2018年8月5日

<『顕れ』#003>レオノーラ・ミアノ氏講演会レポート

Filed under: 『顕れ』2018

今回は去る7月23日に東京・飯田橋のアンスティチュ・フランセ東京にて行われた、『顕れ』作者レオノーラ・ミアノ氏による講演会のレポートをお届けします!
*講演会は、「SPAC秋→春のシーズン2018-2019」製作発表会と同時開催しました。
 レポートはこちらからお読みいただけます。前編後編
 
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▲写真左は、通訳を務めた法政大学理工学部創生科学科教授・元木淳子先生。現代アフリカ文学がご専門であり、ミアノ氏の作品についての論文を数多く執筆されています。
 
ミアノ氏は宮城へ演出を依頼したきっかけから話し始めました。宮城が演出したSPAC作品『イナバとナバホの白兎』、『マハーバーラタ』をフランスで鑑賞しており、宮城を「文学が人間共通の宝物であるということを深く理解している」と評価。「アフリカ大陸で起こった出来事についても深い理解を示して、人類一般の問題として表現することができるだろうと思い、演出をお願いした」と話しました。また稽古場で見た現時点での作品の立ち上げ方についても、「とても素晴らしく感動した」「ゆっくりとこのお芝居の船出を楽しみたい」と期待を述べました。
 
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▲ミアノ氏には7月20日、21日に『顕れ』稽古に参加していただきました。詳しくは前回のブログにて。
 
次に戯曲『顕れ』(原題:Révélation)について。この作品は奴隷貿易を主題にしていますが、一般にイメージされるようなヨーロッパ人とアフリカの人々との関係ではなく、アフリカ大陸にあった加害者と被害者の関係について深く切り込み、加担していた者たちの罪の告白を描いています。(ちなみにミアノ氏は、「奴隷貿易」という言葉を使いたくない、と<大陸間人間貿易>と表現していました。)
「私がアフリカの歴史の中でタブーとされていることを語ってきたのは、人の心を混乱させたり困らせたりするためではない。人や社会は苦しみの原因を考えないまま、そこから回復することはできないと考えているからだ。回復しなければ、人々、そして社会は本当の自己を開花させることができない。そしてアフリカの傷を語るということは、取りも直さず世界のほかのありとあらゆる傷を照射するということに繋がる」と書き続ける理由を語りました。
今作は奴隷貿易に関わったアフリカにおける加担者に声を与える、語らせるという今までになかったアプローチによって書かれています。「私は、アフリカ大陸を出て大西洋で命を失った、海の藻屑となった人たちの魂を鎮めたい、その人たちを悼みたいという気持ちが強くある」と語り、奴隷にまつわる建造物はあるものの、それは歴史的な事実の証言でしかなく、死者たちを尊重し名誉を回復するものではないことを指摘。「アフリカは昔から生者と死者が共存している社会であるにも関わらず、そうした死者を悼むことなく閉口しているのはなぜなのか。それは死者を弔うには奴隷貿易に手を染めた人たちの所業に向き合わなければならないからです。つまり同時に自分たち自身に向き合うことであり、そこにアフリカ人は恥ずかしさや困難を感じています。私は芸術家として、加担者に向き合ってその人たちに語らせるということをあえて行った」と話しました。

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中盤からは、自身の作家性についてより詳しく語りました。ここからはほぼ全文を掲載します。

