劇評講座

2017年7月12日

秋→春のシーズン2015-2016■入選■【ロミオとジュリエット】小長谷建夫さん

カテゴリー: 2015

運命の黒枠に縁どられた未熟な恋

 十四歳、いや十四歳にはまだ二週間足らぬ少女と、十六歳の少年の恋。ロミオもジュリエットも今から思えばずいぶん早熟だ。
 尤も、平均寿命の極めて短く、死が常に身近にある時代と現代を簡単には比較できない。といって、二人の恋が成熟した恋として認められるものだったというわけでもない。
 シェイクスピアにすれば、見せたかったのは子供の火遊びを一歩越えたくらいの若者の恋の危うさだったろうから、初演当時の観客にとってもこの二人は若すぎて目の離せない存在と認識されたことに間違いはあるまい。
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秋→春のシーズン2015-2016■選評■ SPAC文芸部 大岡淳

カテゴリー: 2015

 今回は応募数も多く、力の入った内容の投稿が多かったです。これは一つには、我々が提供した演目の多くが、「何も考えずに楽しめる」というよりは、むしろ「感覚や思考を刺激される」タイプの演劇だったからでしょうし、また同時に、このような挑戦的な演目に対して、「受けて立とう」という気持ちになって下さったお客様が多数おられたからでしょう。そのようなお客様の存在に我々がどれほど励まされるかは言葉には尽くせませんし、また、そのようなお客様に支えていただいていることを誇らしく思います。これからも、皆さんの期待に応えうる、質の高い活動を継続していきたいと肝に銘じた次第です。改めて御礼申し上げます。御観劇・御投稿ありがとうございました。
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秋→春のシーズン2015-2016■選評■ SPAC文芸部 横山義志

カテゴリー: 2015

 多くの劇評をお寄せいただき、本当にありがとうございました!

 今回劇評を読ませていただいて、まず何よりうれしかったのは、作品を観て自分の世界観が変わった、自分の人生を見つめなおす機会になった、あるいは生きるうえでの指針を得た、といった内容のものが多かったことです。2015秋→2016春のシーズンで上演された作品は、社会的問題よりも、どちらかというと一人一人の人生に関わる問題を中心に扱ったものが多かったためもあるのでしょう。直接に教訓を与えるような作品は全くないにも関わらず、作品を通じて、ふだんゆっくり考える機会のないことに向かい合い、ご自身で思索を深めて、何かしらの回答を導き出していらっしゃるものがほとんどでした。劇場で働いていてよかった、と実感しました。
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2016年2月13日

ふじのくに⇔せかい演劇祭2015 劇評コンクール

ふじのくに⇔せかい演劇祭2015の劇評コンクールの結果を発表いたします。

応募数は39作品、最優秀賞1作品、優秀賞2作品、入選9作品です。
たくさんのご応募をいただき誠にありがとうございました。

(お名前をクリックすると投稿いただいた劇評に飛びます。)

■最優秀賞■ 
西史夏さん(『小町風伝』)

■優秀賞■
樫田那美紀さん(『メフィストと呼ばれた男』)
森麻奈美さん(『盲点たち』)

■入選■
井出聖喜さん【「觀」という体験】(『觀 〜すべてのものに捧げるおどり〜』)
澤口さやかさん(『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』)
鈴木麻里さん【魂の垢すりエステ】(『觀 〜すべてのものに捧げるおどり〜』)
須藤千尋さん【欲望と私 ――人形という存在から――】(『聖★腹話術学園』)
西史夏さん(『例えば朝9時には誰がルーム51の角を曲がってくるかを知っていたとする』)
西史夏さん(『ベイルートでゴドーを待ちながら』)
番場寛さん【『天使バビロンに来たる』と『メフィストと呼ばれた男』を観ながら別の劇のことを想う】(『メフィストと呼ばれた男』・『天使バビロンに来たる』)
番場寛さん【宮城聰のオルタナティブとしての『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』 】(『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』)
横山也寸志さん(『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』)

