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ブラジルに行くのはもちろん南米に行くのも初めてのことでした。フランスで飛行機を乗り換え、24時間以上かけてサンパウロへ。最初の日本人移民たちは約2ヶ月かけてブラジルにたどり着きました。とてつもない距離の移動。そのことで一層、彼らが日本への憧憬を強めたことも想像できます。
初日は、国際交流基金サンパウロ事務所の職員の方からお話を伺った後、ブラジル日本移民資料館とサンパウロ移民博物館に行きました。日本移民資料館は、再現された移住当時の家屋などがあり、彼らの暮らしを想像することができました。思うようにいかない農業、戦時下の日本人の処遇、戦後の日本人同士の対立……。あらかじめ勉強はしていたとはいえ、過酷な状況の連続に言葉を失いました。

移民博物館では日本に限らず世界中からの移民の受け入れに関する展示を見ました。どちらも移民の歴史をきちんと残して未来に伝えようという意思を感じました。博物館の展示から、サンパウロの日本人街あるいは東洋人街と呼ばれるリベルダージに最初に住み始めたのは黒人の方たちだったことを知りました。口伝だけではいつの間に歴史が改変される恐れがある。こういった資料館・博物館の重要性を感じます。

2日目は飛行機でロンドリーナへ。なだらかな丘で形成された木々の多いこの街には日系人のコミュニティがあります。到着した日はロンドリーナ大学でトークとワークショップをおこないました。翌日は、ロンドリーナの文化体育協会がおこなうジャパン・エクスポへ。大規模な「日本祭り」といえばいいでしょうか。日本文化の紹介、日本にまつわるマーケット、日本の歌が披露されるステージ、日本食が食べられるフードコート。たくさんの日系人の方とお会いすると同時に、日系人以外のお客さんも多く訪れていたのが印象的でした。

翌日は車でマリンガへ。ここも大きな日系人コミュニティがあり、文化体育協会が日本文化の継承や日本語教育などをおこなっていました。カラオケ大会やすきやき大会も日常的に開催されており、また、ここでも年に1度大規模な日本祭りをおこなうとのことでした。ホールには歴代の会長の写真がずらりと並んでいました。ロンドリーナの文化体育協会の現在の会長は初の女性とのことでしたが、マリンガの会長はこれまで全員男性。偏見かもしれませんが、組織の中心が男性であるところに、どこか日本的なものを感じました。


それぞれの場所でお会いした方々は二世と三世の方が多く、日本語を話す方、ポルトガル語で話す方、人によって異なりました。渡航した年齢、家庭の方針などによって状況が変わるということもわかってきました。文化体育協会の訪問後はいよいよオスカールさんのご自宅へ。あたたかく迎えてくださり、食事をしながらゆっくりとお話ししました。この作品をつくる過程から、創作全般で大事にしていることなど伺いました。その中で印象に残ったが「ガランチード」という言葉です。「保証付き」のような意味で、規則を守ってしっかり仕事をする日本人や日系人は「ガランチード」と言われるとのことでした。実際、日本人・日系人は教育に熱心な人も多く、オスカールさん自身も生まれは農村ですが、オスカールさんに教育を受けさせるために一家で街に移住したとのことでした。オスカールさんは、小説家であり大学教授ですが、医師などの仕事に就く日系人も多いのとのお話しでした。

翌日、マリンガからサンパウロへ戻り、サンパウロの文化施設を見学し演劇を観たあと、翌朝、4時間かけて飛行機で北部のベレンへ向かいました。アマゾン川の河口付近の街であるベレンで驚いたのは食文化でした。日本でも人気の冷たいアサイーを主食として食べるのです。甘みのないアサイーは好みがわかれると思いますが、私はすごくハマりました。あの場所でしか食べられない贅沢な食事でした。

翌日、4時間車に揺られて、トメアスーへ。トメアスにはブラジル北部で最大の日本人コミュニティがあります。1920年代後半から入植が始まり、現在も農業が主な産業です。お話を伺いに行った文化農業振興協会の2階にも日本人移民資料館がありました。トメアスーには移住当初、道がなく川からしかアクセスできなかったこと、そして電気や電話といったインフラも1970年代から80年代にかけてようやく整ったことなどを知りました。私たちの訪問に合わせて、一世、二世の方が集まってくださっていました。ここに詳しく書くことはできませんが、移住にまつわる過酷な状況についても伺いました。その中で、試行錯誤しながら生きる方法を見つけたみなさんは、いまも何かしらの形でコミュニティに貢献しているそうです。また、協会の運営は三世の方たちが中心になっていましたが、彼らは若い世代への歴史の継承に力を入れているとのことでした。ただ、冊子などをつくっても読んでもらえないと、残念がっていました。こういう土地でこそ伝承のための演劇をつくれるといいのかもしれません。

最後に日系二世の嶺下さんが経営する農園に行きました。そこでは「アグロフォレストリー」という農法が取り入れられていました。一箇所にカカオやアサイー、パッションフルーツ、マカボニーなど10種以上の異なる農作物を植えることで、1年中収穫できて、なおかつ落ちた葉や実などで土が豊かになるという農法です。たくさんの木に覆われた農園には自然な影が落ちていて、黒くて湿った土はふかふかしていました。

その土を見て、またブラジルという国に想いを馳せました。異なるルーツを持った人たちがひとつの場所に暮らし、豊かな文化をつくっている。ブラジル滞在中、一番に感じたのが人の懐が深いということでした。来るものを受け入れ、さまざまな文化を取り込んでいく。私たちのこともよそ者扱いしないで、むしろ日本人が来たと言って喜んでくれました。24時間かけて外国に来たのに、まるで日本の延長線上にいるような安心感がありました。それは、日本に帰ってきてからお話を伺った『うなぎの回遊 Eel Migration』の出演者の方からも感じました。彼ら自身がいろいろな経験をして、いろいろな人と出会ってきたからこその包容力がありました。日本で暮らす私たちも、ブラジルという国と、ブラジルで暮らすみなさんの姿から教えられることは多いと感じます。
強くて優しい人たちとたくさん出会えた旅でした。みなさんの想いを胸に作品に取り組みたいと思います。いまは、またブラジルに行きたい! そして、いつかブラジルでもこの作品を上演をしたい。夢は言葉にしておきます。
- 瀬戸山美咲
SPAC秋のシーズン2026-2027
#2『ニホンジン』
<静岡公演>
2026年 11月28日(土)、29日(日)、12月5日(土)、6日(日)
各日13:30開演
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
<沼津公演>
2027年 1月30日(土) 13:30開演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
<浜松公演>
2027年 2月7日(日) 13:30開演
会場:浜松市浜北文化センター 大ホール
日本語上演/英語/ブラジル・ポルトガル語字幕あり
