伝説の公演がいま甦る!
アジアンパワー炸裂の祝祭劇
もしも、インドの国民的大叙事詩『マハーバーラタ』が日本にも伝播していたら……という仮定から、宮城聰の演出プランは着想されました。平安時代ならば、その数奇な物語はきっと美しい絵巻物として描かれたことでしょう。平安貴族調の衣裳、ねぷたを思わせる装置……絢爛豪華な絵巻物の世界を目にも鮮やかにご覧に入れます。
これまでにインド、パキスタン、中国、チベット、インドネシア、韓国、シンガポールなどで公演を行い、現地演劇人との交流を深めてきた宮城聰が、アジア演劇に関する蓄積を一気に噴出させて上演する祝祭劇です。
臨場感あふれる生演奏
オリジナリティが際立つ美術と衣裳
宮城聰の作品では、出演俳優らによるパーカッション生演奏のダイナミックな臨場感も、大きな魅力となっています。「語り」「動き」「リズム」が三位一体となって織りなすグルーヴは、観る人を劇世界に引き込んでいきます。俳優たちとリンクしながら、物語を立体的に立ち上げるその演奏にも、ぜひご注目ください。また、『天守物語』の鯉のぼり、『王女メデイア』の刺青の打ち掛けなどに代表される、個性豊かで美しい衣裳も宮城作品の魅力のひとつです。独創的な舞台美術とも相まって、他に類を見ない幻想世界を築いています。
公演情報
SPAC15周年記念作品
静岡初演 演劇/日本
■公演日時
6月2日(土)・16日(土) ・23日(土) 各日19時30分開演
6月10日(日) 19時開演
◎2日の開演前に野外劇場前広場でオープニング・レセプションを行います。
◎終演後に宮城聰(演出)とゲストによるアーティスト・トークを行います。(6月10日を除く)
6月16日(土) ゲスト:長谷川逸子氏(建築家)+宮城聰
6月23日(土) ゲスト:長谷部浩氏(演劇評論家)+宮城聰+司会:大澤真幸
◎開演前と終演後に「カチカチ山」で「フェスティバルbar」を営業いたします。
※6月2日は終演後のみ営業、6月10日は営業いたしません。
上演時間:90分上演時間が110分に変更となりました。
日本語上演/英語字幕
■会場
舞台芸術公園 野外劇場「有度」
■チケット
一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、早期購入割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金があります。
STAFF / CAST
演出:宮城聰
台本:久保田梓美
音楽:棚川寛子
出演:
阿部一徳、赤松直美、泉陽二、いとうめぐみ、伊比井香織、大内米治、大高浩一、大多和芳恵、日下範子、黒須芯、桜内結う、鈴木麻里、鈴木真理子、大道無門優也、たきいみき、寺内亜矢子、中野真希、仲村悠希、前田知香、牧山祐大、美加理、山下ともち、山田裕子、山本実幸、横山央、吉植荘一郎
照明:大迫浩二
空間:木津潤平
音響:水村良
美術:深沢襟
衣裳デザイン:高橋佳代
制作:大石多佳子
製作:SPAC-静岡県舞台芸術センター 後援:インド大使館
マハーバーラタとは?
古代インドの叙事詩。バラタ族の領土をめぐる親族間の戦争を主題とする物語にさまざまな伝承・説話などが付け加えられてゆき、5世紀ころにほぼ現在の形になったといわれる。全18巻から成り、『ラーマーヤナ』とならぶインドの国民的大叙事詩である。後世のインド文化に多大な影響をおよぼし、さまざまな芸術作品を生みだした。またインドのみならず東南アジア各国の文化にも大きな影響を与えており、インドネシアのワヤンの題材にもなっている。現代演劇では、ピーター・ブルック演出(1985年フランス初演)が知られており、日本でも1988年に銀座セゾン劇場で上演され、9時間を超える上演時間とともに話題となった。今回の公演では、『マハーバーラタ』全編中、最も美しいロマンスといわれる第3巻の「ナラ王物語」を取り上げる。
コラム
『マハーバーラタ』上演に寄せて
上田紀行
宮城聰の「マハーバーラタ」が再演になる。
そのニュースを聞いた途端、私の意識は2006年10月のパリに飛ぶ。セーヌ左岸、エッフェル塔の隣に新設されたケ・ブランリー博物館の地下のクロード・レヴィ=ストロース劇場。大文化人類学者の名前を冠したその劇場のこけら落としに選ばれたク・ナウカによる「マハーバーラタ」、それは幾重にも折り重なり、分断線を設定しては超えていく燦然たる空間だった。
インドの神々の物語、演じるのは白装束に身を包む日本人、アジアアフリカラテンアメリカ渾然の音楽、動物のハリボテはバリ島のワヤン(影絵)を思い起こさせる。動く身体と台詞の発し手は分断され、融合し、日本名を与えられ日本語をしゃべるインドの神々が突然フランス語で珍妙なダジャレをかまし、そこでわき起こる会場からの爆笑が、ここがパリであることを知らせる。
パリだ。しかしパリじゃない。インドであってインドでもない。日本であって日本でもない。どこでもあってどこでもない。西洋と東洋、パリとジャポニズムなどという陳腐な構図を軽々と超えてしまう舞台。
それはこの博物館のこけら落としにふさわしかった。非西洋文明のアート、生活や宗教に根ざした展示品の数々を、ほの暗い展示空間に見事な美的感覚で配置し、文字による解説文をいっさい無くす。観覧者は不思議空間に誘われ、直に異世界と対面する。しかし同時に、全面曇りガラスの壁の向こうに見えるパリの風景は、パリもまたひとつの異世界であることを私たちに強く意識させる。そしてその中で私たちは、現代に生きる者がどこにあってもひとりの異邦人でしかないことを知らされるのだ。
異邦人であり続けること。それは私の中学時代からの同級生、宮城聰の生き方そのものだ。どこにいても居心地が悪そうで、場への同調をはぐらかすヘンな奴。しかしその居心地の悪さは私たちの時代の苦悩の先取りだった。そして私たちが新たに開いていく関係性の豊かさも、そこからしか始まらないのだ。
上田紀行(うえだ・のりゆき)
文化人類学者。東京工業大学リベラルアーツセンター教授。
著書に『生きる意味』(岩波新書)、『ダライ・ラマとの対話』、『スリランカの悪魔祓い』(講談社文庫)、『慈悲の怒りー震災後を生きる心のマネジメント』(朝日新聞出版)ほか。
※このウェブサイトに掲載の記事・写真等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。