「歴史を私という芸術家を通して語るときにはもちろん、一つの審美というものが必要でした。扱う内容が辛く厳しい内容であっても、そこに美を盛り込むことによって、芸術家というものは一つの作品につくりあげていきます。私は執筆にあたって、出身地であるカメルーンの神話を用いました。女神が死者に語らせる力を持つ、そんな女神を設定しています。ですからこの作品はある種の審判の場ということになります。奴隷貿易の複数の犯罪者を舞台に上げることによって、彼らの行為がどういったものだったかを表現しました。私はほかの作品でも常にそういうふうに心がけていますけれども、二元論で簡単に分けてしまわず、複雑な人間というものを構築しようと考えています。ですからアフリカ大陸におけるさまざまな哲学、あるいは歴史といったものをそのなかに盛り込んでいます。また私は自分の作品のなかで一つの登場人物を造形するとき、多くの人々を複合して表現したいと考えています。たとえばこの作品ではウブントゥという人が出てきますが、この一人の登場人物によって大西洋で亡くなったすべての死者を表そうとしています。奴隷貿易に加担した各登場人物も特定の一個人だけをモデルにしているのではありません。彼らは同じようなことをした全ての人を表象するものとして、私個人がいろいろな要素を集めて想像した産物です。それが私の独特のスタイルです。ですから観客の皆さんには、この作品が特定の国や歴史的な人物について語っているのではなく、アフリカに起源をもつ人々について語っていると捉えていただきたいです。このように非常に悲惨な出来事を審美的な方法を使って書くことによって、人類共通の苦しみを和らげ、鎮魂することに繋がっていくと考えています。」

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講演会後、質疑応答が行われました。会場に集まった方々からは本質的な質問が届き、いずれの質問に対しても、真摯にそして迷うことなく答えていたミアノ氏の姿が印象的でした。私たちと同時代を生きる作家本人から、作品について、そして日本での上演に向けての話を伺うことができ、大変貴重な機会となりました。

*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら


2018年7月21日

<『顕れ』#002>作者レオノーラ・ミアノ氏来静!

Filed under: 『顕れ』2018

『顕れ』の作者、レオノーラ・ミアノ氏が静岡に来られました!
20日は丸一日、舞台芸術公園の楕円堂で行われている稽古に同席。
座組にとって作者の話を直接聞くという、大変有意義な時間になりました。

ミアノ氏は「自分の作品が皆さんによって上演していただけることがとっても嬉しい。」と挨拶。
「アフリカの大地を感じられるように」と、稽古場にアフリカからのお土産を持ってきてくださいました。

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宮城作品の稽古では毎日行っているトレーニングを見学していただいた後、いま出来ているところまでのシーンを見ていただき、質疑応答を行いました。
俳優たちが名前と役を紹介すると、「あなたは役の雰囲気にとてもよく合ってる」など笑顔でやり取り。上演言語は日本語ですが、各キャラクターが手に取るように分かったようです。
また音楽についても、「音楽を演奏したり止めたり、というのはアフリカにはない自由な発想でとても新鮮」「アフリカだからアフリカっぽい音楽という選択を取っておらず、音楽と言葉の調和があり、作品をきちんと昇華して作ってくださっているという感じがする」とコメント。

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続いて音楽監督を務める棚川さんが、「(ミアノ氏の出身地である)ドゥアラ語の好きな歌をうたってほしい」とお願いすると、ミアノ氏から「わたしが書いた曲でもいいかしら」と思いもよらぬ回答。
それはアフリカで奴隷貿易に関わった人についての作品を書くなかでそのテーマをより突き詰めていくために書いたという作品群で、曲がそれぞれ奴隷貿易を段階的に語っているそうです。
稽古場で披露されたのはそのうちの1編で、ある人物が捕まって舟で運ばれている最中、はじめて甲板に出たときに故郷のアフリカ大陸はもう見えず二度と戻れないということを知り、自殺して魂だけはアフリカ大陸に残れるようにと願う歌。
楕円堂内はミアノ氏の静かで、けれどとても力強い情感の込められた歌声に包まれました。聞き終えた棚川さんは目に涙を浮かべ「計り知れない悲しみが伝わってきた。自分が今回の作品につくる曲とは曲調などまるで違うけれども、どこかで繋がるような曲にしたい」と話しました。

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その後も、質疑応答は夜遅くまで続きました。
ミアノ氏は作品の背景となっている文化や風習についてや、キャラクター造形についてなど、一つ一つの質問に真摯に答えてくださいました。
『顕れ』は奴隷貿易を主題にしていますが、一般にイメージされるような白人と黒人の関係ではなく、アフリカ大陸にあった加害者と被害者の関係について扱う戯曲です。そのため作品の発表や日本の劇団による上演について、ヨーロッパにいるアフリカ人から批判を受けることもあるそうです。
ミアノ氏は「自分はこのテーマに取り憑かれている」と表現し、「私はアーティストだからこそこういう作品を発表するし、それは文学的なアプローチによる魂への弔いだと考えている」と力強く話しました。
またSPACが上演するということについて、「フランス人やアフリカ人がやるとあまりにも生々しくなってしまう。そこから離れた人たちが上演することで、上演される作品は観客にとって個人的な反応を引き起こすのではなく、普遍的・人間的なものとして受け取られるようになるのではと思っている」と話しました。

