SPAC版『変身』の快楽
フランツ・カフカのあまりに有名な短編小説『変身』の舞台化は、非戯曲にも関わらずこの数年の間にも幾つかの上演実績を耳にしているし、不条理文学の古典であるこの寓話が芸術家をいかに惹きつけるかを垣間見る。もっとも著名な戯曲作品である『ハムレット』や『三人姉妹』を上演するのと、『変身』を翻案・上演するのとはどこか違いがありそうだ。『変身』の魅力は、そのストーリー展開にではなくその文体、あるいは、語られる事柄と語られ方(文体)との関係の現代的特色にあるのであって、となるとこの作品は「台詞劇」には向かわず、必然、非言語領域の表現が大きな比重を占めてくることは容易に想像されるのだ。
小野寺修二は身体的パフォーマンスを駆使して重層的で抽象的な「ドラマ」世界を構築する大きな才能だ。しかしその精力的な舞台創造(量産)によって認知度が行き渡ったせいか、さほど有難がられていないようにも思う。あるいは、出来不出来のある作り手なのか・・。だが少なくとも『変身』は高い芸術性を持つ秀逸な舞台作品になっていた。 続きを読む »