劇評講座

2015年6月2日

■準入選■『よく生きる/死ぬためのちょっとしたレッスン』を「観て」 番場寛さん

 演劇を成り立たせているのは目の前で繰り広げられている光景を「演劇」とみなす「観客」の意識である。それは日常の物品を美術館という場で「オブジェ」と観ることを強いる、マルセル・デュシャンの「レディメイド」の「作品」と同じである。言い換えれば、演劇とは日常生活での人の眼差しを「観客の眼差し」へと変える「装置」のことなのだと思う。ではそうした装置によって生み出される「観客の眼差し」とは一体どういうものであろう? それは目の前で繰り広げられている光景を、同時にそれが別の時空で繰り広げられている光景として見ることのできる思考のことである。 続きを読む »

■準入選■【『よく生きる/死ぬための ちょっとしたレッスン』】みることについてかんがえた 大野博美さん

 ふじのくに⇔せかい演劇祭2014初日、劇場から離れ、静岡市街地にある「もくせい会館」にて「これ」が始まった。
「体験型演劇」という単語以上の予習はしていない。
「体験型」あるいは「劇場を離れて」という試みは近年のF/T(フェスティバル/トーキョー)などでも盛んに取り入れられている。
それは時として「演劇とは何か」という根源的な問いにまで遡ることにもなる。
しかし、そのような難しい問題にはひとまず目をつぶるとして、、、
そう、「目をつぶる」というのが、この演目では重要な要素であった。 続きを読む »

■入選■【ジャン×Keitaの隊長退屈男】山口侑紀さん

 コメディー作品を見たような、けれども、トンデモなく「オソロシイ」ものを見てしまった後のような。観劇後しばし呆然として立ち尽くしたその劇について、私は今書こうとしている。そんなこと出来るのだろうか? しかし言語を超えた、日々消化される悲劇のカタルシスを乗り越えたリアルの表象を、その劇は現にやってのけたのだ。 続きを読む »

■準入選■【ファウスト 第一部】渡邊敏さん

 かの有名なゲーテの「ファウスト」。私は読んだことがなく、筋を何となく知っている程度だ。名詩集か何かでレモンやすみれの花を歌った詩を読んだくらいで、ゲーテには縁がなかったのだ。ゲーテは死ぬとき、「もっと光を!」と言ったとか。
 ダンテの「神曲」を読もうとして、まだ地獄めぐりのところで挫折したことがあって、「神曲」も「ファウスト」も人間の身でありながら案内役の手引きでこの世やあの世を巡るところや、「永遠の女性」なる存在(ダンテのベアトリーチェ、ファウストのグレートへン)に導かれるところが似ている。キリスト教の世界観や、聖母マリアのような女性像が共通しているのだろう。そこで一番の共通点は、人間が知性の力ですべてを見尽くそう、知り尽くそうとし、限りなく神に近づこうとする欲望だ。これが西洋人の飽くなき理想像かしら、と思う。 続きを読む »

■入選■【ファウスト 第一部】山口侑紀さん

 「嬲」という漢字がある。なぶる。辞書によると、おもしろがって人をからかったり苦しめたりする、愚弄する、もてあそぶようにいじる、という意味の漢字であるようだ(三省堂大辞林)。SPAC「ふじのくに⇔せかい演劇祭」のパンフレット、『ファウスト 第一部』のページには、まさにこの字のような写真が使われている。金髪の美しい女性を挟んで、シャツの前をはだけた二人の男が密着している姿。女は、グレートヒェンであろう。男は、どちらかがファウストで、どちらかがメフィストであろう。観劇前の私は単純にそう考えていた。しかし、この写真、「嬲」の構図こそが、ニコラス・シュテーマン演出のこの『ファウスト 第一部』の核であったのだ。 続きを読む »

■入選■【ファウスト 第一部】大野裕果さん

「よい本」との出会いは人生を豊かにする。

だから本をたくさん読みなさい、と周りの大人に言われながら育ってきた。

しかし、人生を豊かにするよい本との出会いというものが、単に本を一冊読み終わったあとで「あー面白かった」と思うだけのものではなく、そこに記されている言葉ひとつひとつをその後の人生をかけてじっくりと自分の中に落とし込んでいきたい、と思えるようなゆったりとしたものであるということを気づかせてくれたのは、ゲーテの「ファウスト」だった。 続きを読む »

