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2019年10月22日

『寿歌』2019ブログ vol 3. 「衣裳デザイナー駒井友美子に迫る!」

こんばんは!毎度おなじみ、『寿歌(ほぎうた)』担当の制作部の入江恭平です。

第三回目のブログは、一回目に続き「ラジオ番組テイスト」で、私、入江がパーソナリティーとなり、『寿歌』をすでにご覧いただいた方にも、そしてこれからという方にも作品の魅力をお伝えしていきます。

[第一回目のラジオ放送ブログは、こちらからチェック!→『寿歌』2019ブログ〜vol.1帰ってくる『寿歌』〜
 
今回は、『寿歌』の衣裳デザインを担当している創作・技術部、衣裳班の駒井友美子さんに、再演に向けてのプランや意気込みを聞いちゃいました!

それでは、『寿歌』ブログチャンネルまもなく放送開始です!!
 
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▲左から入江、駒井
 
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午後6時になりました。こんばんは!制作部の入江恭平です。
急に涼しくなりましたね。みなさん、この秋はどう過されますか?私にとって、秋といえば「芸術」。『寿歌』を観て、特別な秋にしてみませんか?

というわけで早速、今回のゲストをお呼びいたしましょう。
『寿歌』の衣裳担当、駒井友美子さんです!(パチパチパチ)

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こんばんは。駒井友美子です、よろしくお願いします。ラジオの設定なんですね(笑)。

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そうなんです。『寿歌』の世界にあるラジオ局から配信しているという設定です(笑)。

今回は、衣裳の視点から作品の魅力をお伝えできたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

さて駒井さん、再演にあたり、衣裳を一部変更しましたね。
初演(2018年3月、愛知県芸術劇場小ホールにて上演)から再演でどう変わったのか、衣裳のプランニングについてお聞かせください。

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そうですね。まず初演の際には、自分の中で『寿歌』の具体的な場所や時代のイメージがなかなかつかめなくて、漠然としていました。

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確かに、この作品って捉えどころがないですよね。

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また当初は、実際に小道具を使う予定で進んでいたんですけど、稽古が進んでいく中で、演出の宮城さん・美術のカミイケさんより「小道具はない方がいい」という話が出てきて、もっと手がかりが無くなってしまい(笑)。

人物のイメージとしては、キョウコとヤスオは、ゲサクの頭の中にいる人たちで、その世界もゲサクが考え出したもの。ゲサクは現実で、二人はゲサクの想像の世界の中の人。キョウコはゲサクよりも非現実的な存在で、ヤスオよりは現実的な存在なのかなって考えたんです。

それで最終的にゲサクの衣裳の色を舞台セットと同じ、黒色にしたのですが、そこまでたどり着くのにけっこう苦労して…

 
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▲『寿歌』の舞台セット。(「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」舞台芸術公園 野外劇場「有度」にて)©︎平尾正志
 
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あの∞の型の舞台セットですよね。

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2017年の11月辺りには舞台美術のプランが上がっていたのですが、衣裳は本当にギリギリまでアイデアがまとまらなくて。
モヤモヤしている時に、作業場に舞台美術を見に行ったら、はじめは塗装されていない木材で組まれていた舞台セットが、全て黒色に塗られていて。それが印象的でした。

 
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そこからインスピレーションを得たと?

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そうですね。「ゲサクは無意識に歩いていそうで、実は確信犯だったのでは?全部操っているのかな?」と考えるようになり、それって黒子的な存在ですよね。だから「黒だ!」って。ゲサクが自分であの物語を書いて自分で操作するみたいな。舞台セットが黒くなっていなかったら全くちがう衣裳になっていたかもしれないですね。

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▲ゲサクの衣裳。左:ビフォー©平尾正志、右:アフター(今回)©︎三浦興一

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でも「黒だ!」となってからの発想の飛躍がすごいですね!さすがアーティストという感じがします。ギリギリまでアイデアがまとまらないことは、他の作品でもあるんですか?

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あまりないですね。この作品は本当につかみどころがないので、今もわからないことだらけです(笑)。
特にキョウコの衣裳は自分にとって難しくて、上演を重ねるごとにマイナーチェンジを繰り返してきましたが、再演に向けて改めて作り直しました。

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初演ではキョウコは、真っ赤な衣裳だったんですよね?そういえば、衣裳をデザイン・製作していく際に「俳優たちの普段の服の好みからも発想を得る」とお聞きしましたが、前回のキョウコの時もそうだったんですか?

