劇評講座

2013年8月19日

■依頼劇評■【おっかさんはつらいよ、本当にね(でも、娘も…)!『母よ、父なる国に生きる母よ』を観る】阿部未知世さん(ヴロツワフ・ポーランド劇場/ヤン・クラタ演出)

■劇評塾卒業生 依頼劇評■

おっかさんはつらいよ、本当にね(でも、娘も…)!
 『母よ、父なる国に生きる母よ』を観る

阿部未知世

1. ポーランドと言えば
 2013年の<ふじのくに⇔せかい演劇祭>に、ポーランドの演劇が招聘された。東ヨーロッパの演劇とは…。この演劇祭では、初めてのことではないか?興味津々なのだが…、やはり遠い国だなあ…。ポーランドについて、いったい何を知っているのだろうか…。思い出すまま連ねてみると。
 まず、アウシュビッツのユダヤ人強制収容所(これは、あまりにも重い現実)。社会主義崩壊の引き金となった民主化運動、<連帯>とそのリーダーのワレサ(これはグダニスクの造船所労働者に端を発する運動で、リーダーは敬虔なカトリック信者だった筈)。NATO に対抗したワルシャワ条約機構というのもあったし…。
 イメージとしては、ドイツとロシア(ソ連)という両大国の狭間で、蹂躙され続けた歴史を持つところ。何か、つらい思いが伴うなあ…。アンジェイ・ワイダの重い内容の映画とか。 続きを読む »

2013年8月15日

■依頼劇評■【芸術“笑”演劇のゆくえ】奥原佳津夫さん 『脱線! スパニッシュ・フライ』(ベルリン・フォルクスビューネ/ヘルベルト・フリッチュ演出)

■劇評塾卒業生 依頼劇評■

芸術“笑”演劇のゆくえ

奥原佳津夫

 劇場の壁いっぱいまで奥行きを取った深い舞台に、一枚の巨大なペルシャ絨毯が敷かれ、後方で大きく波打っている。その、人が隠れるほどのうねの手前にトランポリンが仕込んであって、これを俳優たちが自在に使いこなすのが、この作品の空間造形の肝。ほかには何もない。
 戯曲の設定は富裕な工場主の邸内のはずだが、裸舞台の、抽象的と云ってよい空間で、ここでどんな演技が繰りひろげられるのかと期待させるが、冒頭、娘が両親には内緒の恋人と電話で話す場面からして、あたかもテレビ電話のように、中空に向かって全身の大きな身振りを伴って語りかける表現に驚かされる。 続きを読む »

2013年8月5日

■依頼劇評■芸能する者たちのデウス・エクス・マキナ──宮城聰演出『黄金の馬車』批評 井出聖喜さん

■劇評塾卒業生 依頼劇評■

芸能する者たちのデウス・エクス・マキナ
  ──宮城聰演出『黄金の馬車』批評

井出聖喜

THE FINAL SCENE(大詰め)
 喧噪は去り、舞台には座長とカミーラのみが残る。座長が言う。「人生とやらに、カミーラよ、お前の居場所はありはせぬ。幸福をお前は舞台でみつけるのだ。」
カミーラ「フェリペ、ラモン、殿様、みんないない。もう存在しない。……もういないの?」
座長「もういない。見物人の中に消えた。……寂しいか。」
カミーラ「……ええ、少し。」
 カミーラ、一世一代の奉納芝居の始まりを言祝ぐように音楽が賑やかに奏でられる中、当のカミーラは幾分うつろな表情で舞台中央に佇立する。
 ──宮城聰演出の舞台『黄金の馬車』は、こうして華やかさの中に幾ばくかの寂寥感を残して締めくくられる。 続きを読む »