『民衆の敵』―孤立性に耐えるということ―
信じていたものが簡単に裏返り、それに対抗しようと自分の信念を貫き通そうとしてますます過激となる。そして、逆に自分が嫌っていた者とおなじように自分もなってしまうがそれに気づかず、あるいは気づいていても気づいていないフリをして、結果的に対立が深まる。ここ数年の世界の状況を顧みると、どうもこのようなことの連鎖反応であるように思える。だれも自分の間違いを認めたがらず、相手の悪いところだけを徹底的に叩く。民主主義はいつの間にか自分に反対する人間をいかに力でねじ伏せるかという陰険なゲームのようになりつつある。
『民衆の敵』はいうまでもなくイプセンの代表作だが、100年以上経ったいまも現代社会に当て嵌めて観られてしまうというのは、むしろ不幸なことなのかもしれない。とはいえ、イプセンの原作をそのまま演出したのでは、いまのわたしたちに強く訴えかけるものになるのは難しいだろう。オスターマイアー版『民衆の敵』では、イプセンを単なる古典とするのではなく、現代社会が抱える問題をダイレクトに劇に取り込んでいる。 続きを読む »