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2011年10月31日

アメリカツアー日記番外篇 アリストテレスのアイロニー、あるいは演劇の見方・見せ方

アメリカツアー日記番外篇 アリストテレスのアイロニー、あるいは演劇の見方・見せ方

SPAC文芸部 横山義志

以下、アメリカで考えたことのメモです。誰も待っていなかったとは思いますが、遅くなってすみません。日々の雑事に追われているうちに、ほとんど忘れかけていましたが、『ガラスの動物園』を何度も見ているうちに、ふと思い出したので、今更ですがアップしておきます。

10/4(火)

マーシャル大学で日本文化を知ってもらう活動をしているやまださんが、夜遅くまで『メデイア』公演の準備と稽古についてくれた。その稽古の合間に、「今日見てしまうともったいないから」とおっしゃっていて、「いや、稽古を見てから本番を見た方が楽しいんですよ」と言おうと思い、どう説明しようかと思っているうちに、いろいろ考えてしまった。以下に走り書きをしてみたが、結局ツアーとは直接関係のない、ややこしい話になったので、ご興味のある方は・・・。

「ネタバレ」といった言葉に象徴される「話が分かってしまうとつまらない」という発想は、アリストテレスの発明だと思う。でも、このアリストテレスのおかげで、演劇文化が貧しくなってしまった部分があるのではないか。というのは、同時代のアテナイ人からすれば、異邦人だったアリストテレスは、言ってみれば、演劇というものの見方を知らない人だったはずなのである。

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2011年10月11日

アメリカツアー日記(16)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

10/5(水)~10/8(土)

10/5(水)、いよいよアメリカツアー最後の本番日。今日は2回公演。

午前7時45分ホテルロビー集合、8時頃劇場入り。特に舞台班は数時間しか寝ていないはず。俳優陣は8時40分から30分間訓練。

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寸暇を惜しんでリズムトレーニング

寸暇を惜しんでリズム合わせ

午前10時にお昼ごはん。高校の学食メニューをご提供いただく。さすがにあまりおなかは空いていないが、とりあえず食べる。

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12時30分開演。ハンティントン高校他、近郊のいくつかの高校の学生と先生が700人ほど観劇。学校の行事があったようで、仮装している学生が多い。杖をついた老人の仮装が多いのは、高齢者向けの病院が多い土地柄を反映しているのだろう。

なぜかパジャマの子も

なぜかパジャマの子も

客席後方からスピーカー男性陣の笑い声がすると、学生たちがビクっとする。仲谷さん、ガヤガヤにまぎれて「いやー昨日あんまり寝てないんですよ」と本音。

ハンティントンにはプロの劇団はないそうで、学生はあまり舞台を見慣れていない印象。やはり子殺しの場面で「オォ」といううめき声。映画を見たあとのようにすぐに去っていこうとする学生もいる一方で、入り口の資料をしげしげと眺めている学生も。記憶に残る公演にはなっただろう。

公演後、しばしの休息。みんな、さすがにけっこうぐったりしている。

イアソンの息子は税制改革に備えて消費税法を勉強中

イアソンと息子は税制改革を見据えて消費税法を勉強中

午後5時に夕食の中華。

字幕準備中の制作大保さん

字幕準備中の制作大保さん

午後7時の回は一般公演。マーシャル大学・ハンティントン高校の日本人の先生や日本語科の学生が着物でお出迎え。

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マーシャル大学から来てくださったやまださん、かわださん

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SPAC紹介のすてきなパネルを作ってくれました

SPAC紹介のすてきなパネルを作ってくれました

ハンティントン高校は市街地から遠く、マーシャル大学演劇科の『真夏の夜の夢』公演もあるそうで、お客さんが来るか不安だったが、地元の日本の方々のご協力もあり、350人くらいのお客さんがいらしてくださった。

レディース・エンド・ジェントルメン!

レディース・アンド・ジェントルメン!

