皆さんこんにちは!SPAC制作部の佐藤美咲です。
今回は、ゴールデンウイークの「ふじのくに⇄せかい演劇祭2023」に韓国/アンサン市からやってきたシアター・カンパニー・ドルパグの『XXLレオタードとアナスイの手鏡』の制作レポートをお届けします!
*作品についてはこちら
ドルパグメンバーを、富士山静岡空港と羽田空港でお迎えしました。
まず、4月30日のスペシャルトークに向けて、演出家のチョン・インチョルさん、他スタッフの計3名が来日。富士山静岡空港では、週に3回(4/25~6/30までは週4!!)、ソウルの仁川と静岡を結ぶ便が出ているそう!空港の展望デッキから飛行機が着陸するところを見るのもなんだか久しぶりでした。
▲Welcome to Shizuoka!
残りのメンバーのお迎えは羽田空港で。
海外作品を担当するのは初めてで、空港の到着口で出迎えたのも初めてだったので、結構緊張しました。。
▲周りの誰よりも大きかったWelcomeボード
無事に合流できて、バスで静岡市内のホテルに向かいます。
▲バスに乗り込む前にパシャリ!咄嗟に撮った写真なのにめちゃかっこいい。。
4月30日
この日は朝から、演出家のチョン・インチョルさんが、特別企画のスペシャルトークに出席。ドルパグメンバーも聞きにきていました。
その後、『アインシュタインの夢』と『ハムレット(どうしても!)』をハシゴ観劇。
夜の舞台芸術公園は4月下旬でも凍えるほど寒いので、厚着でとお願いしていたのですが、ジュンホ役のオ・ヘヨンさんはなんと半袖で観劇していましたね・・・(笑)
観劇後は、テクニカルミーティング!舞台は早速『アインシュタインの夢』から『XXLレオタードとアナスイの手鏡』仕様に。いよいよ動き出します。
5月1日
劇場ではテクニカルスタッフの仕込み作業が進む中、俳優陣も舞台美術の仕上げを行っていました。
作品に登場する、「鉄棒」や「全身鏡」にペイントを施し文字を書き込んでいきます。
この「全身鏡」に書いてある言葉は、ある意味この作品のテーマでもあるような気がしています。そしてなんとSPACの『天守物語』や、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2023」のガイドパンフも切り貼りされていました!皆さん気が付きましたか??
皆さんが手を動かしている姿を見て、私も創作意欲が湧いてしまい、、事前に行った企画「若者の悩みってなんだ?」の一部も併せてロビーに展示スペースを作っちゃいました。
*事前企画「若者の悩みってなんだ?」のレポートはこちら
5月2日(初日前日)
この日はゲネプロが行われました。
今作は、日本語上演ではなく、韓国語での上演です。
そのため、日本語字幕をどのように表示させるか、また、観ている人が、その字幕も舞台上の俳優も追えるように、字幕内容を整えていくことが大切です。
字幕翻訳・字幕監修・字幕オペレーターを中心に、日本の観客の皆さんに分り易く伝わるように何度も練り直しが行われました。
そして、こんなこぼれ話も。
劇中で、体育のヨンギル先生が、ヒジュに向かって「酢豚の美味しいお店に行こう」と誘うのですが、ヒジュは酢豚が嫌いだと言います。
その後、もともとの台本では「ちゃんぽんも美味しいよ」と話しかけ、ヒジュは、「辛いのが嫌い」だとこたえます。
日本で、「ちゃんぽん」と言えば、「長崎ちゃんぽん」を思い浮かべませんか?あっさりしていて野菜が沢山入っているイメージで辛いラーメンではないような気がします。
しかし、韓国の「ちゃんぽん」は、ムール貝の入った、真っ赤で辛いラーメンなのだそうです。
まさにカルチャーショック・・!