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▲キョウコの衣裳。左:ビフォー©平尾正志、右:アフター(今回)©︎三浦興一
 
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それがまた難しかったんですよ…。
普段のたきいさんは大人っぽいイメージがあるのですが、キョウコはもっと幼い感じで。さらに他の作品では、妖艶な役が多く、たきいさんがキョウコのような役を演じているのをあまり見たことがなくて。普段のイメージはあえてあまり参考にしないようにしました。

なので、「真っ赤な嘘」から取り、色を赤にしました。こどもらしいイメージもありますし。
(編集注:キョウコは「虚構」のもじりから、ゲサクは「戯作」から名付けられている。)

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今回、宮城さんから「1945年の戦後」というコンセプトが付加されていました。衣裳としては、それをどう反映させたのでしょうか?

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その設定が伝わるように、より具体的にしました。ヤスオならもっとゴミから出てきたように、キョウコはボロボロの服にして、「何日も荒野をさまよってる」みたいなリアリティーを出せればと思いました。

ですが、キョウコの服は確かにボロボロだけど、リアルになりすぎず、ゲサクの頭の中の住人という要素は残したかったんです。
表面上は具体的にはしましたが、物語が進むにつれて、そういった考えが見えてきたらなと。

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▲キョウコの衣裳の生地に汚しをつける様子。
 
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物語が進む中で、「あぁそういうことかな」と気づくことがあるのは面白いですよね。
ヤスオは「もっとゴミから出てきたように」とのことですが、もう少し聞かせてもらえますか?

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▲ヤスオの衣裳。左:ビフォー©羽鳥直志、右:アフター(今回)©︎三浦興一

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ヤスオは……「ゴミの妖精」みたいな。

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ゴミの妖精?!

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冒頭では神様っぽいけど“ゴミの中に住んでいる人”のようにもしたかったんです。初演も今回も色や素材はほぼ同じなんですが、形や素材の加工で今回はさらに“ゴミ感”を出したいと考えていました。

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確かに履物が使い古したようなサンダルなんですよね(笑)。
そういえばヤスオの衣裳の色が白なのは、何か理由が?

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初演の稽古の時に宮城さんから「ヤスオは感情がないんだ」と聞いて、ロボットのような無機質なイメージがわいたので白にしました。だけど、ゲサクとキョウコに仲間入りした後は、打ち解けて、徐々にハッチャケていくんですよね、2幕ぐらいで普通の人間なのかなと思えてきますし(笑)。

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全く神様という感じがしませんよね(笑)
最後に、お客さんにメッセージをお願いします!

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メッセージか……何でしょう。
“3人の登場人物があてのない旅をする”という一見シンプルな話ですが、観るたびに毎回違うことを考えさせられる作品だなと思います。私自身も戯曲を何回読んでも、まだ腑に落ちないことだらけ。再演の度に衣裳に手を加え続けているのもそのせいかもしれません。モヤモヤしながら、ぜひいろんな視点から楽しんで頂けたらと思います。

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ありがとうございます!
SPAC版『寿歌』の再演は、10月11日(金)から始まり、11月7日(木)まで上演されます。
残るチャンスはあと2回!10/23(水)18:00〜のげきとも公演(一般販売あり)と10/26(土)14:00〜の一般公演です!
これから観劇される方は、ぜひ、衣裳や美術、そしてその他の要素にも注目しながら見てくださいね!
すでに観劇された方は、もう一回観劇するのもアリですよ!
それでは本日のゲスト、『寿歌』の衣裳担当、駒井友美子さんでしたー!

 
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▲衣裳製作室にて。

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最後にこの曲でお別れしましょう。
『寿歌』が発表された1979年リリースのヒット曲。サザンオールスターズで『いとしのエリー』♪

 
(執筆:入江恭平、編集:雪岡純、坂本彩子)

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SPAC秋→春のシーズン2019-2020 #1
寿歌ほぎうた
2019年10月12日(土)、13日(日)、19日(土)、20日(日)、26日(土)
各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場
演出:宮城聰
作:北村想
美術:カミイケタクヤ
出演:奥野晃士、春日井一平、たきいみき

\チケット販売中/
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