劇評講座

2025年5月26日

ふじのくに⇄せかい演劇祭2024■選評■SPAC文芸部 横山義志

カテゴリー: 未分類

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2024」「ふじのくに野外芸術フェスタ2024」劇評コンクールには計12作品の応募がありました。内訳は『白狐伝』4、『かもめ』4、『楢山節考』3、『かちかち山の台所』1でした。

私は、劇評を以下のような基準で評価しています。
1)(粗筋ではなく)上演がきちんと記述されているか
2)(とりわけ今その作品を上演する意味について)明確な視点が提示されているか
3)その劇評を読まなければ気づかなかったような発見があるか

最優秀賞や優秀賞に選ばれた作品は、自分が見たはずの舞台でも、新たな視点から、驚きをもって思い出させてくれるものでした。
2)については、題名がつけられている劇評のほうが、焦点が定まっていて、印象深いものになる傾向があるように思いました。

今回、最優秀賞に選ばれた廣川真菜美さんの『トリゴーリンこそ令和の「かもめ」だ』は、この作品を今上演することの意味を、とても納得のいく形で解釈されています。廣川さんによれば「かもめの剥製を見て、その存在を思い出せないトリゴーリン」は、「求められている自分」に適合しようとして「自身から湧き上がる」ものを見失っている私たち自身の姿なのです。

優秀賞に選ばれた夏越象栄さんの『白狐伝』評も、臨場感をもって俳優の演技や舞台美術、衣裳などを描写しつつ、ちょっとした細部に目を凝らしながら、「境界線」を越えて異質な存在に歩み寄り、痛みを覚悟しながらも「真心」を交わすことの可能性について、スリリングで心を動かされる分析をされています。

もう一本の優秀賞、寺尾眞紀さんの『かちかち山の台所』評は、今回この作品について応募があった唯一の劇評でした。山道を2時間近く移動しながら見る作品なので、客観的に分析するのが難しかったのではと思います。そのなかで寺尾さんは、ご自身で山道を歩いた身体感覚を鮮やかに描写しつつ、それが「今まで主流とされていた側「じゃない方」の声を聴く」ための方法でもあったことを看破されています。

みなさんの劇評のおかげで、今年も新茶の季節に上演できた作品一つ一つをもう一度じっくりと味わうことができるのがとてもうれしいです。たいていのことは家にいながらでも体験できる世の中になりましたが、みなさんの文章を読むと、その時、その場だけで起きたことに、体ごと向き合ってくださったのを感じます。みなさんの体験をおすそわけしてくださり、本当にありがとうございました。またみなさんの劇評を拝読できるのを心待ちにしております!