こちらはさすがに大人が多く、かなり集中して見てくれて、ほぼ全員スタンディング・オベーション。

最後のスタンディングオベーション、最後のおじぎ

最後のスタンディングオベーション、最後のおじぎ

帰り際、女性のお客さんはよく笑顔で「グレート!」「ワンダフル!」などと声をかけてくれる。男性のお客さんは複雑な顔をしていたりもする。「ハンティントンでこれだけのものを見られる機会は何年に一度。本当に来てくれてありがとう!」などと、声をかけてくださる方も。

感傷に浸る間もなく、舞台班はすぐにバラシに入る。

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午後10時半、衣裳班をのぞいてバラシ終了。お世話になったジェフさん、いたもちさん、ふくながさん、かわださん、やまださん等々にご挨拶して、劇場をあとに。ジェフさんが自宅から巨大なコーヒーメーカーを持って来てくれたり、いたもちさん他は自宅からアイロン台を持って来てくれたりして、みんな長時間付き合ってくださって、ホスピタリティに溢れるハンティントンのみなさんとの触れ合いが記憶に残る公演だった。

宮城さん阿部さん水村さん佐伯さんは次の予定のため、そのまま午前3時にホテルを出て州都チャールストンまで行ってから飛行機でワシントン空港に向かい、帰国。阿部さんは帰国後静岡に直行し、休む間もなくダニエル・ジャンヌトー演出『ガラスの動物園』の稽古入り。

阿部さんはそもそも、このアメリカツアーがあるため、『ガラスの動物園』のオーディション参加メンバーに入っていなかったが、前回ジャンヌトー演出『ブラスティッド』での演技が評価され、ジャンヌトーからのたっての希望で、厳しいスケジュールながら今回も出演することになった。『ガラスの動物園』は第一期稽古終了時の通しでもかなりいい仕上がりになっていた。ジャンヌトーの透明感のある舞台装置と沢田さんの照明で、ぞっとするほど美しい場面がいくつもある。紹介頁には稽古時の舞台写真も。乞うご期待。

http://spac.or.jp/11_autumn/glass.html

荷物が劇場からホテルに到着、もうすぐハンティントンともお別れ

荷物が劇場からホテルに到着、もうすぐハンティントンともお別れ


他のメンバーは翌日10/6(木)午後11時にホテルを出発。

10/7朝6時ワシントン空港着、荷物チェック

10/7(金)朝6時ワシントン空港着、荷物チェック

ワシントンの空港であわててお土産を探す

ワシントンの空港であわててお土産を探す

成田空港ではチーバくんがお出迎え

成田空港ではチーバくんがお出迎え

7時間のバス、14時間のフライト、4時間のバスを乗り継ぎ、10/8(土)午後8時45分、静岡芸術劇場到着。

1年以上前から準備していた『王女メデイア』との19日間の旅路。ニューヨーク、ピッツバーグ、ハンティントンと、それぞれかなり異なる文化環境のなかで7回の公演を行い、2500人くらいのお客さんと出会うことができた。今回のツアーでは、お客さん一人一人の顔がよく見えた気がする。

お客さんも、俳優一人一人をじっくり見てくれたようだ。ニューヨーク公演の記事は、スタッフと役者一人一人の名前を挙げて賞讃を惜しまず、「まさに感性の饗宴、特権的な体験である」と結んでいる。

http://www.nytheatre.com/showpage.aspx?s=mede13391

ハンティントン公演ではマーク・ウェブさんが、俳優の顔にぐっと迫ったすてきな写真を何枚も撮ってくれた。

http://www.herald-dispatch.com/multimedia/galleries/x1035081052/Gallery-Japanese-performance-group-presents-Medea-at-Huntington-High-School

宮城作品では8年ぶりのアメリカツアーだったが、今回の出会った方々の顔を思い浮かべてみると、なんだか次回はもっと早く来られるような気がしてならない。

2011年10月7日

アメリカツアー日記(15)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

10/4(火)

ワイルド、ワンダフル

ワイルド、ワンダフル

今日はウェストバージニア州知事選で学校に入れないため、集合は午後7時半。それまでは各自のんびりと。オハイオ河のほとりにある自然公園に行ったら、SPACメンバーが何人も河を眺めていた。みんな自然が恋しかったみたい。

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観光案内センターに行き、「どちらから?」と聞かれて「日本の劇団と一緒に来たんです」と答えると、「聞いてるわよ、ハンティントン高校でやるんでしょ?」と言われる。話題にはなっているようだ。

