中野真希演出の『東海道四谷怪談』(以下『四谷怪談』と略す)は「怪談」と言ってよいのか。観劇しながらそんな思いが頭をよぎった。
あらすじは周知の通りだ。お岩が夫・伊右衛門に惨殺され幽霊となり復讐を果たす、と言うもの。日本の代表的な怪談の一つだ。しかし、怖い場面よりも、圧倒的にコミカルに笑う場面の方が多いのだ。伊藤家の乳母・お槇が伊右衛門の元を訪れる下りで、捕らわれていた小仏小平を隠すところなど、まさしくコントそのものだ。伊右衛門とお槇、伊藤喜兵衛とその孫・お梅の四人で、如何にしてお岩を排除しお梅を後添えにするかと言う悪巧みをめぐらす場面もしかりだ。企みのあくどさとは対照的に笑いが満載なのだ。場面だけではない。悪人であるはずの伊右衛門とて、人非人と非難をしたり憤りを覚えたりと言うよりも、漫才にツッコミを入れたくなるような風情に描かれている。終盤の小塩田又之丞も絵に描いたような正統派の武士であるが、それが却って可笑しみになるように描かれている。 続きを読む »