2015年4月2日

【新人は見た!/『盲点たち』稽古場日記】vol. 3 体験型演劇?!

 こんにちは。
 いよいよ新年度。学生さんや社会人など、新しい生活が始まる季節ですね。

 桜咲くこの時期、『盲点たち』の俳優・スタッフは日々稽古に励んでおります。今回は『盲点たち』の少し変わったところをお伝えしようと思います。

 「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」のガイドパンフでは、紹介文に「体験型演劇」と書いてあります。……もうこれだけで、演出家ダニエル・ジャンヌトーの『盲点たち』が普段の劇場でのお芝居とちょっと違うということが想像していただけるかと思います。会場全体を作品にしてしまう、ダニエルの演出作品の性格が垣間見れます。
 今回、お客様にはBOXシアターに集合していただいてから、森の中の会場まで移動していただきます。夜の真っ暗闇の中で、お客様も俳優も含めて、その場にいる全員が目の見えない存在、「盲点たち」となります。
(※この写真はイメージです↓)

 ダニエルは、その場にいる全ての人が「盲点たち」となるために、ある工夫をしました。それはエキストラ俳優の参加です。経験を積んだSPACの俳優と、公募によって選ばれたエキストラの方々。観客の皆様と合わせて、様々な人の在りようを配置することで、「俳優と観客」「舞台と観客」といった垣根を曖昧にしていきます。

 ダニエルは、稽古の初めの頃、演出意図を「星座」の比喩で説明しました。

「空間にイスを配置し、どこに俳優がいるのかどうかは分からない。局所的に声がしたと思うと、他の場所からも声が聞こえる。これまで見えなかった空間は、台詞を介してまるで星座のように関係性によってつなげられる。」

 このことが、会場の配置、台詞や演技にとって重要なことです。それぞれの個性が、一つの星のようになって、時に他の星と結びつき、時に離れていく。必ずしもハーモニーを生むわけではなくて、不規則に変化していく。そうして動いていくリズムが『盲点たち』の音楽性となっていきます。だから、空間の配置と、台詞は密接に結びついているんですね。
 このリズムを表現することは、とっても難しいことです。俳優さんたちが日々格闘している様子がひしひしと伝わってきます。最終的には、お客様が入った状態で、『盲点たち』はどんな音楽を奏でるのでしょうか。……屋外ですから、予測できないことが起こるかもしれません。でもそれも、楽しみですね!


ダニエル・ジャンヌトー

 この「音楽性」を実現するために、もう一つ重要な要素があります。それは音響です。

 パリ初演の『盲点たち』は、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所 Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique)の協力を得て制作されました。そして今回、静岡での上演でもIRCAMの技術者が来日して一緒に作品を作っていきます。……IRCAMと言えば、パリのポンピドゥーセンターに併設された、創設時にピエール・ブーレーズが指導を務めた、世界トップクラスの音響学および現代音楽の研究所です。

 森が会場である本作、一見すると簡素な作りの舞台なんですが、実はものすごいテクノロジーが用いられているんですね。立体音響(3Dオーディオ)と呼ばれるジャンルは、劇場やホール音響の分野では特に専門的な知識と技能が必要です。今回、音の局所性に着目して、客席ごとに聞こえ方を計算しています。それぞれの座席の位置によって作品の印象が変わるのではないかと思います。誰一人として、“同じ作品”に触れるわけではないのです。これもまた、この作品が「体験型演劇」である理由の一つですね。

 いよいよ、音響を設置しての稽古が始まります。これまで俳優とイスだけだった時空間が、スピーカーと合わせて、一体どのように変わっていくのでしょうか。
 次回は、音響についてレポートしたいと思います! 『盲点たち』、ご期待ください!

創作・技術部 横田宇雄


「新人は見た!」・・・創作・技術部の横田が『盲点たち』のクリエイションから見える様々な見どころを紹介していきます。

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SPAC新作『盲点たち』
4/25(土) ※販売終了・キャンセル待ち
5/2(土) ※販売終了・キャンセル待ち
5/4(月・祝)
5/5(火・祝) 
各19時(集合時間)
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
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2015年3月20日

【新人は見た!/『盲点たち』稽古場日記】vol. 2 戯曲と翻訳について

 本日、翻訳家の平野暁人さんから新しい台本が届きました!
 今回は、戯曲と翻訳についてご紹介したいと思います。

 まずはモーリス・メーテルリンクMaurice Maeterlinckについて。

 メーテルリンクは19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した、いわゆる「象徴主義」時代の作家です。日本でも大正期にブームとなり、多くの作品が翻訳されました。中でも『青い鳥』や『ペレアスとメリサンド』は日本人にとっても馴染みの深い作品ではないでしょうか。『群盲』《Les Aveugles》(※SPAC版では『盲点たち』)は、上記の作品が書かれる前に書かれました。「死」をテーマに、日常生活に溢れている人間の悲劇性をピックアップした作風が特徴です。誰にでも分かる簡素な言葉と、「こういう人いるよね」と思わせるような登場人物を用いて、人間存在の普遍的で、深いテーマを彷彿とさせます。

