2017年7月27日

アヴィニョン法王庁日記(14) 2017年7月11日 公演五日目 フランスの『アンティゴネ』について、等々

SPAC文芸部 横山義志

午前11時から隣町ヴィルヌーヴでパリ第三大学演劇学研究所の研究集会で『アンティゴネ』に関するQ&Aに呼ばれて話をさせてもらう。所長のピエール・ルテシエさんが先生や修士・博士課程の学生を30人ほど連れて、アヴィニョン演劇祭で観劇しつつ、研究集会を開いている。前日に全員で『アンティゴネ』を観劇してくださったという。自分も同研究所に修士課程で在籍していたので、ちょっと感慨深い。能や仏教、神道との関係などについて、次々と質問が出る。古代ローマ演劇を専門とするピエール・ルテシエさんが能に関する授業をやっていることもあり、非西洋的な演劇形態への真摯な関心が見えて、自分が学生だった頃とはちょっと時代が変わったような感じがする。

法王庁中庭の階段状客席を何度も上り下りしていると息が切れる。これほど広大な客席で仕事をしたのははじめて。
現在は約2,000席だが、中庭の一番奥まで客席を組んでいたときには約3,000席あったという。1960年代には、二階バルコニーを含め約4,000席の客席が組まれたこともあった。法王庁中庭技術ディレクターのクロードによると、「舞台から20メートル以上離れるとさすがに見にくいので、最近はあまりにも遠い席は削っていった」とのこと。フランスでは二つ目のテレビ局ができたのが1964年で、その頃からテレビ文化の発達が加速していった。映像文化の発展と並行して、「遠くにいる人」の体を感じる能力が低下してきたのかも知れない。

今日は開演4時間前から並んだ方はなんとか当日券が取れたものの、並んでもチケットが取れずに帰らざるを得なかった方が100人近くいらしたという。

今回のアヴィニョン演劇祭では、公式招聘(いわゆる「イン」)の演目のなかに、『アンティゴネ』に関連する作品が他に3作品あるらしい。オリヴィエ・ピィの『レ・パリジャン(パリの人々)』には、主人公のアーティストが『アンティゴネ』を演出する場面がある。「アンティゴーヌ」という名前のクラウンが登場するフランスの作品も。

フランスでは、中学校や高校でジャン・アヌイによるソフォクレス『アンティゴネ』の翻案『アンティゴーヌ』を読むことが多いので、アンティゴネはギリシャ悲劇の登場人物の中でも、かなり馴染深い登場人物になっている。アヌイの作品はナチス・ドイツ占領下のフランスで書かれたもので、1944年に初演されている。ジャン・ヴィラールも1948年に『アンティゴネ』の翻案を発表している。フランスではアンティゴネの人物像が第二次大戦下でのレジスタンスと深く結びつけられてきた。

プロンプター(上演中台詞を忘れた俳優に台詞を言う係)に焦点を当てたティアゴ・ロドリゲス(ポルトガル)の作品『息』でも、俳優たちが『アンティゴネ』を演じる場面があった。その場面では、プロンプター(フランス語・ポルトガル語では「息を吹き込む係」と呼ぶ)が、「今この舞台でクレオンを演じる俳優の肺には、20年前にこの舞台の上でクレオンを演じた俳優の息も吹き込まれている」と語る。

この法王庁中庭の舞台で『アンティゴネ』が上演されるのは、1960年、1961年のジャン・ヴィラール演出『アンティゴネ』以来、56年ぶり。1961年の再演時は、作曲家モーリス・ジャールも演出に名前を連ねている。ジャールは映画音楽家として知られているが、1952年に法王庁中庭で上演されたジャン・ヴィラール/ジェラール・フィリップ演出『ロレンザッチヨ』のためにジャールが作曲したトランペットのファンファーレは、今でもアヴィニョン演劇祭のほぼ全ての演目の開演前に流されている。この法王庁中庭の舞台には、今でもジャン・ヴィラールの劇団の俳優たちが呼吸した空気が流れているのだろう。

以下のリンクで、1960年のヴィラール演出『アンティゴネ』に関するインタビューと、アンティゴネがクレオンと対立する場面の映像を見ることができる。

※映像はこちらからもご覧いただけます。

以下のジャールのインタビューでは、『ロレンザッチヨ』公演時のファンファーレの様子を見ることができる(1:00~1:03)。

※映像はこちらからもご覧いただけます。

そのヴィラールの劇団で1960年代にたびたび法王庁中庭の舞台に立っていた女優のジュディット・マーグル(Judith Magre)さんが、私たちの『アンティゴネ』を観にいらしてくれた。今年で90歳になるそうだが、舞台でも映画でも活躍しつづけている。「ここでこんなに素敵な舞台を観るのは何十年ぶり。本当に楽しかった。私も「ミニアンティゴネ」に使ってくれないかしら」とおっしゃってくださったという。

*アヴィニョン法王庁日記バックナンバー*
(1) 2017年6月27日 静岡からフランスへ
(2) 2017年6月28日 アヴィニョン到着
(3) 2017年6月29日 仕込み一日目
(4) 2017年6月30日 仕込み二日目
(5) 2017年7月1日  仕込み三日目
(6) 2017年7月2日  アヴィニョン法王庁の歴史
(7) 2017年7月3日  法王庁中庭での上演の歴史
(8) 2017年7月4日  フォトコール
(9) 2017年7月5日  最終公開稽古(ゲネプロ)
(10) 2017年7月6日 公演初日
(11) 2017年7月7日 公演二日目
(12) 2017年7月8日 公演三日目
(13) 2017年7月10日 公演四日目

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第71回アヴィニョン演劇祭オープニング招待作品
アンティゴネ
構成・演出:宮城聰 / 作:ソポクレス / 出演:SPAC
7月6日(木)・7日(金)・8日(土)・10日(月)・11日(火)・12日(水)各日22時開演
会場:アヴィニョン法王庁中庭
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