そこで静岡バージョンでは、辛い中華料理として「麻婆豆腐」を採用!他にもジャージャー麵や油淋鶏など、日本人にも馴染みのある中華料理に変更しました。そのまま上演するのではなく、文化や習慣の違う日本の観客にもなじむようにアダプトさせていく過程はとても面白いなと思いました。
『XXLレオタードとアナスイの手鏡』では舞台の3面がを白い壁で囲まれ、俳優は上演中一度も舞台から捌けることなく、ずっと出ずっぱりなことが特徴的です。
それは、役の大小に関わらずお互いに影響し合っているということ、俳優同士や、観客との距離感を大切にしているからなのです。そのため、字幕を投影する位置に関しては、重要な論点となりました。
壁の上にLEDパネルを出して投影させたら、読みやすさはあるが、異質なものに感じてしまう。白い壁に文字を投影させると、やや読みづらさはあるが字幕が舞台美術や俳優の身体にもなじむので芸術性は優れている。俳優の立つ位置によっては文字が隠れてしまうので、その確認も行いました。
▲俳優の位置によって文字がどのくらい隠れてしまうのか確認するスタッフたち
演出家と、ドルパグとSPAC双方のテクニカルチーム、制作チームで何がベストなのか話し合い、ゲネプロにて、客席の前方や後方、左右ブロックなど色んな席から字幕が読めるかどうかの確認を行いました。
▲ゲネプロの様子
5月3日(公演初日)
ついに本番です!この作品は、2015年に初演されているので、8年間も連続上演されているのですが、日本初演ということもあり、ドルパグのメンバーもドキドキしている様子が伺えました。
制作担当である私も、半年間ほど演目について学び続けてきたので、作品がいよいよ上演されるということ、どんな反応がお客様から返ってくるのかとてもドキドキしました。
▲上演前の様子。舞台上で俳優さんが話し合っているのを演出家のチョン・インチョルさんが見守っていました。
無事に開演。その90分間はとても濃密な時間でした。
客席では、笑いも、シリアスなシーンでは真剣な眼差しも。観客の皆さんの集中力がぐっと高まっていくのを体感しました。個人的には、ジュンホがレオタード姿になるときに、どんな反応になるのだろうかと思っていたのですが、笑いも混じった反応は正直意外でもありました。
昨年のロンドン公演では、ハートフルな作品だと売り出されていたのですが、事前に動画で観たとき、正直あまりピンときていませんでした。しかし、実際に観てみると、目の前の舞台上で繰り広げられる高校生たちの成長もハートフルではあったのですが、生きづらさを抱えながらも心を通わせていくその瞬間を観客が見守っている空間そのものが、とてもハートフルなんだと実感することができました。
物語はハッピーエンドではありませんが、俳優が捌けた後も鳴りやまない拍手がとても温かかったです。そして観劇した後の余韻があって、それは映像では感じられない、ライブで観ないと分からない感覚だと観劇の面白さを再認識することができました。
終演後には、SPAC芸術総監督の宮城聰とシアター・カンパニー・ドルパグ主宰のチョン・インチョルさんが登壇するアーティストトークが繰り広げられました。
*アーティストトークのレポートはこちら!
その夜、ドルパグメンバーは、駿府城公園で『天守物語』を観劇。
今回の『天守物語』では、韓国語の字幕もあったので、ドルパグメンバーも内容を理解して観劇していただくことができました。二人一役のスタイルにとても興味津々でした。
また、SPAC演劇アカデミーの生徒たちに遭遇し、現役高校生たちと交流することができました。
チョンさんは、演劇を通じて「世代」・「場所」・「俳優」を繋げたい、演劇に対するハードルを下げたいとおっしゃっていたので、まさにその繋がる瞬間を目撃しました。
偶然ではありましたが、双方にとって良い機会になったと思います。
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そんなこんなで2日目の公演も拍手喝采で終わり、『XXLレオタードとアナスイの手鏡』は大きなトラブルもなく、無事に幕を下ろすことができました。
韓国の大学受験に悩む高校生たちを描いた作品ですが、登場人物一人一人が持つ悩みに日本の観客の皆さんも共感できることが多い作品だったのではないでしょうか?
私自身、学生時代は大学受験に対しても深く悩みましたが、アルバイトと学業の両立にも物凄く苦しみました。それもあって、マクドナルドの制服を着たヒジュが何とも言えない表情で走っている姿がとても印象に残っています。
初演が終わった後メンバーの皆さんに、今日の初演とてもよかったと伝えたら、「そうなると思ってた(I expected.)」と言われ、私は心の中で「かっけえ!!!!」と叫んでしまいました。
初演から時が流れても、なおいっそう話し合っている姿や、作品に自信と信念を持って上演し続けている姿に心を打たれました。
ドルパグの皆さんは、リサーチ力が高めで、静岡で「さわやか」のハンバーグが食べたい!とずっと言っていました(笑)。
最終日の帰国直前には、皆さんでうな丼を食べに行ったそうで、静岡を満喫してくれていました。
ちなみにドルパグの活動は2025年までを予定しているとのこと。
この作品が気に入った!という方は、ぜひこの機会に渡韓してみては?6月には新作公演も予定されているらしく、私もなんとかして韓国に行って観劇したい・・・・・!(祈り)
改めて、ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
(制作部・佐藤美咲)
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【演劇/アンサン・韓国】
『XXLレオタードとアナスイの手鏡』
日時:5月3日(水・祝)14:00、4日(木・祝)13:00
会場:静岡芸術劇場
上演時間:90分(途中休憩なし)
韓国語上演/日本語字幕
演出:チョン・インチョル
作:パク・チャンギュ
製作:シアター・カンパニー・ドルパグ
https://festival-shizuoka.jp/program/xxl-leotard-and-anna-sui-hand-mirror/
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