 演劇祭期間中の4月28日(火)には「目に見えぬ美をめぐって-反自然主義の系譜-」と題してメーテルリンクから現代までの演劇史を紐解くレクチャーを行います。(詳しくはこちら

 レクチャーもとっても楽しみですが、日々稽古場で変わっていく翻訳もとても刺激的です。拙いながらも私、SPAC新人の横田が今回の戯曲翻訳についてご紹介差し上げたいと思います。

 今回、メーテルリンクの『群盲』《Les Aveugles》を平野暁人さんによる新訳によって上演します。SPACのクリエイションでは、新たな翻訳を行うことも珍しいことではありません。演出家ダニエルが日本語の一音一音に耳を傾け、平野さんが稽古場で俳優の演技を見ながら、最初に脱稿した台本を修正していきます。
 新たな翻訳を使うことに決めたのは、ダニエルが「現代人の使う言葉遣いで改めて上演したい」という演出意図に基づくもの。メーテルリンクの言葉はありふれた表現で、至極簡素な言葉であること。またそれによって一つ一つの単語が多様な意味を持って響くこと。ダニエルはメーテルリンクの文体を日本語でも尊重したいと考えています。

 もちろんこの翻訳、一筋縄ではいきません。フランス語が簡素であればあるほど、音と意味が深いつながりを持つので、日本語が元来持っている音と合う音を探していく必要があります。発語としての言語である、戯曲の翻訳ならではの難しさです。

 まずダニエルが注意深く直していったのは、繰り返しの表現です。目が見えない登場人物たちは、「ジュ・クロワ・クJe crois que(~と思う・信じる)」や「イル・ム・サンブル・クIl me semble que(~のように思え
る)」などといった推量の表現を多用します。普通の人の会話であれば「ねえ、あそこの人、美人だね」「そんなことないよ」というところを、視覚を頼りにせずに言おうとすると「ねえ、あそこの人、美人のように思えるんだけど」「そんなことないように思えるんだけど」となります。美人がそこにいるのかいないのか、聞いている第三者の方もよく分からなくなってくる。そんなちょっと不思議な世界に引き込まれそうになりますね。目が見えない登場人物同士の会話に見られる、この不思議な世界が、繰り返しによって表現されています。翻訳の過程で、「ジュ・クロワ……ジュ・クロワ……」(croisはcroire「信じる」の一人称形)というフランス語のリズムを、日本語に移し変えていきます。

 また、ダニエルがしばしば耳を傾けていたのは、「おお!Oh !」や「モン・デュ!Mon Dieu !(神よ!)」などの感嘆詞です。全体に静かな戯曲ですが、世界を引き裂くように時折出てくる「おお!」という表現。これを日本語でどう表現するか。俳優の小長谷さんに何度も変更した台詞を言ってもらって、日本語としても変ではなく、原文の持つリズムを活かせる訳語を探していきました。

 そして何よりも大事なことは、今回の出演者の性格や感性に合う言葉遣いを探していくこと。ダニエルは言います。「この作品には、プロ・アマチュア問わず参加する。それぞれ違った人たちが、同じ空間に共存している。それはまさに共同体とは何かを問うことであり、人間性を扱うことだ。」プロ・アマチュアを含む12人の出演者たちそれぞれの声、それぞれの個性が台詞となって音楽を作ること。ダニエルが新訳に求めているのは、そんな日本語のリズムだそうです。……なんと、難しい作業でしょうか!
 翻訳家の平野さんは、毎日毎日、ダニエルや俳優さんと打ち合わせをして、微妙なニュアンスを調整くださっています。こうした地道な作業は本番時には気付かれないかもしれませんが、今回のクリエイションでは翻訳の第一稿ができてからも大分時間をかけながら台本の修正をしていきました。

 上演される頃には、台本に更なる変更が加えられるかもしれません。これからまだまだ進化する『盲点たち』……! これからどうなるのか楽しみです!

創作・技術部 横田宇雄
2015.3.19

「新人は見た!」・・・創作・技術部の横田が『盲点たち』のクリエイションから見える様々な見どころを紹介していきます。

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SPAC新作『盲点たち』
日時:4/25(土)、5/2(土)、5/4(月・祝)、5/5(火・祝) 各19時(集合時間) 
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
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2015年3月14日

【新人は見た!/『盲点たち』稽古場日記】vol. 1 ヴィトリから静岡へ

 本日から始まる『盲点たち』のブログ。「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」で上演されるSPAC新作の創作現場の裏側や見どころを私、横田がお伝えしていきます。……とはいえ、ワタクシ実は先月の2月にSPACに入団したばかり……。劇団での仕事も覚えながら、日々稽古に参加しながら考えたこと、勉強したことを発信していきます。日本平の森の中で上演される『盲点たち』が、どうなっていくのか、新人の目線でお伝えします!