■SPAC文芸部による講評■
大澤真幸
大岡淳
横山義志

ふじのくに⇔せかい演劇祭2015 作品一覧
『メフィストと呼ばれた男』(演出:宮城聰 作:トム・ラノワ)
『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』(演出:宮城聰 作:唐十郎)
『天使バビロンに来たる』(構成・演出:中島諒人 鳥の劇場)
『盲点たち』(演出:ダニエル・ジャンヌトー 作:モーリス・メーテルリンク)
『觀 〜すべてのものに捧げるおどり〜』(芸術総監督・振付:林麗珍 無垢舞蹈劇場)
『小町風伝』(演出:李潤澤 作:太田省吾)
『例えば朝9時には誰がルーム51の角を曲がってくるかを知っていたとする』(演出:大東翼、鈴木一郎太、西尾佳織)
『ベイルートでゴドーを待ちながら』(作・演出:イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー)
『聖★腹話術学園』(演出:ジャン=ミシェル・ドープ 作:アレハンドロ・ホドロフスキー)

■講評■ SPAC文芸部 大澤真幸

 今回から、コンクールの形式をとったためか、投稿された劇評の本数が多く、そして質もこれまでになく高かった。SPAC文芸部員として、このことをうれしく思う。観劇し、劇評を投稿してくださった皆さんに、お礼申しあげたい。
 投稿された劇評の傾向としては、次の二点の特徴が挙げられる。 続きを読む »

■講評■ SPAC文芸部 大岡淳

 今回寄せられた劇評はいずれもレベルが高く、(1)舞台上の表象を含めて作品の内容を読者に紹介し、(2)独自の視点で評価を下すという劇評の基本は、大半の投稿がクリアしていたと思います。ただ、(1)の紹介に多くの字数を割いてしまい、(2)の批評が手薄になってしまった投稿が多かったことが気になりました。作品を介して何かを言い当てようとしているのだが、もうひとつ手が届かない感じを、なんとか乗り越えていただきたいというのが、全体的な印象です。 続きを読む »

■講評■ SPAC文芸部 横山義志

ふじのくに⇄せかい演劇祭2015上演作品にたくさんの劇評をお寄せいただき、誠にありがとうございます。私は海外招聘の担当をしていますが、これだけいろんな風にとがった作品を多くの方が正面から受けとめてくださったのを知って、とてもうれしかったです。それだけに、今回は結果の発表がとても遅れてしまい、本当に申し訳ありません。はじめてコンクール制にしてみて、予想以上に多くの劇評をいただいたこともありますが、次回はこの反省を活かし、なるべくみなさんの観劇の記憶が薄れない時期に発表できればと存じます。 続きを読む »

■最優秀賞■【小町風伝】西史夏さん

 「エロって、男と女で随分感覚が違うんだな~」、と改めて思ったのがろくでなし子さん事件。“デコまん”とか“マンボート”とか全然エロくないし、まあ1回目に捕まった理由は自分の性器の3Dデータ配布だった訳だから、“デコまん”と“マンボート”の猥褻性は関係ないのかもしれないけれど、でもやっぱり女性器それ自体がエロ(猥褻)かっていうとそうじゃないと私は思う。 続きを読む »

■優秀賞■【メフィストと呼ばれた男】樫田那美紀さん

 この劇をなんと言おうか。私は、劇場からの帰り道、絶えずその言葉を繰り返していた。それは、観劇中から観劇後の今も、私の中に疑いを見つけてしまったからだ。この劇から受け取るメッセージは、本当に私のものなのか? 続きを読む »

■優秀賞■【盲点たち】森麻奈美さん

 避難所の光景のようだった。

 稽古場棟の一階で受付をし、普段こんなに大勢の「お客さん」を迎え入れたことがないと思われる稽古場のお手洗いに並ぶ。二階へ行くと、広い円形の体育館のような場にたくさんの人がばらばらに座り、「森の中は寒いので」とスタッフに渡されたレジャー座布団をしいている。真ん中には物販の机があり、そこでは飲み物も配っていた。そのような光景は、「避難所のよう」としか思えなかった。 続きを読む »