コロナ禍時代の舞台の可能性と不可能性
コロナ禍時代において演劇はもはや純演劇的であることを許されていないらしい。俳優はマスクを身に着けなければならないし、演出はソーシャル・ディスタンシングを内在化しなければならない。感染防止策という演劇外のものを舞台に登場させる必然性を捏造しなければならない。
再演となる『妖怪の国の与太郎』は、このような疫学的要請にコミカルな回答を提示していた。マスクが妖怪のコスチュームに化ける。スプレーによるアルコール消毒が喜劇的な身振りとして繰り返される。SPAC芸術総監督の宮城聰の代名詞ともいうべきムーバー/スピーカー制――言葉と身体の自然なつながりの意図的な分断――へのオマージュのような演出は、2019年の初演では借り物めいたところもあったが、舞台下手にしつらえられた音楽隊とアテレコのためのスペースと、舞台中央に作られたやや小ぶりの演技スペースとの切り離しは、舞台上で縦横無尽に動いたり語ったりすることがはばかられるいま、まさに時宜を得たものであるように見えた。 続きを読む »