 今回は、演出家を紹介します。

 『盲点たち』の演出家ダニエル・ジャンヌトーDaniel Jeanneteau(仏)は、SPACとは今回が三作品目の共同制作になります。『ブラスティッド』(2009)、そして『ガラスの動物園』(2011)を経て、今回の作品は、19世紀に活躍したベルギーの作家モーリス・メーテルリンクMaurice Maeterlinckの『群盲』 « Les Aveugles »(原題)です。(※SPAC版タイトルは『盲点たち』。)

 ダニエルは、フランスを代表する演出家クロード・レジの舞台美術(セノグラフィ)を1980年代から15年以上担当してきました。他にもパスカル・ランベール(仏)やトリシャ・ブラウン(米)などの作品の装置も担当しており、国境を越えて活躍するアーティストです。

 自身の演出作品に限らず、ダニエルの舞台美術への取り組みは、装置の単に見える部分だけに留まりません。演出家と作品のコンセプトについて相談しながら、客席の組み方や観客の視線など、会場全体をデザインします。ですから、会場全体が彼の作品となります。普段とは違う劇場の使い方をするのは当たり前、舞台のいたるところに彼の工夫が見えるのが見どころの一つです。今回、日本平の森を会場に選んだのも、こうしたダニエルの仕事ならではと言えるでしょう。

 「高校生の時からずっとこの戯曲を上演したいと夢見ていた」と、ダニエル。「その時から思っていたのは、観客にも登場人物と同じように目が見えない人になってもらうことなんだ。」……メーテルリンクの世界に俳優もお客様も一緒に丸ごと浸かってみる。戯曲がこうやって現代に生き返ると考えると、本番が楽しみでなりません。

 もう一つ、ダニエルと日本の(私から見た)ちょっと感動的なお話を。
 ダニエルと日本の関係はSPACとの出会いよりも、もうちょっと遡ります。1998年に関西日仏交流館「ヴィラ九条山」のレジデンス・アーティストとして京都に滞在。京都での滞在を漫画『京都=ベジエ』(ベジエはフランスの南にある郡庁所在地)として出版します。日本が大好きなダニエル。2009年にSPACと『ブラステッド』を共同制作する時の演出ノートを見ると、「演劇人として、奇妙なことに日本に戻ってきたのだ」と書いています。

 ダニエルは、長く共同演出を務めていたマリ=クリスティン・ソマと共に2008年にフランスのヴィトリ=シュル=セーヌ県にあるヴィトリ市の運営するスタジオ兼劇場「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリ」(Studio-Théâtre de Vitry)の芸術監督に就任します。経営方針は以下のようです。

「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリは劇場ではない。探求の場所であり、今について語る劇場を作り出す実験室だ。必ずしも成果を残す必要はない。ここは避難所でもない。むしろ反対にリスクを侵す場所だ。リスクの危険は、生きた創造の条件でもある。理想的なアトリエは、逆説でもあるが、世間から十分に遠ざかることで、リスクをきちんと負うことが出来るのだ。」
(引用:劇場HPよりhttp://www.studiotheatre.fr/

 ダニエルがSPACで最初の仕事をしたのが2009年。都会から少し離れて、自分の作品に没頭できる環境を手に入れたダニエルは、ここ静岡でもクリエイションを始めます。世間から一歩離れて、でも身の安全のためではなく、むしろ危険のために――つまり芸術のために必要な場所で。

 さて、静岡での『盲点たち』クリエイションの顔合わせの日、「この作品を35年間ずっと上演したいと思ってきた。フランスでその夢は叶ったが(※2014年パリでの上演のこと)、森の中でこの作品が上演できることになって、夢はもっと素晴らしいものになった。」とキャストやスタッフに告げました。

ダニエルは、SPAC版『盲点たち』を、自らのウェブサイト)に公演情報と演出ノートやインタビューを掲載していますが、なんとフランス語のタイトルも「Môten-Tachi」と日本語のローマ字表記で案内しています。サイトでは、日本平の森の紹介や、SPACの丁寧な説明をしてくれています。インタビューのタイトルは「ヴィトリから静岡へ」。フランスと日本という国の単位を超えて、個人の思いや地方自治体のつながりから生まれた作品であることを強調しています。

 こんな、色々な偶然と出会いに恵まれた『盲点たち』。これからも色々な見どころを紹介していきます!

創作・技術部 横田宇雄

参考:ヴィトリ市にあるダニエルのスタジオ「ステュディオ=テアトル・ド・ヴィトリ」

「新人は見た!」・・・創作技術部の横田が『盲点たち』のクリエイションから見える様々な見どころを紹介していきます。

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SPAC新作『盲点たち』
日時:4/25(土)、5/2(土)、5/4(月・祝)、5/5(火・祝) 各19時(集合時間) 
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
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