ご無沙汰しております。久々のおくぬ〜日記は、今年日本と国交樹立150周年を迎えているスイスからお届けします。
そもそも日本という国は、スイス国民からとても関心を持って頂いている様子、武道や禅などの教室が流行ってるし、日本関連の本を読んでる人もあちこちで見かけ、またTATOOにも日本的な図柄や漢字(時々意味不明)を選ぶ方もよくみかけます。私も街を歩く時や人と会う時でも、日本人の評判を落とさないよう心がけつつ、機会があれば日本の素晴らしさを吹聴しており、日本国のアウトリーチャーとしてスイス社会に溶け込んでいけたらと思っております。
ちなみに、奥野不在の間も静岡ではSPACリーディング・カフェは予定されておりますので、ぜひお楽しみに!
世界屈指の演劇祭「アヴィニョン演劇祭2014」では、SPACが旋風を巻き起こしたことはネットや新聞で話題になったので記憶に新しいかと思いますが、私も7月に二泊三日でアヴィニヨンに出向き、現地でつぶさに堪能させていただきましたので、今さらですが、簡単にレポートさせて頂きます。
ここチューリッヒ市からフランスのアヴィニョンへの道のりは、バカンスシーズンなので足の確保に難渋しましたが、予定通り7月19日〜21日の旅程を無事確保できました。
フランスは交通のアクセスが悪い事で有名なのだそうですが、確かに電車の線路が工事中ということで、ジュネーブから臨時のチャーターバスに何とか潜り込んで国境を越え、着いた駅で大荷物の旅行者でごった返すホームで待ち時間は50分、
さらにリヨン駅でもたっぷり1時間待ったりしながらも、予定通り8時間以上かけて19時すぎにアヴィニョン駅到着!
城壁の向こうの目抜き通りは、カラフルな壁か何かかと思いきや………よく見ると人で埋め尽くされた道でした。
フランスはちょっと蒸し暑い感じでしたが、暑すぎず寒すぎず、どちらかというと夏らしさを味わえて快適、
街のそこかしこにチラシをまく人達やパフォーマンスをする人達でいっぱいでした。
宿に荷物を置きに行く道すがら、人混みにまぎれて前方から歩いて来たのは人混みの中でもとりわけ目をひく、極妻に出てくる姐御風の和服の女性。はるか異国の地で日本人に会うと思わず嬉しくなって、軽く笑顔で会釈すると、その姐さん「日本人ですか?」と声をかけてくださる。
こちらも挨拶をすると、姐さんの周囲に日本人男性数人が立ち止まり、「今回は何でアヴィニョンに来られました?」と聞いてくれたので、「同僚がこの演劇祭に参加しているもので………」とお答えすると「えっ、もしかしてSPAC?」「そうです、よくご存知で!」「すごいらしいですね〜。活躍は聞いてますよ」とのこと。アクセントが関西弁なので「関西からですか?」とたずねると「そうです、実は僕ら落語家で演劇祭のOFFに参加してるんですけど、フランス人がフランス語で一席やったりするんで、お時間あったらぜひ」とチラシを下さった。聞けば奇遇にも、私の15年来の友人落語家さんの弟弟子という偶然!一気にテンションがあがった。
「いつまでいらっしゃるの?」とお尋ねになるので「僕らはスイスからなんで、明日の『室内』というのをみて、明後日またスイスに帰ります。ちなみに、今日楽日の『マハーバーラタ』組は、バラして明後日くらいの飛行機で帰国することになるかと………」そこでその落語家さん、「『マハーバーラタ』観たいなぁ〜。ちなみにキャパはどれくらいですか?」とお尋ねなので「1000人ってきいてますけど」とお答えすると「うわぁ、すごいなーー。考えられへんわ〜」と、大いに驚いておられた様子。今やチケット入手が大変困難な状態ということだったので、その事もお伝えしておいたのだが、ともあれ着いて早々、SPACの注目ぶりを肌で感じることができた。
宿に荷物を置き、一息ついていざバス乗り場に。石切場行きのバスを待っていると、インドっぽい衣裳をつけた俳優さんたちが一人一人にチラシを渡しながら「『マハーバーラタ』を見た後はインドのアナザーストーリー『ラーマーヤナ』をどうぞ」などと営業活動を熱心に展開。観に行ってあげたかったけど日程的に難しかったので、健闘を祈りつつバスに乗り込む。
バスが進むにつれ近代的な設備の建物などがどんどん無くなってきて、橋を渡った頃には荒涼とした風景が………。
なるほど石切場とはこういうことかと、非日常の世界に入り込むワクワク感を禁じ得ない。同じお店のラーメンでも、行列に並んで待つというプロセスを経た上で食べるラーメンの方が美味しく感じるそうであるが、観客がバスによって非日常の世界に運ばれて行く過程をたどって観る上演は、そのプロセス自体、ワクワク感をかき立てるわけで、その辺も演劇の持つ魅力の一つであることは間違いない。
やがて21時半に石切り場にバスが到着、
薄暮の砂利道を進む列、駐車場になってる広場は結構な混雑である。
とにかくチケットセンタ―らしき場所に到着するも、チケットの所在がわからない。
少々不安になっているところに見覚えのある黒髪の女性は、制作としてツアーに帯同していた制作部中野さんだった。春先から奥野はNoism『カルメン』に客演させていただいてたため静岡を離れ気味、5月以降単身新潟滞在だったので、『カルメン』ツアーが終わる前にアヴィニョンに出発していた彼らとは入れ違いになっており、約二ヶ月半ぶりの再会、チケットも彼女がちゃんと用意してくれてた。
さらに人の流れにそって劇場に進むと切り立った断崖絶壁に囲まれた野外劇場が眼前にそびえたっている。その時闇の中から現れたのは、黒装束をまとった舞台監督村松チーフ!
