2018年7月28日

秋→春のシーズン2017■選評■SPAC文芸部 大澤真幸

Filed under: 2017

 2017秋→春シーズン劇評コンクールに対して、計21の劇評の応募がありました。内訳は以下の通りです。
『病が気から』1
『変身』5
『しんしゃく源氏物語』3
『ミヤギ能 オセロー〜夢幻の愛〜』12
『オセロー』への応募がとりわけ多く、全体の半分以上でした。

 今回、最優秀賞に選ばれたのは、小田透さんの『オセロー』への劇評です。内容の点でも、また文章の点でもたいへん洗練されていました。
 小田さんは「断絶と接続」をキータームにして、『オセロー』の特徴とこの劇のインパクトを適確に言い当てていると思いました。「能と、エリザベス朝の芝居、モダンな前衛性」、あるいはいろいろな調子や発声法で語られる言語の多層性、そして「リアリズムと非リアリズム」といったさまざまな組み合わせの中に、断絶と接続の両面が孕まれているという分析は説得的です。「我々の現在」の問題にふれたあと、「デズデモーナは歴史を正せるのか」というかたちで歴史についての思索へと向かう結末は余韻が残り、まことに印象的でした。

 優秀賞には、『変身』を評した小長谷建夫さんの「災禍の中変身する娘たち」と高須賀真之さんの「永遠の切断面―『ミヤギ能 オセロー〜夢幻の愛~』より」の二作が選ばれました。
 小長谷さんの劇評は、肩肘をはらない軽妙な語り口で読ませます。グレゴール・ザムザの虫への変身とその妹(たち)の美しいレディへの変身とを重ね合わせる解釈に、おもしろみを感じました。
 高須賀さんの劇評は、短い中に、目取真俊の短篇小説、西脇順三郎や田村隆一の詩などを次々と引きながら、論を展開しております。これらの引用がただの衒学に陥らず、議論の実質に利いており好感をもちました。たとえば、「その切断の速さによって、一つの場面をあらゆる限定から解放する」という石原吉郎の俳句論の言葉など、オセローがデズデモーナの手をかける瞬間にぴったりと当てはまります。

 入選は、川村創さんの「『変身』の快楽」、小長谷建夫さんの「一千年前の時限爆弾」(『しんしゃく源氏物語』への劇評)、同じく小長谷建夫さんの「オセローを脇役にしたミヤギ能」の三作です。三作とも、それぞれの観点から率直に劇の感想を語っており、おもしろい劇評です。ただその感想がまだ十分に概念的に分析されていないという点で、最優秀賞・優秀賞の作品に比べていくぶん劣っていたかもしれません。