マーシャル大学日本語専攻の先生方がお手伝いに来てくださっている。ウェストバージニア州では唯一日本語が専攻できる大学なので、一学年50人くらい学生がいるとのこと。ピッツバーグの方は「ハンティントンに行ったらきっと日本人にはなかなか会わないと思うよ」とおっしゃっていたが、マーシャル大学には日本人の先生と学生も50人くらいいて、ハンティントン市全体では日本出身の方が80人くらいはいらっしゃるらしい。

「ハンティントンは意外と便利なんですよ。どこに行くにもそんなに遠くないから。ニューヨークまでも車で10時間くらいだし、ルイジアナだって16時間もあれば行けるし」とのこと。アメリカは広い・・・。

空気が乾燥しているので、俳優がのどを痛めないよう、霧を吹く。今回は舞台の奥行きが小さめなので、地がすりが再び前に垂れる。

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舞台監督岩崎さん。演出家としても活躍。

舞台監督岩崎さん。演出家としても活躍。

午後7時半にホテルのロビーに集まって、8時にハンティントン高校に到着。開票作業も無事に終わったようで、運良くすぐに劇場に入れた。州知事選の方は9時すぎにマーシャル大学大学院出身の民主党候補の勝利が確定。

メデイアのうちかけ。高橋佳代さんのデザインで、一般的な着物の柄ではなく、肌色の地に刺青の文様が柄になっている。メデイアの内面が表面に出ているイメージとのこと。

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実はメデイアの長い前髪の一部はこのうちかけに縫い付けられている。なので、この前髪はヘアメイクの梶田さんではなく、衣装部の管理。これがほつれかけてきていたので、昨日は夜中じゅう岡村さんと河尻さんで前髪を結い直していたという。

メデイアのうちかけと制作部兼(今回は)衣装部の河尻さん

メデイアのうちかけと制作部兼(今回は)衣装部の河尻さん


午後9時半頃、場当たり開始。今回は明日二回公演があり、スケジュール上ゲネが出来ない。今日多少休養できたせいもあり、俳優は心なしか、いつもにも増して気合いが入っている。クレオン(ムーバー片岡さん)が太刀を振り上げる角度を丹念に調整。イアソンのムーバー本多さんに「ムーブメントよりも何もしていない時に見ていられる体を作ること」に気を配るように、とのアドバイス。

宮城さん「美加理さん、息子が布を持ってくるところで、振り返るのを1秒くらい遅らせられるかな?もう事が起きてしまった、っていうことを認識する時間がほしいんだけど。」

美加理さん「ここはけっこう動きが詰まってるので、ここを遅らせるとあとでかなり詰めないといけないんですよね。」

宮城さん「じゃあちょっとゆっくり振り返るようにして、次のきっかけを0.5秒くらい早めるようにしようか?」等々。

俳優等は午前0時半ごろ劇場を出てホテルに。舞台班は午前3時頃まで作業だったとのこと。明日(?)は午前7時45分ホテルのロビー集合。

もうすぐハロウィン

もうすぐハロウィン

もうすぐハロウィン

2011年10月6日

アメリカツアー日記(14)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

10/3(月)

午前8時、バスに乗り込み、ピッツバーグともお別れ。途中のドライブインで中華を食べ、あとはアパラチア山脈に沿って南下し、カントリーロードをひた走る。ピッツバーグに来た時以上に、どんどん人家がまばらになっていく。いよいよディープアメリカ。

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分け入っても分け入っても青い山

午後2時頃、ハンティントンのホテルに到着。荷物を置いて15分後にロビー集合、バスで劇場に向かう。

今回の会場はハンティントン高校。

ここから劇場まで、歩いたら15分はありそう

ここから劇場まで、歩いたら15分はありそう

街中から車で15分くらいの広大な敷地。750席くらいある立派な劇場がある。マーシャル大学で働いている日本人の職員の方や、同大学で日本語を勉強している学生さん等が手伝いに来てくれる。えらく寒くて乾燥している。俳優さんがのどを痛めなければよいが。

劇場到着。俳優は完全武装。

劇場到着。俳優は完全武装。

マーシャル大学ラジオステーションによる阿部一徳さん、美加理さんのインタビュー。「演目はギリシア悲劇だけど、舞台のやり方はかなり日本的な形式。たとえば今回の舞台では子殺しの場面があって、日本の演劇ではそういう作品もあるけど、欧米の舞台では実際に舞台上で子殺しを演じることはまずないでしょう」と、阿部さん。明日午後5時ごろオンエアーとのこと。

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明日は州知事選で昼間劇場が使えないため(なんだか今回はそんな話ばかりだが)、今日できるところまで仕込む。

照明の大迫(おおさこ)さん。学生劇団時代から宮城作品の照明を作ってきた。その繊細な明かり作りは「大迫マジック」と呼ばれている。

ハンティントンの照明ブースは提灯で照明

ハンティントンの照明ブースにはなぜか提灯が

俳優他は午後8時で解散。巨大なウォールマートで買い物。

メンバーの人影が遠くなっていく・・・

メンバーの人影が遠くなっていく

舞台班・衣裳班は残って作業。予定通り(!)午前3時までの作業だったとのこと。

2011年10月4日

アメリカツアー日記(13)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

10/2(日)

ピッツバーグ一般公演本番日。

舞台班は午前9時集合。俳優は9時45分から訓練、舞台稽古で、11時に楽屋入り。

本番前のメイク風景。

「三島さん、眉毛濃すぎですよ。」「やっぱり?ちょっとやりすぎたかなと思ったんだけど。」

そこに若宮さんがやってきて、「今日、もみあげちゃんとつながってます?」

午後2時開演で、午後1時くらいからお客さんが少しずつ来はじめる。

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今回はペンシルベニア日米協会さんが主催のためか、日本語で話しかけてきてくれる方がけっこう多い。ボランティアで受付や案内をやってくれている地元の若者も、4、5人はかなり流暢に日本語が話せて、驚く。在留邦人が非常に多いわけではないようだが、ピッツバーグ大学等の日本語専攻もけっこう優秀らしい。受付ではアメリカ人女性が着物で対応。客席に行くと、私の後ろの席ではアメリカ人の大学教授らしき方が、二千円札をひろげて、『源氏物語』の「鈴虫」の帖について話している。

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通常の劇場ではないところでの公演で、お客さんに来てもらうのは大変だっただろうが、日米協会のみなさんが精力的に宣伝をしてくれたおかげで、平土間は満員。二階席にもけっこう入っていて、お客さんは300人前後だろうか。かなり集中して見てくれていた。終演後は平土間のほとんど全員がスタンディング・オベーション。

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終演してもお客さんがなかなか帰らず、ずっと舞台のうえに残っている「乳母」役のたきいさんを見ながら、日本人の留学生らしき方が「あ、さっき動いたで!やっぱり生きとるんや」などと話している。開演前、じっとしていたたきいさんがポッキーを取り出して食べ始めたら、アメリカ人の女性がびくっとして、「オーマイガッ!」と叫んだという。今日は大成功。

終演後、ピッツバーグにあるカーネギー・メロン大学演劇科三年生のテイラーさんが宮城さんを訪ねて来た。数日前、たまたまSPAC宛に「日本で演技の研修をしたいが受け入れてくれないか」というメールを出したら、なんとそのSPACがピッツバーグに来ていた、という。なんたる偶然。カーネギー・メロン大学演劇科はブロードウェイやハリウッド、テレビ俳優などを多く輩出している。来年来日の予定だそうで、いろいろお話しし、再会を期して別れる。

すぐにバラシに入る。舞台班と俳優と、お手伝いのCAPAの学生さんとで、どんどんバラして運んでいき、6時前には舞台は空に。CAPAの学生さんが「舞台もすごかったけどバラシもすごい」と感心してくれていた。

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バラシ中の音響水村さん・青木さん。

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水村さんはふだんラテン音楽などをやっているが、宮城作品は音楽の場合とかなり近いとのこと。実際、楽器の音など、かなり細かい調整が要求される。今年の演劇祭の『ヒロシマ・モナムール』は非常に繊細な音響空間を要求する作品で、フランスでは主演のヴァレリー・ラングさんが納得のいく音が作れず、音響さんが3回代えられたというが、水村さんが仕込みを担当して、ヴァレリーさんから「こんな技術を持った音響さんに出会ったのははじめて。フランスでの再演にも絶対ついてきてほしい」と言われている。そのときオペを担当した青木さんもヴァレリーさんのお気に入りで、「オペはセクシーなリョウ(注:二人ともファーストネームがリョウ)にやってほしい」とのこと。そんなに派遣したらSPACの音響さんがいなくなってしまうが・・・。青木さんはかつて清水でDJとして活躍していて、『ガラスの動物園』の選曲でもダニエル・ジャンヌトーの信頼を勝ち得ている。

衣裳の岡村さん。

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パリの舞台衣裳専門学校を卒業し、今年4月からSPAC衣裳部に。今回はいきなりツアーの衣裳責任者を任され、俳優19人分の衣裳を管理している。

もちろん一人では到底無理なので、制作河尻さんもお手伝い。人手がある時はもう二人くらいアシスタントが入る。本番中はずっと舞台裏で女優の早替えの手伝い。

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衣装部屋用簡易式ドアストッパー(バレエシューズ?)

衣装部屋専用靴型ドアストッパー

明日はウェストバージニア州ハンティントンに移動。

アメリカツアー日記(12)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

10/1(土)

宮城さん他7名は前夜ドナドナ状態でバンに乗り、泊まりがけでハンティントン会場の下見・仕込みに。午後6時出発、深夜0時ごろ到着したらしい。

今日は劇場が使えず、各部門の責任者も下見に行っているので、他のメンバーはピッツバーグでしばし戦士の休息。疲れも溜まっているし、雨が降りでやたらと寒いので(最低気温4度くらい)、ホテルに籠もっている人も多かった様子。

ニューヨークで味をしめて、ホテルのフロントで「コインランドリーはありますか?」と聞くと、「ちょっと遠いんですよね」との返答。「どのくらいですか?」「たぶん車で15分くらいかな・・・」それは遠すぎである。ニューヨークでは街中でもコインランドリーがあったが、ピッツバーグではそこまで行かないと家に洗濯機がない人は住んでいないらしい。仕方なく、部屋でほそぼそと手洗い。換気扇がちゃんとしているので、ニューヨークよりは乾く。

昼間、アフリカ系アメリカ人文化を紹介するオーガスト・ウィルソン・センターに行く。オーガスト・ウィルソン(1945-2005)は『ピッツバーグ・サイクル』十部作で知られ、アフリカ系アメリカ人としてはじめてピューリッツァー賞を受賞した劇作家。1000席くらいある立派な劇場もついている。

オーガスト・ウィルソン・センター

オーガスト・ウィルソン・センター

センターの前を通る「ピッツバーグ・オバマ・アカデミー・マーチング・バンド」

センターの前を通る「ピッツバーグ・オバマ・アカデミー・マーチング・バンド」

夜は地域劇団ピッツバーグ・パブリック・シアターの『エレクトラ』を観に行く。7時過ぎに劇場外のインド料理屋に入ると、着飾った紳士淑女がワインなど空けながら悠然と食事をしているが、7時45分にはお店はすっかり空になった。みんな8時からはじまる公演に行くわけだ。あわてて支払いを済ませて劇場へ。

ピッツバーグ・パブリック・シアターには地方自治体だけでなく、様々な企業がスポンサーとなっていて、後者のメインスポンサーの一人はなんとエレクトラさん。

ピッツバーグ・パブリック・シアターの今シーズンのテーマは「レッド・ホット」。赤いスニーカーをはいていったら、赤いベストを着たもぎりのお姉さんに「そのスニーカー、いいわね」と言われる。『メデイア』もけっこうレッド・ホットですよ、とでも言っておけばよかった。どうせ向こうも公演で見られないだろうけど。

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『エレクトラ』は650席のオレイリー劇場で、およそ一ヶ月のロングラン公演。今夜はそれなりに埋まっていた。劇団は1974年の創立で、蓄積があるのだろう。ピッツバーグではシェイクスピアやギリシア悲劇などの古典をある程度ストレートな形で見ることができるほぼ唯一の劇団なのではないか。

チケットを見せると、もぎりの方に”Have fun!(楽しんで!)”と声をかけられる。ギリシア悲劇で”Have fun!”もないだろうと思ったが、リベンジ成功で幕切れになる、たしかにけっこう後味爽快な『エレクトラ』だった。

ハンティントンにいる宮城さんからは「照明仕込みがつづいていて出発が19時過ぎになりそうで、ピッツバーグ到着は午前1時を過ぎそうです」との連絡が・・・。

明日は最低気温2度という予報。

アメリカツアー日記(11)

アメリカツアー日記(11)

SPAC文芸部 横山義志

9/30(金)

今日はCAPAの高校生向け公演とワークショップ。

舞台班は午前9時劇場集合、俳優10時から訓練。11時楽屋入り、午後2時開演。CAPAの学生と先生合わせて350人くらいが観劇。

子殺しの場面では文字通り「ハッ・・・」と息を呑む音が聞こえたり、「ワオ!」と叫ぶ子がいたり、本が落ちてくる場面では「ウオー!」と本気で驚いていたり、反応がすごくヴィヴィッドで面白い。暗転してすぐ「ブラヴォー!」と、スタンディング・オベーション。

ディスカッションでも反応がすごく素直で、「舞台のはじっこにいた変な人は誰?」といった質問に、宮城さんが「あれはメデイアの2500年後の姿で」と答えると「オー!」と叫んで、拍手が起きる。芸術専門の高校だけに、クリエーターとしてアイディアを盗もうとする貪欲さも見られる。

ディスカッションが終わってすぐに、午後4時からワークショップがはじまる。ワークショップには30人ほどの生徒と先生が参加。半分は演技コース、半分はライティング(劇作・シナリオ)コースの所属とのこと。アメリカでは地方の大学でもたいてい演劇科があり、演劇コースがある高校も少なくない。劇作を学んでいる高校生がいる、というのもアメリカの演劇文化の底辺の広さを感じさせる。

大高さんと三島さんの指導で、

・指を広げる

・座って「ホー」と声を出す、まわりと合わせながら声を極小から極大に

・足の柔軟体操

・体を押されて倒れないようにがんばってみる→丹田の説明

・片足を地面と並行に上げて下ろす

・同じ高さ・同じエネルギー・同じスピードを3分間キープしながら、足踏みして進んでいく

といったメニュー。「まわりに合わせる」という慣れない作業に、みんなちょっと戸惑いながらも、さっき見た舞台が効いたのか、すごくがんばってついてきているが、最後の3分間足踏みではさすがに息が切れていた。

やたらと柔らかい三島さん

やたらと柔らかい三島さん

アメリカツアー日記(7)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

9/26(月)

(アップが遅くなってすみません。)

午前中はコインランドリーに。ホテルの部屋でも手洗いしていたものの、天気が悪く、おまけに天井からちょっと水漏れしていて、全然乾かなかった。

コインランドリーではコインしか使えないので、両替機に深く考えずに10ドル札を入れてみたら、25セントのコインが40枚、パチンコ状態で出てきて呆然。

12時半、劇場集合で搬出、積み込み。装置類は一路ピッツバーグへ。

今回とてもお世話になったジャパン・ソサイエティーの宮井さんから、アメリカの演劇事情についてお話をうかがう。ヨーロッパでは、商業演劇は私立劇場、「芸術的」演劇は公立劇場、という大まかな棲み分けがあるが、基本的に「私立」劇場しかないアメリカでも、やはり商業演劇の劇場と、「芸術的」な演劇をやる「パブリック」な劇場とに別れているとのこと。よく名前を聞くラ・ママとか、ザ・キッチンとか、HEREアーツセンターといった劇場は、いわゆる「公立」(国や地方自治体によって設立された)というわけではないが、「非営利で公共の利益になる活動をしている」という意味で「パブリック」なのだという。

ザ・キッチン

ザ・キッチン

ラ・ママ

ラ・ママ

HEREアーツセンター

HEREアーツセンター(外から見ても分かりにくい)

ここでよかったんだ

あ、ここでよかったんだ

こういったニューヨークの有名な「非営利/パブリック」の劇場に行ってみると、大きくても200席くらい、小さいところでは70席くらいしかなくて、場所によっては設備も日本の大学の劇研程度だったりして、ヨーロッパの公共劇場を見慣れてしまうと、ちょっと意外な印象を受ける。日本で言えばアトリエ劇研やこまばアゴラ劇場のような大きさだったりする。

(ちなみにニューヨークには、ジョセフ・パップによって1967年に創設されたまさに「パブリック・シアター」という名の劇場もあり、これはニューヨーク市からほぼ無償で貸与されている建物で、99席~300席の劇場が入っている。上記の劇場よりも老舗で、こちらは『コーラスライン』や『ヘアー』などブロードウェイに行った作品も多い。『ガラスの動物園』に出てくる『ペンザンスの海賊』をミュージカルとしてヒットさせたのもこの劇場。)

ジャパン・ソサイエティーの劇場は250席くらいだったが、こういった「非営利/パブリック」の劇場のなかでは比較的規模が大きい方なのである。ブロードウェイの2000人くらい入るミュージカル劇場は、どこに行っても宣伝していて、毎日観光客でそれなりに埋まっているらしいが、商業的でない舞台を成り立たせるのは大変なようで、ザ・キッチンで働いている知り合いからは「SOLD OUTおめでとう!」というメールが届いていた。

2011年10月1日

アメリカツアー日記(10)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

9/29(木)

舞台班は午前8時劇場集合。俳優は10時からのサウンドチェックに合わせて集合。

12時半、場当たり開始。ニューヨークの劇場より奥行きが深いので、地がすりは前に垂れず、俳優の立ち位置も大幅に変わり、一場面ずつ調整していく。

いつもすてきなメイク・ヘアメイクの梶田さん。

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バラの花も梶田さんが買ってきたもの。右は美加理さん(メデイア)のかつら。近くで見ても、すごく生々しくて、人の気配すら感じる。地毛は全く見えなくなっているというが、ほとんどかつらには見えない。

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かつらの前髪をくるっと巻いてあるのは、かぶせるときに地毛の前髪がひっかからないようにして、さらにかつらの前髪がうまく左右に流れるようにするためで、こうしておくと作業がスムーズなのだという。職人技である。

この美加理さんのヘアメイクだけで45分。今回は女優が12人で、女優だけで2時間近くかかるとのこと。ふだんSPACでやるときには2人から3人のアシスタントがいるが、ツアー中はお一人で全て手がけることになる。大変な作業。

逆に本多麻紀さん(イアソン)は一見かつらのようだが、全て地毛だという。はじめは仲居の一人として出てきて髪を上げているが、イアソンとしての出番の前に髪をセットして、イアソンの出番が終わると再び結い直す。本番中も休みなしである。

中にはこんな女優も

中にはこんな女優も

アメリカツアー日記(9)

アメリカツアー日記

SPAC文芸部 横山義志

9/28(水)

朝7時40分、ホテルのロビーに集合。8時劇場入り、すぐに各自作業を開始。まずは地がすりを敷くところから。CAPAの学生さんも仕込みのお手伝い。

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字幕がテレビ画面からプロジェクターでの投影に変わったので、ネタを全て整形しなおすことに。

仕込みを手伝った俳優は午後3時に解散。舞台班は午後8時頃まで作業。

私は宣伝がてらピッツバーグ大学でメイ・スメサーストさんの授業に。アリストテレス『詩学』についての授業に出ている西洋古典文学科の学生さんたちも、けっこう公演に来てくれそう。

ピッツバーグは鉄鋼業で栄えた街。鉄鋼業が衰退してからは教育と医療に力を入れていて、今では「大学の街」として知られている。本当に街中大学だらけで、中でもピッツバーグ大学は広大な敷地の中に巨大な神殿のような建物がいくつも建っていて、かなりの壮観。

ピッツバーグ大学「学びのカテドラル」

授業があったピッツバーグ大学「学びのカテドラル」

ピッツバーグ大学の建物の一つ(だと思う)

ピッツバーグ大学の建物の一つ(だと思う)

文化にも力を注いでいるようで、街の中心地の「文化地区」には劇場がいくつもあり、アンディ・ウォーホル美術館など美術館・博物館も多い。人口からすると静岡市の半分くらいの規模だが、文化・教育に関してはえらく充実している。「小さな街のハートと、大都市の楽しみがある街」というのがモットーらしい。第二次産業が衰退してもハートで街を盛り上げるということができているいい実例かも知れない。

シアター・スクエア

シアター・スクエア

ピッツバーグ・パブリック・シアターの本拠地オレイリー・シアター

ピッツバーグ・パブリック・シアターの本拠地オレイリー・シアター

ダンス中心のバイハム・シアター

ダンス中心のバイハム・シアター