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加害者の告白を聞く、という新機軸に共鳴し作品の演出を引き受けた宮城が、作者本人との対話を経てどのように“演劇的な弔い”に編み上げていくのか。
9月・フランスでのワールドプレミアに向けて稽古は続きます!
*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら

★「SPAC秋→春のシーズン2018-2019」の製作発表会と同時開催する、レオノーラ・ミアノ氏の講演会がいよいよ明後日に迫りました!
ミアノ氏のお話を皆さんにも直接聞いていただける貴重な機会です。ぜひお越しください。
詳細はこちらをご覧ください。


2018年7月15日

<『顕れ』#001>県大での公開授業レポート

Filed under: 『顕れ』2018

今月9日より、宮城聰の演出による新作『顕れ(仮題)』の稽古がスタートしました!
この作品は、フランス・パリにある現代作家の作品のみを上演するコリーヌ国立劇場の創作委嘱を受けた作品で、静岡では「SPAC秋→春のシーズン2018-2019」の3作品目として年明け1月の上演が予定されています。

稽古がはじまったばかりの11日に、「ムセイオン静岡」*特別企画として、静岡県立大学にて宮城聰による公開授業「『顕れ(レヴェラシオン)』について」が行われました。
『顕れ』ブログ第1回目は、この公開授業のレポートをお届けします!(写真提供:静岡県立大学 広報・企画室)

大学でいう1限目、9時からのスタートにも関わらず、学生だけでなく職員や地域の方々が詰めかけ、220名定員の教室は満員に!
「僕が1限に出ていたのは、大学1年生のときくらい(笑)何年ぶりの1限だろうかなんて思って今日は来ました」という宮城の言葉から講義がはじまりました。

*「ムセイオン静岡」とは?
静岡市の草薙地域およびその周辺地域には、静岡県立大学、静岡県立美術館、静岡県立中央図書館、静岡県埋蔵文化財センター、静岡県舞台芸術センター(SPAC)、グランシップ(静岡県コンベンションアーツセンター)、ふじのくに地球環境史ミュージアムが位置し、若者や専門家が自由に行き交い、多くの文化を発信しています。
「ムセイオン静岡」は、この地域の文化関連機関が、自主協働プログラムとして文化・芸術・教育を学ぶ場を提供し、文化を発信する活動をしていきます。

 

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委嘱を受けた経緯

ことの始まりは、2016年のある日。
ワジディ・ムアワッド氏から「どうしても宮城と直接話したい」と連絡をしてきたそう。
ワジディ氏は、8歳のときに戦火のレバノンからフランスに渡り、15歳のとき再亡命を余儀なくされたという過去を持つ劇作家。
SPACは2016年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」に彼の作品を招聘し、『火傷するほど独り』(原題『Seuls』)が上演されました。

  <参考>
   ◎『火傷するほど独り』演目ページ
   ◎ワジディ・ムアワッドのこと(横山義志)

そんなワジディ氏からの話は
2017年にフランスのコリーヌ国立劇場の芸術監督に就任することが決まり、2018年のシーズンのオープニング作品を宮城に演出してほしい」というもの。
戯曲はカメルーン出身フランス在住の女性作家、レオノーラ・ミアノの『顕れ』原題:Révélationで、「演劇の魅力がぎっしり詰まったどうしても上演したい戯曲」「作者と誰に演出を頼むのがいいか検討したが、なかなかこれだという人が出てこず困り果てた。そこで、実現可能性を棚に上げて世界中の誰でもいいから演出してほしい人の名前を挙げようと話したとき、レオノーラ氏から挙がってきた名前が宮城だった」と伝えられたそう。

