本連載ブログ【『ギルガメシュ叙事詩』Reports】では、2022年1月より始まった稽古から、3月のフランス国立ケ・ブランリー美術館での初演と、ゴールデンウィークに開催される駿府城公園での公演までの軌跡を皆様にお伝えして参ります。
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突然ですが…本作最大の見どころ、何だと思いますか?
ムーバー・スピーカーによる「二人一役」?
多彩な楽器を使用した俳優による生演奏?
駿府城公園に建てられた特設ステージでの野外公演?
世界最古の文学作品『ギルガメシュ叙事詩』の物語?
それらも見どころの一つではありますが、今回、宮城聰の祝祭音楽劇に新たな要素が加わりました。
それは…コラボアーティスト【人形劇師・沢則行氏】制作による【人形】です!
今回タッグを組むこととなったきっかけは、2019年10月にNHK Eテレにて放送された「SWITCHインタビュー 達人達」での対談でした。
「人形」と「一人二役」。
果たして…どのような【スパーク】が生まれるのでしょうか?
第3回目となるブログでは、沢則行さんにインタビュー行い、その内容をお伝えします。
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【沢則行・プロフィール】
チェコを拠点に世界的な活動を展開している人形劇師。これまで世界20ヶ国以上で公演を行い、チェコ国立芸術アカデミー演劇・人形劇学部を始め、多くの教育現場で講座、ワークショップを行う。
昨年駿府城公園で上演したSPAC『アンティゴネ』と同じく、 東京オリパラ大会の公式文化プログラム「東京2020 NIPPONフェスティバル」に選出され、巨大人形プロジェクト『モッコ』の人形デザイン設計および人形製作操演総指揮を担うなど日本でも活躍する。
[公式facebookページ]
https://www.facebook.com/theatrenorisawa
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2月下旬、インタビューのため訪れたのは、沢さんが”工房”と呼んでいる自然に囲まれた舞台芸術公園の施設の一つ「新稽古場棟」。沢さんは、1月中旬からここでSPAC創作・技術部美術班のメンバーとともに人形の制作に取り組んでいました。
沢さんの印象は【気さくな人柄】。
本人にお伝えすると「馴れ馴れしいんですよね、僕(笑)。楽しい方がいいからかな。」とおっしゃっていました。
ー本日はどうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします!
ーまず最初に、今回コラボを受けてくださった理由を教えてください。
宮城さんから「ギルガメで馬鹿でかい人形を」というオファーがあって。
モッコを見てくれたからじゃないかな?
仕事として成立する内容でスケジュールが空いていれば、地球上どこからオファーが来ても受けるんです。選抜はないです。連絡が来てスケジュールが空いていたので。どこへでも行くんです。
ー宮城さんとSPACの印象を教えてください。
宮城さんとはSWITCHインタビューで初めてお話しして、「頭がいい人」という印象を持ちました。対談はついていくので精一杯でした(笑)。4時間ぐらいカメラが回っていましたが、まだ宮城さんの頭脳は回っていましたね(笑)。
静岡芸術劇場もその際に初めてきましたが、居心地がよかったですね。
ここは立派な劇場だと思います。日本では「劇場」という言葉は、建物のみを指していますが、いわゆる英語の”theatre”はアンサンブル(アーティストやスタッフ)と建物と作品を指す。”どれかだけ”というのははないんですよ。ヨーロッパでは当たり前ですが、日本では珍しいでしょ?ここは”theatre”だと思いました。
ー劇団としてのSPACはどう思われました?
稽古を初めて見たとき、みんな楽しそうにやっているなと思いました。
宮城さんの人柄が表れていると思うんですよ。言葉にしてしまうとありきたりなんですけど、スピーカー、ムーバー、演奏がいて、彼らがクリエイティブにならなければ芝居は面白くならない、彼らがクリエイティブになるにはどうするのがいいかというのを一番に考えている。
いまだに自分が考えている通りに役者が動けばいいと思っている演出家もいるんですけど、それだと演出家の中にあるイメージを超えることはできないんですよ。宮城さんは、そうではないということですよね。
ー舞台芸術公園で創作をしてみての感想をお聞かせください。
ものを作るには適していますよね。創作する場を街中に作ってしまうと刺激が多くて集中できないんだよね。世界でも多くの劇団が都市部ではなく、地方都市の周辺に本拠地を構えることが増えているよね。
ー次に作品についてお聞かせください。『ギルガメシュ叙事詩』を初めて読まれて、どのようなイメージ、プランを持ちましたか?(『ギルガメシュ叙事詩』の物語については、「連載ブログvol.2-深掘り!ギルガメシュ叙事詩とは」をご覧ください!)
同じセンテンスを繰り返している。独特の言い回しですよね。そういったのはあまり現代にないじゃないですか。それが面白かった。あとは、一体この中のどこまでを人形で作るのか、大変そうだなと思ったのが最初の印象でした(笑)。
加えて宮城さんからZoomやメールで説明をしてもらいました。自然と人間、対自然のようなものがテーマというのを最初に教えてくれて。あと、これを聞くと演出家によっては叱られるんだけども、叱られてもいいやって聞いてみたの。「最終的にお客さんが劇場を出るときに何を思って欲しいか」と。それが目標だからね。
宮城さんは答えてくれました。メソポタミアの辺(現イラク)は、元々森だったところを伐採して砂漠にして街を作った。そして今、遺跡となったものをまた別の人間が別の正義のようなものでぶち壊す。
そういった文化に対する人間の意識や、「そういうことしてしまう人間という生物ってどうなんだ?」「人間ってどういうことなんだ」ということを、自分ごとのように思って帰って欲しいと宮城さんは考えていると思いました。
ーおっしゃったように本作にはたくさんの人形が登場しますよね。次はその人形についてお聞かせいただきたいのですが、例えば、フンババ(森を守る怪物)は、絵本などで描かれる一般的なフンババと、沢さんが作ったものは全然印象が違いますよね?