そこへ出番前の役者やスタッフが次々と通りかかり、再会を喜び合ったが、祭りの前のある種の高揚に満ちあふれた時のような様子からは、大舞台の楽日に向かうに十分な、ほとばしるエネルギーを感じることが出来、きっといい舞台になるだろうと予感させるに十分だった。
開演10分前に客席に立ち入るが、それにしても1000席がことごとく客で埋まっている。
のんきに写真などを撮ってたらどこからか名前を呼ぶ声が。ふと声の方向をみてみると、四列ほど後方の席には静岡県の文化業界のキーパーソン、静岡大道芸フェスの甲賀プロデューサーご一行が着座。
甲賀さんは6月の『カルメン』兵庫公演を観に来て下さり、楽屋で再会したばっかりでしたが、まさかのフランスでの再会にテンションが上がる。席に着いた頃に「空席を埋めて下さい」のアナウンスが流れ、あと一分遅かったら折角の座席が詰められるところだった。
まず舞台スタッフの労働条件改善の主張があり、日本語訳のアナウンスが後で流れるのだが、それは宮城芸術総監督本人であった。
やがて劇世界への案内人のような演奏隊が登場、静かに演奏が始まる。そして、切り立った断崖絶壁に映し出されるのは、客席の外周を円形に囲む舞台を、後方から厳かに列をなして登場する俳優たちの影。自然をも演出に取り込んだ巧みさに、観客は一気に劇世界に引き込まれていった。
さらに演奏隊は緻密なリズムを刻み、高貴さと比類なき美しさのダマヤンティー姫と神々も一目置くナラ王をはじめ、次々に登場する人物達は全身全霊で神話の世界を盛り上げる。スピーカー陣も表現力豊かに劇を展開し、三位一体となって演者達がそれぞれの持ち味をいかんなく発揮し、それを照明や装置などの相乗効果で、言語の違いを超えた笑いや涙を誘う演出はことごとく観客にヒットしていく。中でも音楽はかなりストイックに追求していたが、そのわりには時折見せる大和撫子たちの屈託の無い笑顔も、客席のインターナショナルな老若男女のハートを鷲掴みにしていたことは間違いない。
演劇のルーツをたどっていくと儀式や祭礼に行き着くという話はよく聞いていたが、今回、世界屈指のアヴィニョン演劇祭の中でもメインの会場であり、自然霊が満ちあふれているかのような素晴らしいロケーションで『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険〜』を拝見でき、日本神道の八百万の神々に祝福を捧げる祭りの一環のようであり、原始ヨーロッパのケルト民族の信仰にも通じる世界のようでもあり、千人の観客と共に、言葉や民族、習慣、宗教の違いを超えた自然への畏敬と神々への祝福の気持ちに満ちあふれた世界を感じる事ができた。
終演後は客席全員がスタンディングオベーション。何度カーテンコールがあったことか。すると、いつのまにかスタッフの皆様も俳優達と一緒に舞台に登場。
二度、三度、四度、五度………なかなか拍手は鳴り止まなかった。
今回、二泊三日の短い旅程、観たのは『マハーバーラタ』と、その対極に位置するようなディープな作品、現在パリで絶賛上演中の『室内』というSPACプレゼンツの二本のみ、“天下のアヴィニヨン演劇祭“に折角来たのだから、他の作品も観まくりたくなるのでは………と思ったが、ある意味この二作品で、現代の演劇の頭のテッペンからつま先までを観れた感じがし、お腹いっぱいのとても満足度の高いアヴィニョンでした。
後日この二作品が、並みいる強豪をおさえて、今年度のアヴィニョン演劇祭に参加した作品群の中で、「記憶にとどめておきたい10演目」に両方選ばれるという快挙を成し遂げたとか。クールジャパンはSPACを軸に世界の舞台芸術シーンにも浸透していくのではないだろうか。
そんなマハーバーラタが、9/12-13神奈川県芸術劇場KAATで凱旋公演される。
劇場の中に円形の劇場がつくられているとのこと。
拝見できないのが残念である。
12日の金曜日は売り切れとのこと。
残席わずかです。
折角の機会、ゆめゆめお見逃し無く!
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『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』
KAAT神奈川芸術劇場公演の詳細はこちら