劇評講座

2014年12月26日

■依頼劇評■『マネキンに恋して―ショールーム・ダミーズ―」』&『Jerk』(ジゼル・ヴィエンヌ演出) 「距離感」めぐる奇跡的体験 柳生正名さん

■依頼劇評■

「距離感」めぐる奇跡的体験

柳生正名

ジゼル・ヴィエンヌ「マネキンに恋して―ショールーム・ダミーズ―」「Jerk」評
フランスで演劇やダンス、人形制作など多彩な分野で異彩を放つジゼル・ヴィエンヌ。彼女が振付、演出、美術を担当し、ロレーヌ国立バレエ団によって日本初演されたダンス作品「マネキンに恋して―ショールーム・ダミーズ―」に静岡で直面した。文字通り、それは〝直面〟という語でしか表現できない事件だった。少なくとも、その直後に同じジゼルによる演劇作品「Jerk」の直撃を受けるに至るまでは。
オーストリアの作家マゾッホの小説「毛皮を着たビーナス」に基づく「マネキン」の主人公は一人の男である。もっとも、針のように攻撃的な踵を持ったピンヒールが真の主役という捉え方も可能だ。と言うのも、幕開きから終幕まで、ピンヒールは密かに、だが確固として舞台上に存在し続ける。原案となったマゾッホの作はマゾヒズムの語源となったことでつとに知られるが、本作の場合はフェティッシュな嗜好、さらに言えば、「くり返し、女性性たちを演出しないではいられない」(ジゼル)という男の本源的な欲望にスポットライトが当てられる。 続きを読む »