宮城さんのダメ出しってすごい難しいんですよ。5、6回描き直したと思います。こんなに描き直したのは初めてでした。宮城さんが潜っていく、海の底に向かっていく姿を見ながら、出ている泡を捕まえるみたいな。「あ、この泡、偽物だ」みたいなことを2ヶ月ぐらいやりました。
最初のフンババのイメージを出した時に、宮城さんからは「”顔”だと分からない方がいい」と。
でもこれから顔を取るとただの大きな布なんですよ。風呂敷になっちゃう。あと口もいらないって言われて、さてどうしようかと。
なぜなら顔がない人形というのは難しい。極端な言い方をすれば、顔だけあれば人形は成立するんですよ。キャラクターはとにかく顔。
例えば心霊写真で、「ここに人の顔がある」っていうのは顔じゃなくて「顔のように見えるもの」なんですよ。3つの点があると、人は顔と認識する。全ての人形はそれが基本なのだけど、それじゃないって言われて難しかった。
最終的には、宮城さんから「フンババは、植物のような、細胞のような、ウイルスのようなもの。だから顔がない。」とヒントをもらい、改めて考えました。
フンババも大変でしたけど、他の人形も何度も書き直しました。
蛇も最初は性別を女性にしているんですよ。「ギルガメシュに捨てられた女性が生まれ変わってったもの」という解釈が多くあるので。
でもそうじゃないんですよね?って(宮城さんに)聞くと、「そうじゃない。あと、もっとしょぼくしてくれ」と言われて。それでしょぼくしたら、「もっと」って。(最終的には)おもちゃのような蛇になった。
何度も書き直しましたね…
直し続ける中で「僕は歳をとっちゃったのかな」って若干落ち込みました(笑)。
エンキドゥについては、「エンキドゥは草食動物たちと暮らしているから、獣の皮を着ているのはおかしい。エンキドゥの体から毛が生えているように」と。あとは肉食動物の牙から草食動物のものに変えました。
あと、サソリ人間(門番)については、最初はこれでした。
「顔がどこの国の人かわからない方がいい」「顔が大きすぎる」という意見をもらったのですが、創作の工程まで考えると、これを作っていたら公演に間に合わないと途中で気づき、人形という形ではなく、現在の形になりました。
(以下、フランス渡航前に行われたテレビ局のインタビューより)
ー稽古に参加してみてどう思われました?
宮城さんが面白いのは、人形使いならなんとか技術的に隠そうとするところを、逆にさらけ出そう、暴き出そうとするんですよ。人形劇ではやっちゃいけないと教わることをやろうとするんですよ。
たとえば、人形と人形が見つめ合うシーンの時は、本来は横を向き合うんじゃなくて、それぞれ45度を向く。
(通常の人形劇では)横を向くとお客さんから人形が見えづらくなると教えられていて。でも、ギルガメシュ役の大高さんと、船頭ウルシャナビという人形が見つめ合うシーンでは、横を向き合うんですね。
また、距離もキスしてしまうぐらい近づくのですが、これも人形劇ではあまり求められる距離ではないのですよね。でも、しばらく稽古してきて、今日そうする理由がやっと分かったんです。
宮城さんは全部計算していて、ギルガメシュとウルシャナビと、ウルシャナビの後ろに僕がいる。
横に向き合うことで、僕らだけしかいない集中した空間を作ろうとするんですけど、でも僕らは役者なので性としてお客さんを無視するようなことはできないんですよ。
だから首がほんの少しお客さんの方を向いている。でもあまり向きすぎると宮城さんからダメ出し出ちゃうから戻そうと意識しています(笑)。
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さて連載ブログ、第3回目はここまで。
本連載では、『ギルガメシュ叙事詩』がどのように仕上がっていくのか、ひとつひとつのパーツがつながっていく、その創作の過程を追い、皆様にご紹介して参ります。
本作『ギルガメシュ叙事詩』は、5月2日(月)から5月5日(木・祝)まで、駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場にて上演しております。お楽しみに!!!
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フランス国立ケ・ブランリー美術館委嘱作品/SPAC 新作
『ギルガメシュ叙事詩』
台本・演出:宮城聰
翻訳:月本昭男(ぷねうま舎刊『ラピス・ラズリ版 ギルガメシュ王の物語』
音楽:棚川寛子
人形デザイン:沢則行
出演:阿部一徳、大高浩一、石井萠水、大内米治、片岡佐知子
貴島豪、榊原有美、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木陽代、関根淳子
大道無門優也、舘野百代、本多麻紀、森山冬子、山本実幸
吉植荘一郎、吉見亮
/沢則行(操演)、桑原博之(操演)
公演日時:
2022年5月2日(月)、3日(火・祝)、4日(水・祝)、5日(木・祝)
各日18:40開演
会場:駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
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