■入選■【マハーバーラタ~ナラ王の冒険~】人から世界へ、世界から人へ 中谷森さん

 森を彷徨うダマヤンティ姫が、夫・ナラ王の居場所を大樹に問いかけると、ひとふきの風が吹いてざわざわと木の葉が共鳴し、さながら野外劇場の周囲の森もまたこの祝祭に参加しているようだった。そのようにして古代より人は、物言わぬ樹に感情を与え、目に見えぬ神に形を与え、また恐ろしい獣に意志を与え、壮大な宇宙を想像してきたのだろう。 続きを読む »

2015年4月28日

ふじのくに⇔せかい演劇祭2015より劇評コンクールに

カテゴリー: 未分類

SPAC劇評塾は昨年度にて終了し、
「ふじのくに⇔せかい演劇祭2015」からは、

劇評コンクールを開催することとなりました。

批評することも「演劇活動」のひとつです。
あなたの演劇批評をお寄せください!
皆様のご応募をお待ちしています!

対象作品は、「ふじのくに⇆せかい演劇祭2015」の全ての作品です。
ご投稿いただいた劇評を、SPAC文芸部(大澤真幸、大岡淳、横山義志)が審査し、選評を公開いたします。

■最優秀賞 賞金3万円 SPACの公演に1回2名様ご招待
■優秀賞   賞金1万円 SPACの公演に1回1名様ご招待
■入選             SPACの公演に1回1名様ご招待
最優秀賞、優秀賞、入選作品はSPAC公式サイトに掲載します。

 

募集要項
◎ 字数:2,000字程度 ◎締切:批評対象の舞台を観劇後10日以内
◎投稿方法:E-mail、またはFAX、郵送(封書)でお送りください。
E-mailの場合は件名欄に、FAXの場合は1ページ目の冒頭に、郵送の場合は封筒の表書きに、「劇評コンクール」と必ずお書きください。

E-mail:mail(at)spac.or.jp  FAX:054-203-5732
住所:〒422-8005静岡市駿河区池田79-4 SPAC劇評係
※原稿には住所、氏名(ペンネームの方は本名・ペンネーム両方)、電話番号・E-mail等複数の連絡先、観劇日を明記してください。

SPAC文芸部
大澤真幸(おおさわ・まさち)……社会学者。著書に『不可能性の時代』(岩波新書)等多数。
大岡淳(おおおか・じゅん)……演出家、劇作家、批評家、パフォーマー。
横山義志(よこやま・よしじ)……西洋演劇研究。2008年パリ第10大学博士号取得。

2015年3月26日

SPAC秋のシーズン2013&『真夏の夜の夢』(2014)の投稿劇評

「SPAC秋のシーズン2013」と『真夏の夜の夢』(2014年)の
劇評塾に投稿いただいた入選作・準入選作を公開します。

『愛のおわり』(作・演出:パスカル・ランベール)
 ■入選■  渡邊敏さん
 ■準入選■ 福井保久さん

『サーカス物語』(演出:ユディ・タジュディン、作:ミヒャエル・エンデ)
 ■入選■  樫田那美紀さん
 ■準入選■ 鈴木麻里さん

『忠臣蔵』(演出:宮城聰、作:平田オリザ)
 ■準入選■ 土戸貞子さん
 ■準入選■ 平井清隆さん

『真夏の夜の夢』(演出:宮城聰、作:シェイクスピア)
 ■入選■  福井保久さん
 ■準入選■ 平井清隆さん

■準入選■【『真夏の夜の夢』演出:宮城聰、作:シェイクスピア】平井清隆さん

カテゴリー: 2014

 あー、面白かった。まずは率直な感想だ。
 見所は”盛り”沢山ある。”森”の木々に見立てた梯子付ポールが立ち並ぶセットは、にぎにぎしくも幻想的だ。その「知られざる森」で繰り広げられる人間や妖精達の、飛んだり跳ねたりのドタバタ。台詞の掛け合いや駄洒落も楽しい。そして演じる俳優達の身体能力も驚きだ。動き出すまでセットとしか見えなかったオーベロン。ポールの上で眠る芝居をするデミやライ。パックをはじめとする妖精達もしかりだ。鍛え抜かれた肉体が舞台を下支えている。ほかにも新聞紙を使った衣装や演奏など挙げればキリがない。
 それでも特筆したい事がある。「舞台設定」と「悪魔」、そして「夢」である。 続きを読む »