。中央の男が持っている番傘が強風により吹き飛ばされてひっくり返っている、というちょっとお茶目な絵ですね〜。これで「おちょこの傘」に対するイメージが少し湧いてきたでしょうか?
 
 

〜あらすじ②〜

ある日、カナが店へやって来る。今晩、銀河鉄道に乗ってこの街を出て行く為、修理に出した傘を取りに来たのだと言う。留守中のおちょこの代わりに応対をした檜垣は、彼女が、その昔自分が芸能プロダクションのマネージャーをしていた頃に関わった、ある事件の当事者であることに気づく。その事件とは、檜垣が当時担当していた人気歌謡歌手と石川カナのスキャンダルの果てに引き起こされた、人気歌謡歌手の母の自殺。実はカナは、その母親が書いた遺書の行方を追って、下関にある墓へ行こうとしていたのだった。そうとも知らず、1年前にプロダクションを辞めて、今はヤクザとして暮らしていると話す檜垣。1週間前にカナが投稿した新聞広告を見て、彼女に会うために相愛横丁へやってきたというのだった。

 
 
題材は有名人のスキャンダル

本作は、当時世間を賑わせた有名人のスキャンダルを元にして作られた作品として知られています。宮城によると、唐戯曲はその当時の事件(いわゆる時事ネタ)が元になっていることはよくあるのだが、有名人のスキャンダルを題材に作品を作ったのは非常に珍しいのだとか。
 
この戯曲の元となったのは、歌手の森進一を相手どり「婚約し男児までできたのに、婚約を破棄した」として婚約不履行による損害賠償を求めた事件で、作中では人気歌手の母の自殺が語られる(森進一の母親は1973年2月に東京都世田谷区の自宅で自死)など、現実に依拠した部分も多く語られています。
 
※事件そのものは、1973年7月、山口地裁下関支部で「原告(石川玲子)の主張は信用性がない」として原告の請求が棄却され、 翌74年6月、広島高裁も「異常なファン心理から妄想を抱いた疑いがある」として控訴を棄却し、森進一側の全面勝訴で終わっています。
 
この事件以外にも、1960〜70年代ならではの時事ネタが所々に現れていますので、そういった点にも注目して観ていただくと面白いかもしれません。
 
 

〜あらすじ③〜

そこへおちょこが店に戻ってきてカナと再会。しかし、今夜カナがこの街を去ることを知り、おちょこは「住む所が決まったらハガキをくれ、自分もそこへ引っ越す」と言う。そして、餞別だと言ってお金を渡すおちょこに、カナはあの事件にちなんだ狂言をさせる。しかし、狂言をさせたことを檜垣に咎められて混乱するカナ。それを落ち着かせようと、檜垣は人気歌謡歌手の母親が書いた遺書をカナに渡すのだが…。

 
これ以上書いてしまうと完全ネタバレとなってしまうので、あらすじはここまでにしておきましょう。ラストはぜひ劇場で目撃ください!
 
 
劇中歌は流行歌

劇中歌がたくさん使用されているのも、この戯曲の見どころのひとつです。劇中には当時の流行歌が数多く登場しており、例えば、森進一さんの「冬の旅」や、フィル・オクス(アメリカ人シンガーソングライター)の「No more song」、映画『メリー・ポピンズ』に出てくる「チム・チム・チェリー」など印象的な曲が使われています。曲が気になる方は、ぜひ動画サイトなどで検索してみてください!また、本編には他にもたくさんの曲が登場しますので、音楽にも注目して観ていただけると、よりお楽しみいただけると思います。
 
 
いよいよ次回のブログでは皆さんお待ちかね、稽古開始の様子をレポートします♪
ぜひお楽しみに!

文:宮川絵理(制作部)



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ふじのくに⇄せかい演劇祭2020
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』
2020年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)
各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ

出演:泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、牧山祐大、宮下泰幸(50音順)
★公演詳細はこちら
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2020年3月6日

【大解剖!『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の魅力】
Vol.1〜宮城聰に聞いてみました〜

今年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」で上演する、SPACの最新作『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』。このブログでは、本作の担当制作・宮川が作品の魅力や見どころについて、じっくりご紹介していきたいと思います!開幕までお付き合い頂けたら嬉しいです♪
 
先日「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の会員先行チケット発売(3/1~)にあわせて、『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』演目紹介movieが公開されました!
 

 
第1回目のブログでは、3月中旬の稽古開始に先駆けて、本作上演へ至った経緯、また現段階での作品の見どころを演出の宮城聰に聞いてみました。
(本インタビューは、上記の演目紹介動画を作成する際に収録したインタビューの全編です。)
 
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宮城 聰 MIYAGI Satoshi
このお茶目なポーズのヒミツは動画の最後で明らかに♪気になる方は、ぜひ上記の動画を最後までご覧ください!
 