『顕れ(Révélation)』は奴隷貿易を扱った芝居で、宮城は依頼を聞いた当初、「日本の僕らにとっては最も知らない・遠い題材だと感じた」と言います。
なおかつワジディ氏のオーダーは、フランスの俳優に演出するのではなく、SPACの俳優たちで作ってそれをコリーヌで上演すること。
シーズンのオープニングを海外のカンパニーに、という驚天動地の依頼に最初は戸惑ったそうです。

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演出を引き受けるキッカケとなった、ある“偶然”

『顕れ(Révélation)』にはまず、最高神・イニイエが登場します。
アフリカでは輪廻転生、死ぬと魂は“魂の海”に還っていく、というのが基本的な死生観。
この戯曲では、人間の肉体が誕生するときに、最高神・イニイエの懐のなかから魂が飛び出して赤子の中に入るとされています。
この魂たちが「この世に生まれたくない」とストライキをはじめ、「かつてものすごく大きな、途方もない罪を犯したアフリカ人たちの告白を聞かなければ、この世はどんどんひどくなってしまう。」と言います。
その途方もない罪というのが、奴隷貿易への加担
アフリカの歴史のなかで、加担した人についてはほとんど語られることなく、そのうえ本人たちも口をつぐんだまま死んでいきました。
無念や怨念を抱え込んだまま死んでしまっているために、アフリカは幸せになれない、その魂たちを呼び出して告白してもらおう、というところからこの物語ははじまります。

宮城はこの「この世への恨みや自分への恨みを抱え込んだまま死んでしまった人が、そうした人生で最も辛い瞬間を語り直す、演じ直す、そしてみんな(観客)にシェアすることによって救われる」という構造・テーマが、自身が演出を手掛けた近作と通ずるところがあると感じ引き受けたそうです。

たとえば、2017年5月に静岡で、7月にはアヴィニョン演劇祭で上演した『アンティゴネ』は、原作通りだと全員が不幸になって終わるところを、冒頭のシーンで舞台上の人物をすべて亡者とし、劇中劇として亡者たちが記憶を回想するというしつらえにしました。
これには上演場所である、アヴィニョンの法王庁の中庭にたくさんいるだろう非業の死を遂げた浮かばれない魂を想い、その魂たちの慰めになるような芝居をしたい、その魂たちが救済され喜んでくれれば、おそらく上演は成功するという構想があったそうです。

また2017年1月に上演した『冬物語』は、嫉妬ゆえに最愛の人を自殺に追い込んでしまった人間を“赦す”芝居。
かつての人生の最も痛切なシーンを演じ直すことによる、魂の救済です。
さらに2018年1月に上演した能形式の『オセロー』は、まさにそうした霊的な存在が主人公となる「複式夢幻能」の形式を使ってシェイクスピアの『オセロー』をリライトし上演しました。

この3作品が上演されることを知らなかったワジディさんが『顕れ(Révélation)』の演出を依頼してきたという偶然、そしてアフリカの死生観と鎌倉仏教以後の日本的な死生観にとても似ているところがあることに驚いたと語りました。

稽古真っ最中だからこその熱量で、90分間ノンストップで話し続け授業は終了。
参加者からは、「すごくいいお話でした。授業で学んだ能「実盛」のお話とリンクして興奮しました」
「奴隷貿易なんて特に興味ないなと思っていたけれど、お話を聞いて、これはもう観にいかないわけにはいかない!と思いました」という声が届きました。

 

『顕れ』作者 レオノーラ・ミアノ氏による講演会開催決定!

授業で話があった、作品の演出に宮城を指名した『顕れ(Révélation)』作者のレオノーラ・ミアノ氏が急遽来日することが決定しました!
「SPAC秋→春のシーズン2018-2019」の製作発表会とともにレオノーラ・ミアノ氏の講演会を開催いたします。
両プログラムとも一般の方にご参加いただけます。ぜひ足をお運びください!
詳細は「SPAC秋→春のシーズン2018-2019」製作発表会/レオノーラ・ミアノ氏講演会のお知らせをご覧ください。

*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら