「悪徳」のよろめき
緑川夫人は右手を軽く腰に当て、ストゥールを載せた左手をそっと差し出して、早苗に語りかける。まるで絵画か彫刻のよう……と思ったら、クラーナハの絵画「アダムとイブ」を思い出した。イブが知恵の実を差し出してアダムを誘惑するように、夫人は早苗を外の世界に誘う。(ただし、後で確認したらクラーナハのイブは右手にリンゴを載せていたけれど。)それから、もうひとつ、ミロのヴィーナスに手がついたらこんな感じかもしれないとも思った。考えてみるまでもなく、誘惑者と美神の混在はこの劇の持っている「不安定」にぴったりだ。
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