 
--新作『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』上演に向けて、ひと言お願いします。

今年僕が唯一、新作として手掛けるのが『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』です。僕が唐十郎さんの戯曲を演出するのは『ふたりの女』に続いて2作目で、会場も同じく舞台芸術公園の野外劇場「有度」での上演です。
 
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▲舞台芸術公園 野外劇場「有度」
 
--今回、なぜ改めて唐十郎さんの戯曲を上演するのでしょうか?

僕はちょうど1年前に駿府城公園でヴィクトル・ユゴーの『マダム・ボルジア』という戯曲を上演しました。ご存知の通りヴィクトル・ユゴーは、『レ・ミゼラブル』や『ノートルダム・ド・パリ』といった作品も書いていて、考えようによっては、世界で最も上演されている舞台作品の原作者です。
 
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『マダム・ボルジア』(演出:宮城聰、原作:ヴィクトル・ユゴー)
 
僕がユゴーの戯曲を演出していて驚いたのは、作家の方が観客よりもなにがしか上の立場にいて、「観客がまだ知らないことを作家の私は知っているよ。だから観客の皆さんに教えてあげるんだよ。」っていうスタンスが全くないんです。皆目ないんですよ!
つまり、作家が書きながら、読者あるいは観客と全く同時にその出来事を体験している。作者自身が「へー、こうなるんだ!」っていう感じで、まるでその場に立ち会っている人のように書いているんです。

 
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『マダム・ボルジア』(演出:宮城聰、原作:ヴィクトル・ユゴー)
 
「これはすごいな、ヴィクトル・ユゴー、だから天才なんだ!だから世界で上演されるんだ!」と思った後でふと、「あ、これ何かに似てるぞ、そうだ唐十郎さんの戯曲だ。」と気づいたんです。
 
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『ふたりの女 ~平成版 ふたりの面妖があなたに絡む~』(演出:宮城聰、原作:唐十郎)
 
観客と唐さんが全く同時に体験しながら、あたかもその場に唐さんがいて、その様子を書き留めているかのように戯曲が出来上がっている。「これが観客と舞台の、真の平等性なんだ。舞台の方が偉くて、観客に対して上から下に情報を流すのではない、観客と舞台が本当にフラットなんだ。」と。ヴィクトル・ユゴーの戯曲をやりながら、その関係性が真の天才の手によって成し遂げられいて、唐さんの戯曲もそういうものだなと思い、それで今年も唐さんの戯曲をやってみよう、と思いました。
 
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▲『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』イメージ・ビジュアル
 
--舞台美術はカミイケタクヤさんです。

カミイケさんとは『寿歌』で初めて出会って、僕はそのセンスに非常に惚れ込みました。
 
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▲カミイケタクヤ氏
 
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『寿歌』(演出:宮城聰、作:北村想、美術:カミイケタクヤ)
 
「芝居を心の底から好きだ」ということと、一方で、舞台美術を一人の作家として作っていく作家性。実は、この二つは両立しにくいものなんです。作家性の方が前に出てくると、「これは私の造形作品です」という風になってきて、芝居に奉仕している感じがなくなってくる。また芝居に奉仕すると、裏方的な感じになってきて、舞台美術も作家の作品なのだという雰囲気が減ってしまう。しかし、カミイケさんはその両方のバランスができていて、成立しているんですね。「芝居の熱狂的なファンである」という熱を持っていながら、彼なりに戯曲を読み込んだ上で、彼なりの作品として提出している。それは一種の演出ですね。そんなカミイケさんの舞台美術にも、ぜひご期待ください。
 
☆★☆
 
また、先日グランシップ内にて「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」のプレス発表会が行われた際に、『ふたりの女』にも出演していた俳優のたきいみきと奥野晃士が登壇し、本作出演への意気込みを語りました。
 
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「私たちはSPACの”チーム・アングラ”(笑)として、唐戯曲のきらめくような言葉の数々を身体を通して語っていけるよう、また新たにチャレンジしていきたいと思います。」(たきい)
 
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「唐戯曲をやっているときの宮城さんは、まさに“演劇に恋した”状態。その中で生まれる今作を他にはない形で上演できるよう、アングラのスピリットを宮城さんから受け取っていきたいです。」(奥野)
 
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SPAC”チーム・アングラ”による『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』。稽古の開始がより一層楽しみなりました♪
次回のブログでは、「戯曲の魅力」をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに!

構成・文:宮川絵理(制作部)



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ふじのくに⇄せかい演劇祭2020
『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』
2020年4月25日(土)、26日(日)、29日(水・祝)
各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
演出:宮城聰
作:唐十郎
美術:カミイケタクヤ

出演:泉陽二、奥野晃士、春日井一平、片岡佐知子、河村若菜、木内琴子、鈴木陽代、関根淳子、たきいみき、ながいさやこ、牧山祐大、宮下泰幸(50音順)
★公演詳細はこちら
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