『アンティゴネ』における「四次元的演劇空間」の創造
演劇とは「空間的」芸術作品である--。そう信じていた私にとって、2021年5月3日、駿府城公園・紅葉山庭園前広場で催されたSPAC公演『アンティゴネ』は衝撃的だった。「舞台上で役者が横一列に並ぶ」「舞台後方の壁面に役者の影を映す」など、極めて「絵画的」だったからだ。しかし、それによって演出が失敗しているかというと、そんなことはない。むしろ、美しいことこの上なく、「四次元的な演劇空間の創造」により、舞台作品として成功しているのだ。
舞台は床一面が水で覆われ、そこに浮かぶ上手、中央、下手の3カ所の岩場によって装置が構成されている。「ムーバー」と呼ばれる「動きをみせる役者」たちは岩場に立ち、それぞれの役を演じる。一方、「スピーカー」という「声で演技する役者」たちは、水の中で腰掛けたり、立ったりしたままセリフを言う。つまり「二人一役」であるわけだが、特筆すべきはムーバーの演技だ。彼らは3カ所の岩場に分かれて演技しているため、一向に交わらない。ほとんどが、客席に向かって演技している。顔を突き合わせて「対話」することなど無いのだ。 続きを読む »